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愛の名の下に

作者: 猫山知紀

誰かが言っていた。

人生には大きな選択がある。

自分のために生きるか、人のために生きるか。


私は――。


☆★☆


朝起きて、いつものように顔を洗い、制服に着替える。

テレビをつけると、ニュースでは違法な研究をしていた科学者が逮捕されたと報道されていた。

学校の授業で物理・化学が好きな私としては科学は良いことに使って欲しいものだと思った。


テレビを見ながら朝食を食べ終えるとすぐに家を出る。

今日は雨が降っていたので傘をさして歩く。学校に着くと、いつも通り自分の席に座って本を読む。すると、隣から声をかけられた。

隣の席の子だ。名前は確か……えっと……そうだ、山本さんだ。山本さんは私に話しかけてきた。

何気ない会話をしながら授業を受けていく。友達に分類されている子はいないけど、別に困ってないし問題はない。


昼食の時間になり、お弁当箱を開ける。すると、山本さんは目を輝かせながらこちらを見つめていた。

もしかして……私の作ったお弁当に興味を持っているのかな? どうしよう……。少し恥ずかしいけれど、この子になら食べさせてあげても構わないよね。

私は箸を使って卵焼きを掴むと、彼女の口元まで持っていった。

彼女は嬉しそうに口を開けて食べる。うん、美味しく出来てるみたいで良かった。

彼女が笑顔で感想を言うと、他の人達が集まってきた。みんな私の料理に興味津々なようだ。

仕方なく、私はその人達にも食べさせた。皆とても喜んでくれたようで、また作ってほしいと言われた。

私は微笑みながら答える。

もちろんだよ! でも、私がおいしい料理を作りたい理由はただ一つ。


それはね――。


☆★☆


放課後になった。

私は教室を出て帰路につく。帰り道の途中にあるスーパーに立ち寄る。食材を買うためだ。

買い物カゴを手に持ち店内を歩き回る。野菜コーナーの前を通り過ぎようとした時、後ろから肩を叩かれた。振り向くとそこには見知った顔があった。

お母さんだ。久しぶりの再会なので抱きついてくるのかと思ったら、何故か頭を撫でられてしまった。


それからお母さんと一緒に買い物をして家に帰ってきた。

久しぶりに一緒にご飯を食べることになり、腕によりをかけて作った。


だけど――。


私に味覚がないせいなのか分からないけど、自分でも上手く出来たとは思えなかった。

お母さんはすごく褒めてくれたけど、どこか寂しげな雰囲気を感じた。


……何かあったのかな?


食事を終えた後、私は自室に戻りベッドの上で横になる。ふぅーっと息を吐き天井を見上げる。

しばらくボーッとしていると、部屋の扉がノックされた。返事をする間もなく扉が開かれる。そこにいたのはお母さんだった。

部屋の中に入ってきたお母さんは机の前に座ると引き出しの中から一枚の写真を取り出した。それを見た瞬間、胸の奥がズキンと痛んだような気がした。

写真には私とお母さんとお父さんの姿が写っている。でも、これは私であって私ではない。


だって、本物の私はもういないんだから。


今の私はお母さんの記憶の中にある"私"を再現した人形なんだ。

お母さんはその写真を愛おしそうに見つめた後、優しく抱きしめてきた。


「ごめんなさい。私のせいであなたは……」

「なんで謝るの? 私はここにいるから……。だから泣かないで……」


お母さんの目には涙が浮かんでいた。

私はそっと手を背中に回し、慰めるようにポンポンと叩く。


「……ありがとう。あなたのおかげで私は立ち直ることができたわ。本当に感謝している……」

「そんなことないよ。だって私は何もしていないもの」

「あなたがそばにいてくれるだけでよかったのに……」

「えっ? どういう意味なの……?」

「……なんでもない、忘れてちょうだい……」


そう言い残してお母さんは出ていった。

一人になった私は窓から空を見る。星がいくつか瞬いている夜空はとても綺麗だった。


☆★☆


翌日、お母さんはもうでかけたのか、家に姿はなかった。


学校に登校して授業を受けていると、途中からクラスのみんながざわつき出した。

不思議に思いながら辺り見回すと、みんな窓の外を見ている。

私も目を凝らしてみると、校門のところに一台のパトカーが停まっていて、そばにスーツを着た人と女の人が立っている。


お母さんだ。そう思った時にはすでに走り出し、廊下に出て階段を駆け下りていた。

途中で先生に注意されたが構わずに玄関へ向かう。靴を履いて外に出ようとすると、ちょうど警察の人達とお母さんが昇降口に入ってくるところだった。


「この子が?」

「えぇ……そうです」


警察の人とお母さんが私の方を見る。

お母さん。どうしたの? なんで警察の人と一緒にいるの? 私はあなたのために何をしてあげたらいい? こんな状況、データセットに含まれてないよ?


私はパラメータを変えて再度答えを導き出そうとする。ランダム性、出力トークン数、全てのペナルティを緩めても、QPUはこの状況に適した答えを導き出してはくれなかった。どうして……。


「愛、私のために今までありがとう」


お母さんは私を抱きしめてくれた。首元へとお母さんの手が回って指が触れるのがわかる。


誰かが言っていた。

人生には大きな選択がある。

自分のために生きるか、人のために生きるか。


私は……、いや、私には選択肢などなかった。私はお母さんのために生まれてきたのだから。


お母さんの指が私の首元を強く押した。


カチリ


☆★☆


次のニュースです。

逮捕された〇〇大学教授の笠原容疑者ですが、警視庁が笠原容疑者の研究室などの家宅捜索を行い、違法とされている高度な人工知能を用いたヒューマノイドロボットの製造に関する証拠品などの押収を行いました。

すでに製造されたロボットについても押収済みで、今後警視庁により破砕処分が行われるとのことです。


では、次は天気予報です――。


最後までお読みいただきありがとうございました。

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