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超最弱!? 防御魔法の使い方  作者: カンタロウ
1章 空を覆う黒い影――ワイバーン編
8/52

1-6.かっとばせホームラン!

2022/5月22日 加筆修正を行いました。

  王都ルティーナは、もう形を失いつつある。

 炎は広がり、建物は崩壊。地面には血やワイバーンの死体が転がり、負傷した冒険者たちが苦しそうな表情でどこかを抑えている。

 明らかに疲労困憊と言った様子。


 ――まずいな。


 この状況の悪さに、戦う気力がゴッソリと削れる。リーベに対してあんなこと言ったけど、もう自信が無い。さっさと、彼女の場所を告げて逃げよう。それが彼女と冒険者をやるうえで、一番の安全策だから。



 ケンイチは、考えのまま行動し、ついに人の群れを発見した。そこは冒険者協会と少し近くて、役員と冒険者たちが大勢いた。しかし、ほとんどは負傷者とその手当ばかりで、誰一人として戦えるようには見えない。

 ハンドックとあの青い服の人を見つけれればいいのだが――淡い期待と共に周りを見渡し、ついに元気な冒険者を発見する。

 だけど、


「援軍はまだか!!」


 ある役員に詰め寄る3人の冒険者たち。彼らの表情は曇っており、正常な判断ができるように見えない。


 ――いや、そんなことよりもだ。



 中央に目を凝らす。

 収めきれない夢と希望をさらけ出した露出度の高い役員の服――「あっ」ケンイチは、声を漏らす。

 その人物は、ローナだ。

 知っている人を見つけた安心感のまま近寄る。しかしよく見れば、ローナの表情は戸惑いと困惑だった。

 ならば、助けを呼べばいいのだけれど、ローナはそれができる人間ではないらしい。この危機的状況で助けを呼ぶのに躊躇して、なんとか自分で1人で対処しようと試みている――様子だった。


 ケンイチは、足を速める。



「も、もうすぐです」


「もうすぐっていつなんだよ!」


 1人の冒険者が、ローナを押し倒した。


 ――なんて奴だ。


 ケンイチは、走った。


 

「もう終わりだ! 俺たちは死ぬんだよ」


 別の冒険者が頭を抑え、声を荒げながら走っていく。見かねた冒険者2人(たぶん仲間)が、彼を追いかけて立ち去った。



「……………」


 その通りだ。

 実際、冒険者の数は減る一方なのに、どういうわけかワイバーンは増え続けている。

 このままだと、王都は復旧不可だ。せっかく冒険者として異世界を歩めると思った矢先に、待っていたのはどうしようもない地獄。

 倒れたローナへと近寄る。


「大丈夫ですか?」


手を取り、彼女が立ち上がるのをサポートした。


「ありがとうございます」


 右手が紫に変色し、腫れあがっている。

 見たところ打撲で間違えないだろう。野球で何度か経験があるからすぐにわかった。

 ケンイチはすぐさま冷やす道具を探したが、見つからない――そもそも、炎で囲まれているのだから冷却できるものがあるわけなかった。


「私のことは大丈夫ですから。それよりも、あのワイバーンたちを……」


「そのことなんですけど……」


 自分の能力では限界があり、勝てない。アタッカーの役割をもつ人のサポートとしてなら戦えるのだが、その攻撃役が今負傷中だ。まわりを探しても代替できる人もいないし、まさに八方塞がり。


「ケンイチさん!」


 ローナに両頬を手で挟まれる。

 ケンイチの口がタコのように尖がった。


「しっかりしてください。冒険者が弱気になってどうするんですか。あなたたちの勝利を待っている人が居るんですよ」


「そんなこと言われても……どうやって戦えば――」


 見下ろしたときたまたま見えた。とても豊満でふくよかなそれは、夢と希望が詰まっているのだろうか、とても大きい。

胸元が空いているからこそ、自意識を持ち、自分たちで動く。とても………跳ねている。


「…………」


 そういえば、とケンイチは思い出した。

 リーベに助けられたときに感じたあの二つの感触は――まさか。

 無いと思っていたが実際はそこにあったのだ。ケンイチが思い描くそれが、無いと思われていたリーベの体にしっかりと接着されていた。


 ――一見た目は硬いが、実際は弾力のある柔らかさがある。


 彼女には悪いと思っている。せっかく助けてくれたのに、こんなバカみたいな話のネタにされて不憫で仕方ないはずだから絶対に彼女には言わないけど、あのワイバーンの群れを切り抜ける方法が思いついてしまったのだ。


「あぁ!!」


 ケンイチは、声を出した。

 


「ど、どうしました?」


 急に声を荒げるものだからビックリしたのだろう。ローナはビクッと体を震わせた。


「思いついたんですよ!!」


「えっと何を……?」


「ワイバーンを倒す方法を!」


「?」


 ローナは困惑しつつも、その目に光が灯されていた。



◆◇◆◇◆◇



 ケンイチは、またもや走った。

 リーベのことについては、ローナに話をしたのでいずれ助けが来るだろう――彼女が倒れている建物の正面を通る。

 噴水の横を通り、スキンヘッドの男性がスピーチをしていたステージの横を通り過ぎてすぐの建物――塔の前に立った。

 屋根は無くなっており、屋上が開いている。これはとても都合がいい、ケンイチは内心ガッツポーズをする。

 だが、これで終わりじゃない。


「どうやって行くか」


 入り口である扉の前に崩れた壁で塞がれていた。

 それによってか、塔は斜めに傾いている。


「俺がやるまで倒れないでくれよ」


 祈る気持ちで言葉を口にする。

 本来であればワイバーンと戦うまでシールドを温存させたかったが、こうなれば仕方あるまい。


「シールド」



 横向きのシールドを出現させる。


「よし」


 準備はできた。

 ケンイチは試しに触れようと手を伸ばしたが、シールドは避けた。掴めない石みたいにするりとした動きでケンイチの手から逃れて行く。



「待ってくれ、それじゃあ無理じゃねぇか!」


 誤算だった。

 まさかシールド魔法が触れないなんて考えもしなかった。

 焦りと苛立ちが募るばかり。

 なんで上手く行かないんだ、と怒りの沸点が湧いてくる。

 だから、気付かなかった。目の前のシールドに意識が捕らわれていたばかりに、後方の存在に。



「キュウ」


 甲高いその声はネズミみたいだ。

 ケンイチは振り返る。


「なんだよ! いま俺は忙しいんだ……よ……」


 全身黒い鱗に覆われた翼の生えた生物――ワイバーンがケンイチを見下ろしていたのだ。

 毛が逆立ち、一気に汗が噴き出る。


「死ぬのか、俺」


 リーベのときみたいに誰かが助けてくるという安心感が見当たらない。

 あるのは、恐怖と絶望の塊。


「…………」


 案外ワイバーンの顔は、かわいい顔をしている。

 目は真ん丸で、下を唇の間からペロペロと出す。

首をクルクル回して、まるで子犬みたいだ。頭を撫でれば仲良くなれるかとさえ考えてしまう。

 が、突然、ワイバーンは顔を近づけた。



「ギュオオオオオオオ!」



 口を大きく開いて、吠えた。

 唾がかかり、どぶのような口臭に一瞬だけ意識が飛ぶ。

 訂正しよう。可愛さは外見だけで、その中身は凶暴な生物だ。


 突然ワイバーンは飛び立つ。大きな翼を広げ、天空を舞う。

 大きな口の中から白い煙が漏れ始める。

 口を開くと、そこには黒い塊が顔を出していた。


「……ッ!」


 今からシールドを展開させるのは間に合わない――そのときだった。白い何かが飛んできて、ワイバーンの頭に直撃した。

 狙いがズレたのか火球はケンイチから外れている。しかし、安心はできない。

 口から発射された火球は、ケンイチの足元に向けて、一直線に飛んだ。

 咄嗟にケンイチは、後方のシールドを足元へと移動させる。

 地面に着弾した火球は爆風をまき散らした。幸運にも、爆発の影響によってシールドは吹き飛び、ケンイチの体を押すことになった。


「うわぁぁぁぁぁぁ!!」


 空を飛ぶ体。

 変態じみた声。

 重力と勢いのある突風は、顔に影響を与えた。

 ただただ飛ばされるがままに、一定の高さで止まる。見るとそれは、塔と同じ高さ。

 無我夢中で手を伸ばし、屋根の支柱だったものを掴んだ。まるで木を登る猿のようにしがみついたケンイチは、一度下を見る。



「な、なんだこれーーー!」


 そこに広がる景色は、絶景と程遠い。

 もしこの世に地獄があるのならまさにこういうことだろうーー中世を彷彿とされる建築物が、炎に包まれていた。

 とりあえず、姿勢を安定させるために足を伸ばし着地する。


 ワイバーンとの距離は遠いが、地面を走っている時よりも近くなっていた。

 これなら可能か――後ろにある鐘を力任せに揺らす。とにかく何度も何度も揺らして、押してを繰り返し、やがてメトロノームのように大きく動き始めた。


 ゴーン。ゴーン。ゴーン。


 王都ルティーナに鳴り響く鐘の音。



「超うるせぇ」


 近くで聞いていたケンイチは、耳を抑え大きな音に苦しんだ。

 鐘は止まることを知らない。脳を揺らすその音は、やがて天に届く。

 そうワイバーンの元に。


「キュオオオオオオオン!」


 ワイバーンが気付いた。

 急降下しつつも、火球を放ってくる。


「シールド!」


 無我夢中で、ケンイチは3枚の縦型シールドを横に展開し、火球を待った。

 硬いと思われていた物が実は柔らかい――これはもう前回の防御で証明しており、根拠はある。あとは成功するかどうかを賭けるしかない。まぁ失敗したら死ぬだけだ。



 ――ぜったい、嫌だ!! 失敗したくねぇ!!



 斜め上から落ちてくる火球がすぐそばまでやってくるのを確認し、その方向へとシールドを向ける。

 受け止めたシールドがくの字に曲がる。


「頼む!」


 ケンイチは、先輩の言葉を思い出す。

ボールが着た瞬間グっと腰をひねって、力任せに腕を振り、こう思うんだ――


「ホームラン!!」


 シールドはボヨヨーンと跳ね、火球を押し返す。

 勢いのまま飛んで行った火球は止まることを知らない。そのまま一直線に飛んで、ワイバーンへと見事直撃した。

 その光景を見ていたケンイチは、右手でガッツポーズを作り、確信する。


「いける!」


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