婚約指輪ごとわたしを捨てた伯爵サマ
「婚約破棄だ、シア」
「……そ、そんな……」
崖に連れてこられたかと思えば、婚約指輪ごとわたしは捨てられた。そのまま、落下して……死ぬかと思った。
けれど、幸運な事に木の枝に引っ掛かり、地面には多くの落ち葉が重なっており、更に昨日は雨だったから地面が柔らかかった。だから衝撃が和らいだ。
「……わたし、死んだかと思った」
いっそ、死んでいれば楽だったかも。こんな深り森の中に突き落とされてしまっては、そう簡単に這い上がれない。
そもそも、婚約破棄され指輪ごと捨てられた事実に不快ショックを受けた。……昨日まであんなにニコニコしていた伯爵サマが、どうして……。
心当たりがあるとしたら……姉のベティでしょう。伯爵サマは最近、姉にご執心だった。ずっと狙っていたようだし、でもわたしの為と諦めてくれたはずだった。
「……お姉様を諦められなかったのね。だから、こんなヒドイ事を」
仰向けに倒れている状態で、わたしは涙をボロボロ流した。どうして、こんな事に……。
森には何もない。
危険な動物がいるだけ。
モンスターもいるでしょう。
わたしは、そのうち食べられてしまうかも。そんな恐怖もあった。……怖い、どうすればいいの。
そんな絶望の中――
一点光が現れた。
「あれは……」
「……おや、こんな所に女性が。大丈夫かい、キミ」
「あ、あなたは?」
「僕はロジャー。隣国の王子さ」
「お、王子様……」
「ああ、ここへはちょっと野暮用でね。それより、キミを助けよう。名前は?」
「わ、わたしは……シアです」
「うん、可愛い名前だね、シア」
本当かどうかわからないけど、あの身なりは王子そのものだった。彼は、わざわざわたしを運んでくれると馬車まで案内してくれた。
「本物、なの」
「なんだ、信じていなかったのかい。それで、そんなボロボロで何があったの?」
わたしは、伯爵サマから婚約破棄され崖から突き落とされた事実を離した。
「なるほど、伯爵のフレンが。その人に用事があるんだよね」
「え……」
「じゃあ、一緒に行こうか」
◆
馬車で移動し、半日掛かってようやく伯爵サマのお屋敷に辿り着く。
「……! シア、生きていたのか!!」
わたしの姿を見て驚く伯爵サマ。……許せない。けれど、今は感情を抑えよう。わたしは、馬車の中で衝撃的な事実を知った。
この分なら彼は……終わりね。
「伯爵フレン」
「な、なんだお前は!」
「僕は隣国の王子だ。あなたは我が国で闇取引を行っていた。その証拠もある! あなたを拘束する」
「ば、馬鹿な! 俺はこの国の伯爵だぞ! そんな横暴が認められるはずがない……」
「残念だが『犯罪人引き渡し条約』があるんだ。この紙に書かれている通り、伯爵、あなたを強制連行できるんだ」
「そ、そんな!!! 馬鹿な!!」
伯爵フレンは、突然現れた騎士達によって連行されていく。
「……これで終わりね」
「シア! た、助けてくれ!! シア!!」
「助けてくれ? なにをおっしゃるのですか。あなたはわたしを捨てたんですよ。指輪ごとね!!」
わたしは、彼からもらった『婚約指輪』をポケットから取り出し、伯爵に投げつけた。
「……っ!! こ、これは……この指輪……くぅぅぅ……。お前をきちんと殺しておくべきだった」
がくっと項垂れて、そんなセリフを吐いた。
――彼は捕まり、隣国へ連行された。
「ロジャー様、これからどうすれば……」
「安心しなさい。僕の城に招待するし、生活に不便はさせないよ」
「……でも」
また捨てられるのではと、少し心配になった。
「大丈夫。僕は一度この人と決めたら、最後まで面倒を見るタイプでね。シア、君を歓迎するし、ずっと傍にいてほしい」
「……ロジャー様。はいっ」
その言葉にわたしは救われた。
彼ならきっと、わたしを捨てないでいてくれる。あの悪逆非道の伯爵とは違い、彼はわたしを救ってくださった。しかも、伯爵を逮捕さえしてくれた。
なら……きっと、ロジャー様こそが運命の人。
「さあ、おいで」
「わたし、ロジャー様に好きになってもらえるよう努力します」
「その必要はない。僕は、君に一目惚れさ」
手を繋ぎ、わたしは隣国連れて行って貰った。その先で甘々な生活を送る事になった――。




