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Call my name

作者: *yuduki

Call my name


○上演時間

約1時間30分


○登場人物

・コパン、B4*能力/心読み

・エクラ

・シンシア、C1*能力/動物との会話

・レーヴ、A1*能力/炎

・オネスト、B2*能力/水

・ツァールト、B1*能力/聴力異常

・タプファー、B3*能力/風

・ロワ

・シュバルツ

・オスクリタ

プロローグ


 生徒が座っているが、誰も目を合わせない。照明は薄暗く。


ツァールト  転入生だってさ。

シンシア   転入生?

タプファー  物好きもいるもんだな。

オネスト   こんな監獄に来るなんて。

レーヴ    誰が来たって、変わらないよ。

タプファー  ここに希望なんてない。

シンシア   希望…。

タプファー  C1。変に期待すんなよ。

シンシア   …期待なんかしてないよ。

レーヴ    で?何の能力だって?

ツァールト  心読みだってさ。

オネスト   今まで出逢ったことがない。

タプファー  厄介そうな奴だな。心を読まれるなんて胸糞悪い。

レーヴ    下手に利用されそうだ。

ツァールト  情報は何か入ったら教えてやるよ。ただそれだけだ。

タプファー  何をいまさら。俺らが協力する必要なんてない。


 鐘が鳴る


シンシア   鐘だ。

タプファー  時間だ。


 レーヴ以外が立ち上がってはける


レーヴ    今日も変わらない毎日。檻の中に閉じ込められたまま。希望なんてない。この檻の中から出ることなんてできない。他人の事なんて信じられない。でも、少しだけ期待する。いつか、ここにも希望の光が差し込むんじゃないかって。それに手を伸ばしたら…。いや、全部。馬鹿な妄想だ。自分にはライラがいればいい。歪んだ世界にサヨナラを告げれる日は、きっとこない。それはそれでいいんだ。ここは規則的で心地よいから。


 二度目の鐘が鳴る


S1

 ロワとコパンが向きあっている


ロワ     お前の名は?

コパン    コパンです。

ロワ     能力は?

コパン    心読みです。

ロワ     ここの規則について説明しよう。B4

コパン    すみません。そのB4とはなんですか?

ロワ     お前の名だ。

コパン    私にはコパンと言う名が…。

ロワ     ここに文字の名はいらない。お前は今日から、B4だ。それがここのコードネーム。

コパン    B4…。コードネームとは、まるで機械のようだ。

ロワ     そうだ。君達ここの生徒は何故この学園『アビリタ』に入学したかわかるか?

コパン    異能力を持っているからです。

ロワ     つまり?

コパン    つまり…?

ロワ     世間から虐げられている。いつ能力が暴走するかわからない危険物質である反面で、多くのメリットを及ぼしてくれる可能性を多く秘めた…俺ら健常者とは違う存在。

コパン    だから、機械だと言うのですか。

ロワ     ああ、そうだ。お前らは人間の下で使われるのを待つ機械と同じだ。お前以外にこの施設に居るのは現在5人の生徒と3人の教師。ここでは時間厳守。一秒でも過ぎたなら、すぐに罰則だ。罰則があまりに続くようなら寮の部屋での謹慎とともに、大きな仕事を与える。

コパン    仕事…

ロワ     ああ、命を捧げるような仕事さ。規則の細かいことを伝えていこう。時間厳守は言った通り。鐘が鳴ったら、すぐに教室へ集まれ。不審な動きがあればすぐに拷問を受けると考えておけ。それと、脱走なんてしようと思うな。ここの周りは電気線が張られている。食事は残すな。文句はきかない。教師の言うことは絶対だ。集団行動を乱すような行動も許さん。

コパン    ……

ロワ     返事は「はい」とはっきり一度。必ず肯定の意思をみせろ。

コパン    「はい」以外の答えは?否定の返事はないのですか?

ロワ     教師の言うことは絶対だ。否定の返事など存在しない。

コパン    …はい。

ロワ     これ以上の詳しい話は、生徒同士で聞け。

コパン    はい。

ロワ     素直で良いな。期待しているよ。B4


S2

 施設の庭。シンシアが座っている。


シンシア   あっ、猫さん。


 猫を抱える


シンシア   こんなところへ来ちゃだめよ。ここには居場所も、食料だってないわ。

猫(声)   どうして?

シンシア   ここは檻の中なの。あなた達もここに居たら、嫌な気持ちになっちゃう。


コパンが下手から出てくる


猫(声)   貴方は?

シンシア   私は…大丈夫よ。ほら、すぐそこに門がある。連れて行ってあげる。


シンシア、上手に向かう


猫(声)   本当に貴方は大丈夫なの?

シンシア   ええ、大丈夫。もうおゆき。

猫(声)   貴方の名前は?

シンシア   名前…?ないわ。名前を持ってないの

猫(声)   どうして?

シンシア   誰かに見つかる前にここから出て。


上手幕内へ猫を戻して振り返る


コパン    君もここの生徒?

シンシア   貴方が、転入生?

コパン    あれ、僕ってそんなに有名?

シンシア   あっ、いや…。


 シンシアがコパンの横を通り過ぎようとする


コパン    君、名前は…?


 シンシア、足を止める


シンシア   …C1.

コパン    あっ、そうじゃなくて…。俺の名前はコパン。君の名前は?

シンシア   コパン?

コパン    そう!僕の名前。

シンシア   ここには名前なんて存在しないはずじゃない。学園長からコードネームを与えられたでしょう?

コパン    うん!でも、機械みたいだから嫌だよ。

シンシア   機械…。

コパン    どうして能力を持ってるだけで、世間の皆の機械みたいにされなきゃいけないの?僕らだって彼らと同等なはずだよ。君も学園長にコードネームをもらう前に何か名前があったんだろ?

シンシア   ……ないよ。

コパン    ない?

シンシア   私は生まれてすぐにここに売られたから。他のみんなも幼いころからここに居る。きっと自分の名前なんて覚えてないよ。だから、ずっとコードネームで呼び合ってる。君のコードネームは?

コパン    ……B4.

シンシア   心読みなのに、Bなんだね。

コパン    心読みなのに、B?どういうこと?

シンシア   アルファベットはどれだけ能力が人に危害を与えるか。そのランクなの。

コパン    君はCってことは、危害を加えないって事?

シンシア   そういう判断を学園長がしたということ。心読みなんて、危害を加える事なんてないと思ってた。Cランクに来ると思ってた。

コパン    君は何の能力なの?

シンシア   動物と会話する能力。

コパン    素敵な能力だね

シンシア   ステキ?

コパン    うん。すごく。

シンシア   こんな能力、何の価値もない。動物と会話したって意味がないわ。結局私は、能力者のできそこない。

コパン    そんなことないよ。

シンシア   君は自分に自信があるんだね。

コパン    全然。


 タプファーが下手から出てきて、二人に気づいて隠れる。


シンシア   そう?貴方は堂々としてる。ここに来て、そんな表情を見せる人、貴方だけよ。

コパン    今、ここには5人しかいないんでしょ?他の人は?ここって昔はすごく大きな学園だったんだよね?

シンシア   ……詮索なんてやめた方が良いよ。

コパン    大きな学園だって聴いていたんだ。

シンシア   ……皆、仕事に行った。

コパン    仕事。学園長も言っていたよね。それって詳しくは何なの?

シンシア   命を捧げる仕事よ。皆、いなくなった。

コパン    悲しくないの?

シンシア   悲しくなんかないわ。全部、皆が悪いの。ここにやって来て、絶望して、どうにか反抗しようとして、無力にも散っていった。

コパン    仕事の内容は君も知らないの?

シンシア   知る必要はない。私には関係ない。

コパン    外に出たいとか思わないの?反抗したいとか。

シンシア   ここで十分。ここは、監獄みたいな場所だよ。

コパン    監獄。確かにそうかもしれない。規則があまりに多い。

シンシア   でも、私みたいな人にはここで十分なの。外になんていかなくていい。ここが、心地よいから。

コパン    心地よい?

シンシア   ここの生活は毎日同じ。違いなんかない。規則的な毎日。それに守られてる。規則さえ守れば傷つく事なんて必要ないから。

コパン    つまらなくない?

シンシア   まさか。B4は質問ばっかりするね。

コパン    ああ、ごめん…。そんなつもりはなかったんだけど。

シンシア   ここではあまり知ろうとしない方が良いよ。知りたくないことを知って、下手に動きまわって、沢山の人が仕事に行ったから。


タプファーがシンシアの腕を掴む。


タプファー  C1.少し話しすぎじゃない?

シンシア   B3…。

コパン    君がB3。

タプファー  よろしくするつもりはない。俺は、C1さえいれば他の奴らがどうなろうと気にしない。仲良くして被害をこうむるのは嫌だからな。

シンシア   B3.B4は、何だか今までのみんなとは違う気がする。

タプファー  今までの奴らと同じだろうが、違かろうが関係ない。もう行こう。きっとB1がこの会話を聞いてる。きっと、面倒なことになるよ。

シンシア   でも、彼にここの仕組みを教えてあげないと、規則について教えてあげなきゃ。

タプファー  今日のC1はおかしいよ。どうして突然そんな事言い出すの?今まで、そんなことなかったのに、こいつにだけやけに優しいよ。

シンシア   それは…。

コパン    B3は僕が気に入らない?

タプファー  気に入らないね。得体のしれない物を気にいるわけがないだろ。ましてや、人の心を読めるなんて、いつ俺らの弱みを握るかわからない。そんな奴をどうやって気に入ろって言うのさ。

コパン    それでもこうやって話してくれる。

タプファー  は?

コパン    俺のコードネームはB4。名前は、コパン。

タプファー  名前?

コパン    そんな露骨に嫌そうな顔をしないでよ。

タプファー  俺らには名前なんか必要ない。

コパン    必要ない?どうして?

シンシア   ここはコードネームは成り立ってる。名前なんか使わない。

コパン    そうかな?コードネームで呼び合ってても、名前があるってすごく大事なことだと思う。

タプファー  コードネームだって名前と変わらない。

コパン    コパンって、外国の言葉で友達って意味なんだ。コードネームには、そんな意味ないだろう?

タプファー  意味?そんなもの俺らにはいらない。俺らは、健常者にとっての機械なんだから。

シンシア   ねえ、B4.トモダチってなに?

コパン    友達って言うのは…。

タプファー  うるさい!C1、本当にどうしたんだよ。変に探究心なんか持っちゃだめだ。外の世界に興味なんか持っちゃいけない。そんなことしたら、あいつらみたいに仕事に出されて、帰ってこれなくなる…。

シンシア   でも…。

タプファー  もう行こう。


 タプファーがシンシアの手を引っ張って下手へ去ろうとする

 下手からシュバルツとオスクリタがでてくる


オスクリタ  誰が騒いでいるのかと思ったら、B3とC1か

シュバルツ  そっちの顔は見たことがないな。学園長が言っていた新人か。名前は?

コパン    B4です。

シュバルツ  B4か。覚えておこう。

オスクリタ  C1.規定39条。言ってみろ。

シンシア   …いついかなる時でも、学園内は一定の静寂に満たされていなくてはならない。

オスクリタ  良く分かっているじゃないか。今の言い争いはその静寂をぶち壊していたよな。

シンシア   …はい。

シュバルツ  C1,B3.君達がそんな規定違反を起こすとは思っても見なかったよ。

シンシア   はい。

タプファー  教官。

オスクリタ  口答えか、B3

タプファー  誤解がある為、発言を許可していただきたく思います。

シュバルツ  特別に許可しよう。内容によっては規定1条、教員に対する反抗の禁止に違反することになるが、その覚悟があるのだろうな。

タプファー  教官からの許可を元に発言させていただきます。

オスクリタ  ほう。言ってみろ。

タプファー  現在声を荒げていたのは俺で、C1ではございません。C1は俺の隣に居ただけで、静寂を保っておりましたゆえ、彼女は規定を反していません。

オスクリタ  B4。君の意見を聞かせてもらおうか。


コパン、タプファーを見てから


コパン    彼の言うとおりです。静寂を保っていなかったのは僕と彼で、彼女は関係ありません。

シュバルツ  どうする?オスクリタ。

オスクリタ  今回だけは発言の内容を信用しよう。B3とB4には処罰を考える。自室で待機するように。


 シュバルツとオスクリタが下手へ去る


シンシア   B3.B4、どういうつもり?

タプファー  事実を言っただけだ。

コパン    彼が、君を守りたいみたいだったからね。

シンシア   だからって、そんな無茶…。

タプファー  C1はそんなに気にしなくていいよ。この処罰はそんなに大きくなるはずないから。

シンシア   何言ってるの?!軽い処罰でも、何をされるか…。B4だって、初日で目をつけられて、これからどうするつもりなの?

コパン    大丈夫。処罰なんてなんてことないよ。今までやってきた事に比べれば。

シンシア   何それ…。

タプファー  処罰をなめきってやがる。

コパン    B3.君を巻き込んで申し訳ない。確かに僕に関わったら、君達を危ない事に巻きこむ可能性が高い。この処罰が終わったら、君達は僕から離れた方がいいかもしれない。

タプファー  ……。

シンシア   …とにかく、寮へ向かいましょう。自室待機を求められているのに、ここに居たら、更に大変なことになるわ。

コパン    寮への行き方を知らないんだ。今も迷っていた所で…。もしよかったら、連れて行ってもらえるかな?

シンシア   こっちよ。


 S3


 ツァールトの自室。

 レーヴ、ツァールト、オネストが机を囲んでいる


レーヴ    それで、B3が自室謹慎なわけ?

ツァールト  自室待機であって、謹慎じゃないよ。

オネスト   同じようなもんだろ。C1を庇ってB4と一緒にB3が罰を受けようとしているってことだろ?くだらねえ。

レーヴ    でも意外だな。

オネスト   何が?B3がC1を助けたこと?

ツァールト  そんなのいつものことだろ?B3はC1のことを特別扱いしてる。

レーヴ    そんなことじゃない。C1が、B4に興味を示したこと。

ツァールト  意外?元から外の世界に興味があったのはC1だ。そこに外の世界を知った刺激物質がやってきた。

レーヴ    今までも沢山刺激物質がやってきた。いつもそれには興味を示さなかった。、最初は立ち去ろうとしたのに、それなのに、いつの間にか立ち止まってた。全てが不思議だよ。

オネスト   その時何の話してたわけ?

ツァールト  名前がどうとか。

オネスト   名前?名前がどうかしたわけ?

ツァールト  コードネームの話じゃない

レーヴ    そういうこと…。あいつ、名前持ってんだ…。

オネスト   コードネーム以外のって事か。

ツァールト  そう。

レーヴ    名前があるってどういう気持ちなんだろうな。コードネームとは違うってことだろ。教官たちに名前があるのと同じってことだろ。

オネスト   さあな。俺らには一生分からないよ。能力者に名前なんて必要ない。俺らは、人間に良いように使われる機械なんだから。

ツァールト  今更、変に悩むな。悩むことが無駄だって分かってるだろ?悩めば俺らだって仕事行きだ。巻き込まれるのはごめんだ。


 レーヴが俯いてからライラ(ぬいぐぐみ)を持ち上げる


レーヴ    ライラには名前があるんだよ。こいつはどんな気分なんだろうな。自分達は名前を呼ばれたって何も思わない。でも、ライラは名前を呼ばれたら、どんな思いになるんだろうって思うんだ。

ツァールト  そんなこと分からないよ。俺らには一生。

レーヴ    だから、思うんだ。自分が能力者じゃなきゃいいのにって。ライラに命を与えられる能力者になれればいいのにって。

ツァールト  Aなのに?

レーヴ    ランクとか、関係ないでしょ。やっぱりこんなこと考えるのは変なんだろうけど。

オネスト   変だよ。だって、お前は必要とされてるAなのに。能力者じゃなきゃいいって、Cランクのような能力をもてればなんて、普通は考えない。そんなの、何の利益にもならないじゃないか。お前の能力を人間どもは喉から手が出るほど欲しいのに。

ツァールト  俺も、人間になれればって思ったことはあるよ。そしたらこんな監獄に居なくても済むってね。でもそんな事言ったって意味がないんだよ。もう俺らの未来は決まってる。なのにB4がきて、全体に変な雰囲気だ。

レーヴ    変な雰囲気?

ツァールト  俺ら、今までこんなこと話したことなかったのに。名前なんて、気にしたことなかった。人間になれればなんて口にしなかった。

オネスト   …危ないな、俺らも。

ツァールト  他とは違う、か。

レーヴ    B1.

ツァールト  何?

レーヴ    処分の内容、話しあってないの?聴こえない?

ツァールト  ここから教官室まで10キロ以上の距離がある。俺の聴覚異常の能力でも、さすがに聞き取れないよ。…いや。ちょっと待て。

オネスト   どうした?!

ツァールト  しずかにして。


 少し間を開ける


ツァールト  今、B3とB4に処罰内容が出たよ。

レーヴ    何だった?

ツァールト  学園長の元で1日の奉仕活動。

レーヴ    かわいそう。

オネスト   おいおい。マジかよ…。

ツァールト  こりゃ、奉仕活動って言う名のストレス発散道具だろうな。

レーヴ    ライラ。B3、大丈夫かな…。

オネスト   一発で仕事じゃないだけましだと考えるべきなのか、自室謹慎じゃなかったことを嘆きゃいいのか、微妙だな。

ツァールト  やっぱり、なんかおかしい。

オネスト   何がだよ。

ツァールト  今までどれだけ生徒がいようと、俺らの規則的な日常は変わらなかった。いつだって同じリズムで進んでいたはずなのに、どうしてこんなことになってんだよ。 B4ひとりで、どうして、俺らはこんなに動揺してる?

オネスト   あいつがキーって事かよ?

ツァールト  そうは言いきれないけど…。

レーヴ    でも、自分は少し、気になるかも…。B4のこと。

オネスト   関わらないほうがいい。

ツァールト  そりゃそうだ。でも、もうこの学園で残ってるのは俺ら5人。関わらないっていう選択肢はもう、残ってない。

レーヴ    自分は、仕事に行きたくないよ。

ツァールト  誰だってそうだ。

オネスト   こう言う時だよな。どうして、俺らばっかりこんな思いになんなきゃいけないんだよって思うの。

レーヴ    …さっきまでの発言全部撤回する。誰が来たって、変わらない。ここに希望なんて、存在しないんだ。

ツァールト  俺らも、情報を交換するだけだったはずなのに。どうして、守り合ってるんだろう。

オネスト   人数が減ったからだ。何百人と居たこの学園から能力者が減ったからだよ。それ以上でもそれ以下でもない。

レーヴ    これ以上減ったら、自分の身が危険になるから。だから、減らさないようにしてる。それだけのことだよ。


 レーヴが上手へ立ち去る。


ツァールト  今日、俺らは何の話をしてたんだろうな。

オネスト   は?

ツァールト  いつもは情報を交換すれば終わるはずなのに。長々と話して。レーヴも最後には戻ったが、随分と人間らしくなって。

オネスト   ここには、希望なんてない。

ツァールト  …

オネスト   A1は、本当にそんなこと思ってんのかね。

ツァールト  俺は、思ってるよ。

オネスト   情報、助かったよ。


S4


 三日後。学園長の奉仕が終わってベッドに倒れているコパンとタプファー。

シンシアがコパンのベッドに、オネストがタプファーのベッド横の椅子座っている。


オネスト   よくC1のこと守ったよな。あんな所でもし教官への反抗だととられたら、絶対に行きてなんか帰れなかっただろうが。

タプファー  そりゃあ、必死だったから何も考えてなかった。


 オネスト、一瞬タプファーを見て動きを止める


オネスト   大丈夫か?C1!B3が起きたぞ


 上手からシンシアが走ってくる


シンシア   B3。体調は?凄い傷だったのよ。大丈夫?本当に、私のせいでごめんなさい…。

タプファー  体中いたいけど、何とか生きてるよ。お前のせいじゃない。大丈夫。B4は?

シンシア   まだ寝てる。

タプファー  そいつが俺を庇ってくれてたんだよ。俺よりも傷が多いと思う。看病してやって。

オネスト   どうしてB4はそんなこと?

シンシア   機械じゃない…。

オネスト   は?

シンシア   B4は、私に言ったんだよ。能力者は健常者と同等に並ぶことのできるんだって。

タプファー  あいつ、いい奴だよ。正直、あいつがいなきゃ、俺途中で意識を飛ばしたと思う。

シンシア   B4は、希望なのかもしれない…。

オネスト   希望…

タプファー  ここにある唯一の。

オネスト   B3もC1もどうしたんだよ。こいつにそんなに毒されたのか?

タプファー  B2も少なからず毒されてるよ。

オネスト   馬鹿言うなよ。どこがだよ。

タプファー  だって、今まで誰が罰を受けようと看病なんてしてこなかったのに。こうやって俺のことみててくれた。

オネスト   そんなの、人数が減ったからだ!守り合わなきゃいけない状態になったから…!

シンシア   ねえ、B2.トモダチって何か分かる?

オネスト   トモダチ?

シンシア   そう。B4が言ったんだ。自分の名前は異国の言葉で、トモダチって意味だって。ずーっと気になってるんだ。すごく温かい雰囲気がする言葉で、それが何なのか知りたくて。

オネスト   温かい何て感覚、俺は知らねえよ。

シンシア   B2は不思議な感覚がしない?B4が言う言葉には能力が込められてるみたいな、そんな感じがする。全然知らない言葉なのに、あったかくなるんだ。真っ暗な闇にスーって光が…。

オネスト   やっぱり、お前はできそこないだよ!

シンシア   B2…?

オネスト   そうやってすぐ周りの言うことに騙されて、仕事に行かされる。その未来にあらがうために周りの奴と下手に近づかない。今までそれで生きてきたんだろうが。名前がなんだ?トモダチがなんだ?外の世界がなんだ!そんなに気になるんだったら、1人で調べろ!俺を巻き込むな!

タプファー  B2.落ち着けよ。

オネスト   お前もだよ、B3.下手に動いて痛い目見るのは自分だ。最後の忠告だ。

コパン    君は優しいんだね。


 ゆっくりとコパンが起き上がる。


コパン    さすがに身体がいたむね…。C1.水をもらえるかな?

シンシア   …分かった。

オネスト   水飲み場まで距離があるんだから、俺が行く。


 オネストが下手へ去る


コパン    怒らせちゃったかな。

シンシア   私達、一緒に居ることなかったから、あれが怒ってるかはわからない…。

コパン    ずっと一緒に居たんじゃないの?

タプファー  今までは一日に一回B1の所に言って情報をもらって、それ以外は個人行動がほとんど。俺は、C1と一緒に居ることが多かったけど。

コパン    B1が情報を持ってるの?

タプファー  B1は聴覚異常の能力を持ってる。

シンシア   今もきっと自分の部屋からあっちこっちを盗み聞きして情報を集めてるんじゃないかな。あっ、B2は水の能力、B3は風の能力を持ってるんだよ。あと、A1は炎の能力。

コパン    にしたって、1日に一回しか会ってなかったんだろ?何て言うかさ…

タプファー  皆、1人が良いんだ。変な事に巻き込まれなくて済むから。1人1人が自分の好きなように規則正しい生活を送っていれば、仕事に行かなくて済むから。

コパン    何だか、寂しいね。

シンシア   そう?それが普通だった。

コパン    たった5人しかいない生徒なのに?

タプファー  でも、B4だって死にたくないだろ?

コパン    B3はどうしてC1といたの?

タプファー  C1は自分でどうのこうの出来る能力を持ってないからね。それに唯一の女子だから。

コパン    勇敢だよね。B3は。

タプファー  君には負けるけどね。

コパン    C1は傷ついてない?大丈夫?

シンシア   え…?

コパン    元気ないから。B2に何か言われたんじゃない?

シンシア   B2が言ったことに間違いはないから。


 オネストが水の入ったコップを持って下手から戻ってくる


オネスト   ほらよ。

コパン    ありがとう。早かったんだね。

オネスト   別に。

コパン    能力を使ってくれたの?

オネスト   ……

コパン    ありがとう。B2.

オネスト   お前とよろしくするつもりはない。

コパン    手厳しいなぁ。

オネスト   お前がきてから、ここが変になった。そんな危険人物と何で関わらなきゃいけないんだよ。

コパン    でも、君、凄く優しいね。

オネスト   は?

コパン    え?だって、そう言いながらこうやって看病してくれてるだろ?

オネスト   お前と居ると、こうも変な気分になるのは何だろうな。

コパン    思ったことを言っただけだよ。

オネスト   俺はもう行く。


 オネストが下手へ向かう

レーヴが下手から出てくる


オネスト   A1…

レーヴ    B2も来てたんだ。ライラも自分もびっくりだよ。

オネスト   いや、もう行くところ。A1はどうして?

レーヴ    どうして?どうせB2も何でここに居るのか、分からないでしょ。何か、ここに来なきゃいけない気がした。それだけ。

オネスト   …

レーヴ    昨日ずっとライラの気持ちを考えた。でも、結局自分にはわからなかったよ。だから、聞いてみようと思ったんだよ。名前を持った能力者とやらに。

オネスト   そう。


 オネストが下手へ去る

 レーヴがオネストを美緒く手から、コパンを見る


レーヴ    自分の名前はA1.炎の能力を持ってる。

コパン    会えてうれしいよ。A1.

レーヴ    この子はライラ。(ぬいぐるみを差し出す)

コパン    初めまして、ライラ。ライラの名前は君が付けたの?

レーヴ    生まれた時からライラはライラだった。自分の名前は覚えてなかったけど、ライラの名前は忘れなかった。それだけの話。

コパン    ライラ…。良い名前だね。

レーヴ    良い名前?

コパン    ライラは、夜とか、聖なるって意味を持ってる。特定の宗教の天使の名前にだって使われているんだ。素敵な名前だろ?

レーヴ    素敵な、名前…。

コパン    ああ、凄く素敵な。

レーヴ    名前を呼ばれるのって、どんな気持ち?

コパン    どんな?

レーヴ    自分は何も感じない。でも、意味を持つ名前なら、何か違う気持ちになるのかもしれないって思った。


 上手からツァールトがでてきて座る。(ツァールト、ピンスポ)


コパン    じゃあ、A1にも名前をあげる。

レーヴ    自分に、名前?

コパン    A1だけじゃない。C1にも、B3にも。皆に僕から名前をあげる。

シンシア   私にも?

ツァールト  くだらない。

コパン    だから、レーヴの話を聞かせて。君にピッタシの名前を挙げたいんだ。今何を考えているのか。その次はC1の。

タプファー  俺の話も?

コパン    もちろん。でも、B3の名前は何となく決まってるけどね。

タプファー  何でだよ。

コパン    昨日君と1日過ごして、思ったことがあるんだ。

レーヴ    自分たちに名前…。

コパン    話してみて。A1.それと、B3の次は他の二人のことも。教えてほしいな。


 ツァールトのスポット以外のスポットを消す


ツァールト  名前なんて、意味のないものじゃないか。A1も、B3も、C1も。何を考えてる。あんなに干渉して、あんなにも意味のないことをして、結局は死に結び付くのに…。


 上手からオネストが出てきてツァールトの隣に座る


オネスト   俺もそう思ってた。

ツァールト  B2…。

オネスト   C1が言ってたこと分かったよ。あいつは今までの奴らと何かが違う。B1も話してみれば分かるかもしれないよ。

ツァールト  くだらない。

オネスト   あいつは、多分ここに来た唯一の光だ。

ツァールト  光ね…。

オネスト   これから言う話は笑っても良いよ。俺らしくない話だから。むしろ笑ってやって。

ツァールト  ああ。終わったら十分に笑ってやるよ。

オネスト   A1が良い顔してたんだ。

ツァールト  …は?

オネスト   B3もC1も。皆良い顔してた。ずっと1人で居た俺らが、何だか変だろ?A1がライラを見て言ったんだよ。

ツァールト  昨日ずっとライラの気持ちを考えた。でも、結局自分にはわからなかったよ。だから、聞いてみようと思ったんだよ。唯一の名前を持った能力者に。

オネスト   やっぱり聞いてたんだな。

ツァールト  何の話をしているか聞いて情報を集めるのが俺の仕事だ。

オネスト   お前らしい。その時のA1.今までにないくらい優しい顔してたんだよ。着実にあいつ変わってるなって思った。

ツァールト  ……。

オネスト   皆で集まって話してると、むずがゆいのに、不思議と今まで以上に心地が良いんだ。

ツァールト  俺は1人でいい。

オネスト   俺さ、思ったことを何でも口に出すから、人と一緒に居たら多分調和を乱す。ずっとそう思ってた。

ツァールト  そうだな。さっきもC1を傷つけてた。

オネスト   そう。だから、1人でいいと思ってた。

オネスト   それでも、あいつらといたいって柄にもなく思ったんだよ。

ツァールト  …

オネスト   笑わないんだね。

ツァールト  そんなに笑ってほしいのか?

オネスト   まさか。B1も何だかんだ優しいなと思って。

ツァールト  俺が優しい?

オネスト   俺らに情報をくれてた。それに、人の気持ちに割と敏感だ。俺が笑ってほしくないの、分かってただろ?

ツァールト  だから優しい?

オネスト   B1も一緒に行こうよ。

ツァールト  そんなにあいつらと一緒に居たいなら1人で行けばいいだろ!

オネスト   お前がいないと、俺らは不利になる。

ツァールト  は?

オネスト   お前は、ここで1人になりたくないんだろ?

ツァールト  そりゃそうだ。仕事に行く可能性は減らしたい。

オネスト   だから俺らに沢山の情報をくれる。お互いの利害が一致してる。だから、一緒に行こう。B4のところに。もし危険があったら、俺らの力を集結させればいい。きっと、俺らならできるよ。

ツァールト  ……トモダチ。

オネスト   え?

ツァールト  C1が言ってただろ。どんな意味なのか。

オネスト   あぁ、B4の名前の意味だっけ?

ツァールト  互いに心を許しあって、対等に交わっている人。一緒に遊んだり、喋ったりする人。それがトモダチだ。

オネスト   これから、なれるかもしれないな。その、トモダチってやつに。

ツァールト  ……あいつら、B4に名前を貰うんだってさ。

オネスト   名前を…。B4は異国のことに詳しいみたいだもんな。

ツァールト  俺らが名前をもらって意味があるのかな

オネスト   今の俺らじゃ分からないよ。だから、つけてもらわなきゃいけない。ほら、行こうぜ。俺らも名前をもらいにさ。

ツァールト  …ああ。


S5


 学園長室。

 ロワ、シュバルツ、オスクリタが座っている


ロワ     で?新入生の様子は?

シュバルツ  B3と共に他生徒の看病を受けているようです。

ロワ     あの5人が看病を?珍しいこともあるようだ。

オスクリタ  それどころか仲良く話しこんでいるようですよ?

ロワ     ほう…。これは少々面倒なことになったみたいだな。この学園に仲良しこよしなど必要ない。そんなもの不要だ。あいつらに必要なのは機会となる為の知識と、人間への反抗をしない心。服従芯のみだ。新入生の成績は優秀だが、もし悪影響を及ぼすようならばすぐに排除しろ。

2人     かしこまりました。

シュバルツ  そういえば、学園長。

ロワ     なんだ。シュバルツ。

シュバルツ  私の名前を付けてくれたのは学園長ですよね。

ロワ     ああ。お前だけじゃなくて、オスクリタの名前も俺が付けたが

シュバルツ  俺の名前は、どういう意味なのですか?

ロワ     名前の意味?

シュバルツ  この国の名前ではないでしょう。何と言う意味を持つ言葉なのかと思いまして。

ロワ     そういうことか。どうして気になる?

オスクリタ  生徒が名前の意味と言う話をしていました。

ロワ     生徒が?

オスクリタ  どうやら、B4が異国の言葉に精通しているようです。

ロワ     ほう…。どうやら色々な知識があるようだ。成績が良い生徒なだけあるな。ただ…あまりここをかぎ回られると困るな。

オスクリタ  排除しますか?

ロワ     1週間待ってみよう。その状態で他の生徒に何かしら悪影響があるようならば、すぐに排除する。

シュバルツ  1週間ですか?あまりに短すぎるのでは…。

ロワ     次の仕事人を求められている。最初はC1のつもりだったが、心読みは丁度いい。それに彼は優秀だ。

シュバルツ  かしこまりました。

オスクリタ  それでは、私達は失礼いたします。

ロワ     待て。

オスクリタ  まだ何か?

ロワ     お前らが私に聞いたんだろう。

シュバルツ  名前ですか?

ロワ     シュバルツは黒。オスクリタは闇だ。あの頃の、私の心をそのまま名前にしたんだ。自分の戒めに。

シュバルツ  戒めですか…。

ロワ     もう行け。

オスクリタ  失礼いたします。

シュバルツ  …失礼いたします。


 オスクリタ、シュバルツが上手へ去る

 ロワがゆっくりと立ち上がる


ロワ     ここに光など必要ない。光など、苦しみを生むだけのものだから。だから、お前達は機械でいいんだ。能力を持っている限り、光に触れることはない。そうだろう?


 ロワが下手へ去る


 S6

 コパンとタプファーがベッドに座っている。

 コパンのベッドにレーヴが腰掛け、タプファーのベッドにシンシアが座っている。

 

コパン    君たちの話を聞かせて?

レーヴ    何を話せばいいかわからない。

コパン    何でもいい。何か、印象に残っている話でもいいし。

レーヴ    難しい。

タプファー  A1はずっとライラを持ってるんだけど、でも一回ライラを燃やそうとしたことあったよね。

コパン    ライラを?

レーヴ    親とのつながりなんか切れって、学園長に言われた、だから、燃やそうと思った。でも、出来なかったの。

コパン    どうして?

レーヴ    生きていればいい事がある。

シンシア   だれがそんなこと?

レーヴ    ライラが私に言ったの。

シンシア   ライラが喋ったの?

レーヴ    分かんない。でも、生きていればいつか素敵な世界が見つかるかもしれないって。いつか、導いてくれる光が現れて、自分を外に連れて行ってくれるって。だから、それを信じてた。その為には生きていなきゃいけなかった。だから、ライラと二人で一緒に居たの。

タプファー  そんなこと初めて聞いた。

レーヴ    だってこんな夢のまた夢みたいな話、笑うと思った。

シンシア   笑わないよ。

レーヴ    むしろ、笑ってほしかった。そうしたら、こんな苦しまなくてもライラを燃やして、自分も死ねたから。それに、自分も心の底から信じられてなかった。ここに、希望なんてないって思えて、でも、ライラが言ってた事を信じていたかった。だから、ずっと苦しかった。ライラがずっと励ましてくれて、それを信じて疑ってそれでも、生きるために必死になって。生きるために、希望何かないって言い続けて、教官に目をつけられないようにして、自分が絶望しないようにしてた。

コパン    A1はライラと一緒に夢を見て、生きてきたんだね。

レーヴ    だから、ライラは自分の相棒。誰にも渡さないし、傷つけさせない。ライラがいなかったら自分は死んでたから。コパンに出会ってなかったから。

コパン    A1の名前、決めたよ。

レーヴ    本当?

コパン    レーヴ。君の名前はレーヴ。

レーヴ    レーヴ?

コパン    夢と言う意味の言葉だよ。

レーヴ    レーヴ…。


 レーヴ、立ち上がってライラを持ち上げる


レーヴ    ライラ、君は名前をもらった時、こんな気持ちになったのかな?すごくむずがゆくて…(ライラで自分の顔を隠す)やけにあったかい…。これが、君の言う光ということなのかな?

コパン    喜んでもらえたんだね。

シンシア   コパン。私にも名前を付けて。

コパン    もちろん。C1はどんな性格?どうやって、この学園で生きてきたの?

シンシア   私は…。どうなんだろう…。レーヴみたいな素敵な話は何もないの。ただ、生きるために何だか必死で…。


 ツァールトとオネストが下手から出てくる


ツァールト  C1は誠実だ。誰に対しても嘘をつけない。1人1人に対応が丁寧で、人に嫌な思いをさせるようなことはしない。教官たちに対しても、俺らみたいな態度はしない。

コパン    君がB1?


 ツァールトがコパンの横にある椅子に座る。

 そのあとに続いてオネストもタプファーの隣にある椅子に座る


ツァールト  ああ。会えてうれしいよ。コパン。

コパン    こりゃ驚いたな。僕の名前を呼んでくれるとは。

ツァールト  俺の能力は

コパン    聴覚異常だろ?知ってるよ。皆から話は聞いてる。皆は君の情報のおかげでここで生きてこれたって。


 ツァールト、周りを見つめる


オネスト   なんだよ、そんな驚いた顔して。

ツァールト  …なんだか変だな。

シンシア   何が?

ツァールト  いや、何でもない。

タプファー  変なB1.

ツァールト  お前の言うこと分かった気がするよ。

オネスト   お?

ツァールト  ここは、あったかい。

シンシア   B1は元々人間味のある心を持ってるから、すぐにそれが出てきちゃったんだよ。

ツァールト  俺の心が人間味がある?

レーヴ    自分たちのこと、B1が沢山助けてくれた。面倒事に関わるのは嫌とか言いながら、自分たちのこと、見捨てないで居てくれた。

タプファー  俺らを助けてくれてたのはB1だろ?

コパン    C1.君の番だったけれど、先にB1に名前をあげてもいいかな?

シンシア   ええ。ぜひそうして。

コパン    B1.僕から君に名前のプレゼントだ。君の名前はツァールト。異国の言葉で優しいと言う意味のある名前。受け取ってもらえるかな?

ツァールト  ツァールトか。ありがたく頂戴しよう。

コパン    C1.君の名前も決めたよ。

シンシア   ホント?

コパン    ツァールトの誠実って言葉から、シンシアって名前をあげる。

シンシア   シンシア…。ありがとう。私、なんだかとっても嬉しい。

タプファー  あとは、俺とB2だな。

コパン    B3は出会ったときから決めてる。

タプファー  何?

コパン    タプファー。

タプファー  タプファー…。

コパン    勇敢って意味。

タプファー  勇敢なんて、俺を過大評価しすぎだよ。

コパン    シンシアの為に、あんな行動をして勇敢じゃないだなんて、謙虚すぎるから却下。

タプファー  でも…

コパン    (耳打ちしてから)気に入らないかい?

タプファー  …はあ。コパンが付けてくれた名前に文句はないよ。

コパン    光栄だ。

タプファー  本当に思ってるか?それ。


 コパンとタプファーが目を見合わせて笑う


コパン    さて、B2。君はどんな性格なの?

レーヴ    B2はとにかく単純。

オネスト   は?!

コパン    単純か~。

シンシア   単純って言うと何だか悪い意味に思えるけれど、彼は自分の考えに素直。それは悪いことじゃないでしょう?

コパン    もちろん。

ツァールト  ま、時々不器用さを発動して、素直とは縁遠くなるがな。

コパン    そんなところも、ある意味では素直なんじゃないかな。素直…。良いじゃないか。人に素直になれると言うことは、そう簡単にできるようなことじゃない。素敵な個性だと思うよ。君の名前は、オネスト。素直って言う意味で、オネスト。


 オネストが困ったように目を伏せる


コパン    嫌かな?

オネスト   名前をもらえたことは嬉しいよ。でも…。

レーヴ    でも?

オネスト   …でも、俺は素直なせいでシンシアを苦しめた。

シンシア   私を?

オネスト   さっきは、ごめん…。できそこないなんて言って。

シンシア   そんなこと気にしてたの?私は能力者のできそこない。なにも間違ったことは言ってないよ。

タプファー  シンシア…。

シンシア   レーヴみたいな戦う能力ではない。でも、ツァールトや、タプファー、オネスト、コパンみたいな実用的な能力でもない。できそこない。コパンは素敵な能力だって言うけど、やっぱり私は皆みたいな能力が羨ましい。

タプファー  俺は、そんな風に思ったことないよ。

シンシア   どうして?動物と話しても、ここで生きていくのに意味なんかない。

レーヴ    シンシアはここで一生生きていくの?

シンシア   分からない。

レーヴ    外に出たとき、自分の戦闘に向いた能力は向いてない。でも、シンシアの能力は違う意味で発揮できるんじゃないかな。

ツァールト  俺の能力だって、ここは人が少ないから発揮できる。外で使ったら、大洪水のように音が流れ込んできて気分を悪くするだけだ。

タプファー  俺の風の能力だって、まだ完璧に操れるわけじゃない。暴風にだってなりうる。人に迷惑をかける心配がまだまだある。

オネスト   ま、俺は人の為に使える能力の可能性が高いと言われてるけどな。

コパン    オネスト。そういうところだよ。

シンシア   …うん。皆、ありがとう。

レーヴ    これで全員に名前がついたね。

コパン    レーヴ、ツァールト、オネスト、タプファー、シンシア。

ツァールト  それに、コパン。

シンシア   夢、優しい、素直、勇敢、誠実、トモダチ…。

オネスト   シンシア。

シンシア   何?

オネスト   トモダチの意味、ツァールトが知ってたよ。

シンシア   ツァールト、トモダチって何?

ツァールト  互いに心を許しあって、対等に交わっている人。一緒に遊んだり、喋ったりする人。

シンシア   素敵な関係なんだね…。

コパン    つまり。


 五人がコパンを見つめる。


コパン    僕たちみたいな、関係ってこと。

レーヴ    まだ早い。

オネスト   そうだな。

タプファー  ま、俺とシンシアはトモダチだけどな~

レーヴ    自分もライラとはトモダチ。

ツァールト  でも、まだ、なんだな。

コパン    早くなれたらいいな。五人とトモダチに…。


 レーヴがライラをコパンに突きだす


レーヴ    コパンは心読みが能力?

コパン    あぁ、うん。一応ね。

レーヴ    ライラの心も読める?

コパン    ん~、それは難しいかもしれない。

レーヴ    じゃあ、友達になれないかも。

コパン    え?!じゃあ、誰もなれないでしょ?!

シンシア   今も私達の心を読めるの?

コパン    一応読もうと思えばね。


 コパンが首に刻まれた紋章を触る


コパン    でも、これがある限り使えないんだ。

タプファー  なにそれ?

コパン    制御紋章。

ツァールト  それって、君は今は人間と変わらないって事になるのかい?

コパン    使うことはできるよ。でも、微力の力でね。長時間使ったらすぐ倒れちまう。

シンシア   そんな紋章、いつから…。

コパン    ……生まれた時、だよ。

オネスト   それってどうやってここの試験を通ったんだよ。

コパン    人の心を読むなんて簡単だよ。その人の考えている事に心を寄せるんだ。その人の顔を見て、そこからその人の考えを読みとる。

タプファー  それが、コパンには出来るの?

コパン    きっと、みんなにもできるよ。

レーヴ    自分にはライラの思うことしかわからない。

コパン    分かる為には、沢山の人と関わらなきゃいけない。経験を積むんだ。ゲームみたいに、経験値を積んで行けばいつの間にかわかるようになることもある。

タプファー  ゲーム?

コパン    そう、ゲーム。あっ、知らない?

ツァールト  外の世界の遊ぶ道具だよな?

コパン    そう。ツァールトは物知りなんだな。でも、遊ぶ道具のこともゲームって言うし、遊び自体のこともゲームって言うよ。

レーヴ    ゲーム…。面白い?

コパン    簡単なゲームやってみるか?

シンシア   私、やってみたい。

オネスト   俺も。

コパン    ゲーム機器はないから、手でやるゲームだけど。

レーヴ    ライラでもできる?

コパン    ライラは指がないから、難しいかも。

タプファー  指を使うのか?

コパン    走り回るのでもいいけど、それだと教官にばれるだろ?俺は身体動かすのが割と好きなんだけど。

タプファー  それ以前に、今走り回れる状況じゃないだろ。

コパン    確かに。それもそうだね。

オネスト   で?コパン。どうやって遊ぶんだ?

コパン    全員両手を握って?こうやって親指を上にして。

シンシア   こう?

コパン    そう。そうしたら、僕が「いっせーの」って言ったら親指を上げるんだ。

レーヴ    全員?

コパン    ううん。上げなくても良い。一本上げても、二本上げても良い。今は六人でやるから、最大で一二本の指が上がる。

オネスト   それで?

コパン    ためしにやってみよう。いっせーの、5!


 コパン以外の全員が一本ずつあげている。


コパン    今、俺がいっせーののあと5って言っただろ?今、五本上がってるから、俺の予想が当たったって事になるの。そしたら、俺は手を一本隠す。これを順番にやっていって、一番早く手を二本とも隠した人が勝ち

オネスト   これ、本当に面白いのか?

コパン    意外とね。やってみようよ。


 スポットを消していく。騒ぐ声だけが残る(声も徐々に小さくしてBGMに変わる)


S7


 6日後

学園近くの町。

 ベンチにシュバルツとオスクリタが座って、リュックに買ったものを詰めている。


シュバルツ  これで全部か?

オスクリタ  ああ。買ってこいと言われたものはな。

シュバルツ  もう少し休憩していこう。さすがに疲れた。

オスクリタ  シュバルツ。B4についてどう思う?

シュバルツ  B4な…。あいつが来たことで学園の雰囲気ががらりと変わった。他の生徒が異常なまでに生き生きしていやがる。規則違反をしていないだけ学園長の目にはとまってないみたいだがな。

オスクリタ  規則違反をしていないのが本当に救いだ…。さもなければ一週間も命が続いていなかっただろ。あいつ。

シュバルツ  あの細かい規則の中に縛られて生きている彼らに、笑顔が見えるなんて思っても見なかったさ。

オスクリタ  学園長は厳しい規則にのっとって学園を経営している。それに何かを言うつもりは全くないんだが、どうしても腑に落ちないことがある。

シュバルツ  何だ

オスクリタ  そこまでして、彼らを仕事に出すこと。それと、俺らの名前の意味が自分への戒めだということ。

シュバルツ  仕事って実際何をやらせてるんだよ。

オスクリタ  さあな。でも、そこから帰ってきた奴なんて俺は見たことがない。

シュバルツ  命を捧げるって、本当に命を捧げてるのかな。

オスクリタ  さあな。

シュバルツ  正直、俺は今の学園の方が好きだ。生徒達が笑った事なんて今までなかった。B4は、この学園に来た光だ。

オスクリタ  なら、尚更次の仕事はB4だ。学園長は、この学園に光なんて必要ないと言っていた。

シュバルツ  どうしてだろうな…。

オスクリタ  戒めだろう?

シュバルツ  学園長は何を経験してきたんだろうな。この学園で。

オスクリタ  俺に分かると思うか?

シュバルツ  いや、分からないだろうな。学園長の過去を知る奴はもう皆あの学園から去っていった。もはや聞く当て何てねえよ。

オスクリタ  そういうことだ。

シュバルツ  なんだかなぁ…。

オスクリタ  変に詮索するなって事なのかね。

シュバルツ  そういうことなんだろうけど、やっぱり何だかな…


 ベンチの後ろからフードをかぶったエクラが出てくる


エクラ    すみません。

シュバルツ  えっ?あ?え?

エクラ    突然お声掛けしてしまってすみません。

オスクリタ  いや。別に大丈夫だが…。

エクラ    ここの街の名は何と言うのですか?

オスクリタ  ここ?

エクラ    遠くから旅をしてきたもので、私の探している町かどうかわからなくて困っているのです。

シュバルツ  ここはエクラですが。

エクラ    ここが…。良かった。

シュバルツ  お役に立てましたか?

エクラ    ええ。ありがとうございます。

シュバルツ  それならよかった。

エクラ    もう一ついいですか?

オスクリタ  何だ?


 エクラが下手を指差す。


エクラ    森は向こうですか?

オスクリタ  森?森に用事があるのか?森には何もないが。

エクラ    森の近くに用事があるのです。

シュバルツ  ええ。森はあちらです。

エクラ    ありがとう。親切な人たち。


 エクラ、下手へ去る


オスクリタ  変な奴だな。

シュバルツ  顔も隠してたしな。

オスクリタ  森の中にはアビリタしかないのに、その周辺に向かうなんて。

シュバルツ  近くになにがあったけ?

オスクリタ  町に古くからある図書館だ。

シュバルツ  ……変な奴だな。

オスクリタ  腕に変な紋章がついてたしな。

シュバルツ  そんなのついてたか?

オスクリタ  ああ。赤色の紋章が。

シュバルツ  紋章と言えば、B4にも青色の紋章がついていたなぁ。

オスクリタ  どんな紋章だ?

シュバルツ  どんな…。首にこう…青色の鎖みたいな…。

オスクリタ  多分同じだ…。

シュバルツ  は?

オスクリタ  何だろうな、あの紋章。

シュバルツ  紋章、ね…。

オスクリタ  戻るか。

シュバルツ  調べれば分かるかもしれないぞ。

オスクリタ  いらない。

シュバルツ  何で?

オスクリタ  どうせ、B4は明日で、仕事へ行く。そこに深くかかわって苦しむのは、俺たちだ。

シュバルツ  …。

オスクリタ  戻るぞ。

シュバルツ  ああ。分かったよ。


 二人が下手へ去る。

 少し間を取って上手からエクラが出てくる

 

エクラ    懐かしいと思った。何が懐かしいかはわからない。だって、昔とは町の風景は変わってた。昔のここはもっと何だか静かだった。記憶が違ったのかもしれない。でも、ここがエクラだった。俺の町だった。森の中に入って、確信した。ここは知ってる場所だって。


 フードのついたコートを脱いで捨てる


エクラ    匂いも陽の光も、何だか冷たい空気も。ここだけ世界が違うみたいに、雰囲気ががらっと変わって…。どんな所よりも、明るくて、気持ちのいい世界…。懐かしくて、懐かしくて、だから行かなきゃいけないと思った。


 エクラがふらふらしながら上手へ去る


 S8


 学園の庭。

 レーヴがライラを抱えて座っている。鼻唄をうたっている

(共にあるように/MeseMoa)

シンシアとコパンが下手から出てくる


コパン    素敵な歌だね。

レーヴ    コパン。シンシア。

シンシア   レーヴ、歌が好きなの?

レーヴ    別に。

シンシア   すごく上手。

レーヴ    そんなことない。

コパン    今の曲は?

レーヴ    何となく覚えてた曲。歌詞も、名前も分かんない。

コパン    そっか…。もう一回歌ってくれる?町に居た頃、聞いたことがある気がするんだ。どこかで…。

レーヴ    ♪(鼻唄)

コパン    もしかしたら…

レーヴ    分かったの?

コパン    分かる所まで歌い続けて。もしかしたら、歌詞が乗るかもしれない。

レーヴ    …♪


 しばらくレーヴの鼻唄が続く。


コパン    ♪無謀に思えたあの時の試練さえ愛おしい

シンシア   一致した…。

コパン    これ、俺の母さんが好きだった曲なんだ。

レーヴ    …そっか。

コパン    レーヴ。一緒に歌を覚えない?

レーヴ    歌を…。

コパン    レーヴと歌ってみたいんだ。

レーヴ    自分と…。

コパン    そう。レーヴと


 恥ずかしそうにライラで顔を隠してから


レーヴ    少しなら、覚えてやってもいい。

コパン    じゃあ、早速行こう!

レーヴ    どこに?!

コパン    僕の部屋!


 下手へ走り去る二人をシンシアが見送る


シンシア   いっちゃった。


 シンシア、レーヴが座っていた所に座る。


シンシア   コパンに初めて会ったのも、ここだったっけ。一週間なのに、凄い昔のことみたいに思える。コパンがきてから、皆変わった。皆…。もちろん私も…。


 猫の鳴き声がする


シンシア   猫?どうしたの?

猫(声)   前の人だよね?ここに人が倒れてるの。助けてあげて。

シンシア   ……ツァールト。聴こえてるよね?ツァールト。裏庭の外につながる門のすぐ横に人が倒れてるの。私1人じゃどうしようもないわ。すぐに来て。


 シンシアが上手へ去る

 エクラが舞台中央に出てきて横になる

 シンシアがエクラの腕をとって見つめている


ツァールト  シンシア。人が倒れてるってどういう…。

シンシア   ツァールト。この人、能力者かもしれない。

ツァールト  どうして?

シンシア   この紋章。これって、コパンと同じだよね…。

ツァールト  …かくまったら確実に俺らは罰則。仕事行きの可能性が高まる。

シンシア   でも、ここに連れ込むのは、可哀想。

ツァールト  だからって何とか外に出した所で、彼はこのままじゃ死んじまう。

シンシア   どっちが正解?

ツァールト  学園長に渡そう。

シンシア   でも…。

ツァールト  俺らも彼もその方が生きる確率がある。ただの人間ならなおさら、学園長に連れていけばそのまま町に返されるだろう。


 エクラがゆっくりと起き上がる


シンシア   大丈夫ですか?

エクラ    懐かしい匂い…。

ツァールト  頭でもうったか?

エクラ    君達、ここの生徒だよね?

シンシア   えっ…。

エクラ    制服。変わってない。

ツァールト  制服…。

エクラ    ここは『アビリタ』でしょ?

ツァールト  元々、ここに居たんですか?

エクラ    うん。ロワは、まだここにいるよね?

シンシア   ロワ…。学園長のことだわ。

エクラ    ロワが学園長?凄い出世だ。

ツァールト  学園長に会いに来たのか

エクラ    ロワの所に連れて行ってくれないかな?

ツァールト  君のコードネームは?

エクラ    コードネーム?何それ?

ツァールト  ここではコードネームで呼び合うのが規則だろ?

エクラ    ん~。僕がいたころにはそんな規則なかったけどなぁ。君達のコードネームは?

シンシア   C1.

ツァールト  B1.

エクラ    本当にコードネームなんだね。名前はないの?

シンシア   …

ツァールト  仲間同士で呼ぶための名前はある。でも、人に教えるような名前はない。

エクラ    そっか。まだ、僕は仲間じゃないってことか。

ツァールト  ここから出ていった人は皆戻ってこない。悪いが、俺はお前を信用できない。

エクラ    厳しいなぁ。僕の名前はエクラ。よろしくね。C1、B1.

シンシア   エクラ…。町と同じ名前じゃない。

エクラ    ロワが町の名前を付けたんだよ。僕の名前もね。

シンシア   …どういう

ツァールト  (さえぎって)学園長の所に連れて行く。

エクラ    感謝するよ。B1.

シンシア   私は…。

ツァールト  皆に連絡してきて。俺の部屋に集まるように言って。やることをすべて終えたらすぐにそっちに向かうから。

シンシア   分かった。

ツァールト  シンシア。

シンシア   何?

ツァールト  気をつけて。

シンシア   ツァールトこそ。


シンシアが下手へ去る


ツァールト  行くぞ。

エクラ    ツァールト。優しいって意味だね。

ツァールト  何だ?

エクラ    シンシアは誠実。その名前を付けた人は随分と君達のことが好きなようだね。

ツァールト  俺からお前に聞きたいことがある。

エクラ    僕に答えられることなら、何でも。

ツァールト  エクラは誰から付けてもらった。

エクラ    この名前はロワが付けてくれたんだ。さっきも言っただろう?

ツァールト  学園長が付けたって言うのか。

エクラ    うん。正確にいえば名前を交換したの。ロワって言う名前は俺が付けたあだ名なんだよ。

ツァールト  お前が付けた、あだ名?

エクラ    ロワの名前はほかにあった。でも、僕は長くて覚えられなかったんだ。だから、あだ名としてロワってつけたの

ツァールト  ロワってどういう意味だ

エクラ    王様。それがロワの名前の意味。彼がこの学園の王様になれるようにって僕が願ったの。あの頃のロワは学園長じゃなくて、教官だったから。僕のお世話係に近かったけどね。

ツァールト  お前は外に出たんだろ?

エクラ    うん。

ツァールト  外で何をしてた?何をさせられた?仕事に出されたってことだろ?なのになんで帰ってこれた?

エクラ    その人の能力によってやることは違うんじゃないかな?

ツァールト  お前の能力は?

エクラ    僕の能力?そんなものないんだよ。

ツァールト  ない?その紋章は能力制御の紋章だろ?

エクラ    何言ってるの?これは、能力を禁ずるための紋章。能力を使おうとするとそれに必要な魔力を吸っちゃう。だから、僕は能力がもう使えないんだよ。

ツァールト  能力を禁ずるための紋章…。

エクラ    そう。そろそろ良いかな?B1.僕、はやくロワに会いたいんだ。

ツァールト  …ああ。悪かったよ。案内するよ。

エクラ    今、この学園のことを知りたい君に一つだけ教えてあげる。

ツァールト  何だ。

エクラ    仕事って何だと思う?

ツァールト  それを俺達はずっと知りたがってる。

エクラ    僕等は意外と自由だよ。多分ね。これがヒント。さ、行こうか


 エクラが下手へ去る


ツァールト  何なんだよ…。分かるわけないだろうが。


 S9

 ツァールトの部屋

 ツァールト以外の5人が集まっている


タプファー  で?どうしたの?急いで集まってって。

シンシア   昔、ここの生徒だった人が、さっき来たの。

オネスト   そんなわけないじゃん。だって、ここを出たってことは、仕事に行ってってことだろ?

シンシア   でも、ここの生徒だった。学園長の名前を知ってた。腕に、コパンと同じ紋章があった。

コパン    これと同じ紋章?

シンシア   間違いないわ。その紋章だった。

レーヴ    コードネームは?

シンシア   その人がいたころにコードネームなんてなかったって聞いた。

オネスト   コードネームがなかった?!

シンシア   エクラ。それが自分の名前だって。

コパン    ……

オネスト   そんなことありえるのか?

タプファー  ここに居る一番の古株はツァールトだけど。

シンシア   でも、ツァールトでもそのころを知らなった。

タプファー  俺らがそのころを知っているわけがない。

レーヴ    他になにいか言ってなかった?

シンシア   ……学園長のこと、凄い出世だって言ってた。

コパン    学園長が学園長じゃない頃を知っているってことは、それ本当に相当な古株じゃないのか?

オネスト   相当だよ。本当に初期の能力者だ。

シンシア   でも、私達とほとんど変わらない年の子だった。

コパン    ……あいつ、何で来た。

タプファー  どうかしたか?

コパン    いや。その紋章。何色だった?そいつの髪色は?

シンシア   紋章は赤だった。髪色は…。黒に赤のメッシュが入ってたと思う。それがどうかした?

コパン    いや。何でもない。

シンシア   そう?

オネスト   変なコパン。

レーヴ    そいつ、今はどこに居るの?

シンシア   今ツァールトが学園長室に連れていってる。多分、しばらくは盗聴して、それから帰ってくると思う。

レーヴ    そう。で、コパンから言うことは何もないの?

コパン    この紋章。俺は能力制御の紋章だが、多分そいつが付けてられた紋章は、能力封じの紋章。その紋章が消えない限り、能力が使えなくなる紋章だ。

オネスト   人の手で能力を封じられるって事かよ。

コパン    ああ。

レーヴ    コパンはその紋章を生まれた時に付けられたって言ったよね?そいつは、この学園から出て言った後に付けられた。外見が、僕たちと同じくらいの人間。でも、すごい古株。

オネスト   謎が多すぎるって。

レーヴ    タプファー。黙ってどうしたの?

タプファー  いや、昔聞いたことがあるなって思って。一定の年から老うことのない能力があるって。でも、詳しく思いだせないんだよ。

シンシア   不老ってことだよね。

タプファー  ああ。

レーヴ    何か、嫌な予感がするね、ライラ…。


 ドアのあく音がする

 上手からツァールトが入ってくる。


コパン    ツァールト。

オネスト   大体の話はシンシアから聞いたよ。

レーヴ    そいつ、本当に学園長と知り合いだったの?

ツァールト  知り合いなんてもんじゃないだろうな。

シンシア   どういうこと?

ツァールト  あいつの名前を付けたのは学園長だ。学園長が今名乗ってるロワって名前も本名じゃない。あいつが学園長につけたあだ名だ。

レーヴ    は?頭がこんがらがるんだけど。あの学園長が人に名前を与えたってことだよな。

ツァールト  それとは別に、聞きたいことがある。おい、コパン。

コパン    何?

ツァールト  お前、どこから来た。

コパン    どうして?

ツァールト  あいつが、出先でそれと同じ紋章をもらってきたからだよ。自分の意思でな。

レーヴ    自分の意思で、能力を失った…?

ツァールト  お前も、そこから来たんじゃないのか。仕事から、帰って来たんじゃないのか。

タプファー  ツァールト。先に彼のことを教えて。これじゃ、俺らが話しについて行けそうにない。

ツァールト  俺は、学園長室の前にあいつを置いて少し距離を置いた位置で盗聴してた。確かに、あの二人は仲が良いと言うよりも、学園長があいつのことを特別に見ていた。


 六人が上手と下手に分かれて去る

 ロワが上手から、エクラが下手から出てくる


ロワ     ノックもせず、誰だ。

エクラ    やあ、ロワ。厳しい言葉遣いになっちゃったね。

ロワ     ……エクラ。

エクラ    久しぶりだね。ロワは年を取った。

ロワ     どうしてここに…。

エクラ    ロワに会いたくてね。

ロワ     俺のことを忘れないで居てくれたんだな。

エクラ    僕が忘れるとでも思ったの?

ロワ     本当にお前の能力は不老なんだな。別れた頃と、全く変わっていない。

エクラ    …

ロワ     どうした?エクラ。

エクラ    僕、もうただの人間なんだ。ロワと同じでね。

ロワ     どういうことだ。

エクラ    この紋章。能力封じの紋章なんだ。

ロワ     そんなもの、誰に付けられたんだ。

エクラ    僕が望んでつけたんだよ。あの工場が作り上げたんだよ。使えない能力者の処分の為に。僕は望んだの。もう、能力なんていらないって。自由になりたいって。

ロワ     お前以外の仕事に言った奴らは皆そうなのか。

エクラ    まさか。臨んだ人が僕一人とは言わなくても、多くの能力者はみんなそのまま。

ロワ     お前はのぞんだのか。それを…。

エクラ    僕、さすがに疲れちゃったもん。この仕事が終わったら、本当に自由になれるんだ。そしたら、ロワの横でゆっくり眠ろうかな。

ロワ     何言ってんだ。

エクラ    冗談だって。

ロワ     そうだ、お茶を淹れてやろう。

エクラ    ロワの居れるお茶は苦くて嫌いだな。

ロワ     何年たってると思ってる?お茶の入れ方くらいちゃんと学んださ。さあ。


 ロワとエクラが上手へ去る

 六人がそれぞれ下手と上手から出てくる


ツァールト  この紋章は仕事先で開発されたものなんだろ。お前はそこに居たんだろ?

コパン    僕は、ここに初めて来た。それは、嘘じゃない。ツァールトが聞いたことも、確かにあってる。僕はあそこから逃げてきた。でも、僕はここに来たことはないんだ。

シンシア   じゃあ、どうして仕事先に?

コパン    …親に売られた。それだけだよ。

レーヴ    親に、売られた…?コパンが…?

コパン    ああ。4年前にね。親に売られたんだ。心が読める息子なんて扱いにくいって。

オネスト   でも、どうしてここに?

コパン    エクラ…向こうではA001って言う名前だけど、あいつがここは良い所だって言ってた。俺、仕事上あいつのパートナーだから。

タプファー  どうだ?ここは?

コパン    あいつの言ってた姿は跡かたもなかったよ。でも、ここに居れば、もしかしたら、何か違う世界が広がるかもしれないと思った。俺はこの紋章を望んで付けたんだ。そうすれば、両親が迎えに来てくれるかもしれないって思った。その反面で、本当の人間になることは怖かった。今まで、能力者として生きてきた自分が突然健常者になることに抵抗があったんだ。中途半端な気持ちのまま、幸せを求めてここに来た。

レーヴ    コパンにとって、ここは幸せな場所じゃないかもしれないけど、僕にとってはコパンに出会えた幸せな場所になった。

シンシア   私も。コパンに出会えてなかったら、私は、ここのみんなと仲良くなれてなかった。

オネスト   名前を呼ばれる喜びを感じることもなかった。

ツァールト  いつ、生きることに価値を見いだせなくなってたかわからない。

タプファー  つまり、お前がここに来た事って、俺らにとってはプラスしかなかったってこと。お前にとっては?マイナスしかなかった?

コパン    まさか…。健常者になってたら、皆に会うことはなかった。プラスしかないよ。

ツァールト  なあ、コパン。どうして、お前はここに逃げてきたんだ?仕事って何をしてるんだ。

コパン    俺らは暗殺部隊だった。

タプファー  暗殺?!

コパン    依頼を受けた人間を色々な力を使って暗殺する。それが俺らの仕事。他にも色々あった。でも、一様に言えるのは俺らは機械で、ご主人に命を捧げ、戦う必要があった。

オネスト   命を捧げる。本当だったんだな。

コパン    俺の能力は、ただ相手に近づいて、警戒心が薄れたことを確認することに有効だった。それぞれの特性を生かして、健常者には違法な事を普通にやらせるんだ。

ツァールト  何が、俺達は、自由だ…。

コパン    それ、あいつが言ったの?

ツァールト  ああ。

コパン    まあ、確かに自由なんだよ。無法だから。でも、そんな自由。求めないだろう?

オネスト   まあな…。

タプファー  なあ

コパン    どうした?

タプファー  どうして学園長は、この学園の仕組みを変えて行ったんだろう。きっと、彼が学園長になって、学校の仕組みが変わったんだろう?どうしてだろう。

レーヴ    コパン。

コパン    何?

レーヴ    エクラと、シュバルツ、オスクリタの意味を教えて。

コパン    えっ?えっと…。エクラが光。シュバルツが黒で、オスクリタが闇。

シンシア   それがどうかしたの?

レーヴ    教官の名前は、学園長が付けたって、昔聞いたことがある。この学園用の名前だって。

タプファー  学園長が付けた名前が、綺麗に逆転してる。

オネスト   エクラ関係で何かあったと考えるのが妥当だろうな~。

ツァールト  …そろそろ教官の見回りの時間だ。

シンシア   今日は一旦解散だね。

ツァールト  明日、またここに集合しよう。

レーヴ    分かった。それぞれ、情報を集められれば集めよう。教官に見つかったら負けだけど。

オネスト   そんなへま、今更するかよ。

タプファー  コパンもそんなへこむなよ。

コパン    へこんでないよ。大丈夫。……みんな。ありがとう。

シンシア   コパン。私達、トモダチでしょ?

レーヴ    ライラの気持ちは分からなくても、友達だって認めてやってるんだから。何をいまさら。

オネスト   俺らこそ、お前に感謝してんだからな。

タプファー  これくらいやらせろ。

ツァールト  俺らが好きでやってることだ。お前がお礼を言う必要なんかない。

コパン    …ああ。


 S10

 翌日。鐘が鳴る


ロワ     生徒ども集合だ!


 六人が上手・下手から走って出てきて上手側に一列に並ぶ。

 ロワ・シュバルツ・オスクリタが下手側に並ぶ


ロワ     朝早くから集まってもらったのはほかでもない。残念なことに、ここに重大な規則違反を起こした者がいる。私は残念に思うよ。なあ、B4.

コパン    はい。

ロワ     前に来い。


 コパン、ロワの前に立つ。

 ロワがコパンの顎を掴んで上を向かせる。


ロワ     この紋章は、能力を封じる紋章だな。

コパン    …はい。

ロワ     つまり、お前は今、能力を使えないと言うことだな。

タプファー  それはちがっ。


 ツァールトがタプファーの口をふさぐ


コパン    はい。

ロワ     B4。お前に3日の自室謹慎を言い渡す。そのあとの処分はこちらで決める。いいな。

コパン    はい。

ロワ     他の奴らも全員三日間自室からでることのないように。

五人     …はい。


 ロワが下手へ去る

 シュバルツとオスクリタがコパンを立ちあがらせて、下手へ促す


シュバルツ  お前らも自室へ戻れ。

オスクリタ  自室から出るんじゃないぞ。

コパン    みんな、ごめん。


 三人が下手へ去る


ツァールト  コパンが謝ることじゃないっつうの。

シンシア   でも、コパンはまた、仕事場に戻ることになっちゃう…。

オネスト   せっかく、逃げてきたのに…。

レーヴ    希望を持って、勇気を出して、覚悟を持って…。

タプファー  とりあえず、三日間。どうにか連絡を取り合って、どうにか、コパンを助けなきゃ。

ツァールト  自室の壁は薄い。もしかしたら、声が届くかもしれない。少なくとも部屋が隣なら何かしら、コミュニケーションはとれる。今は、指示に従って自室に戻って、やれることを考えよう。


 それぞれが散り散りになって、舞台に座る。

 コパンがゆっくり下手から出てきてタプファーの横に座る


コパン    シンシアの為に、あんな行動をして勇敢じゃないだなんて、謙虚すぎるから却下。

タプファー  でも…

コパン    僕等の危機に助けてくれるような人になってほしい。そう言う願いをこめちゃ、ダメかな?気に入らないかい?

コパン    タプファーはシンシアのこと、好きだよね?

タプファー  ああ。

コパン    あれ?意外と素直。

タプファー  お前の思っているような話じゃないよ。これから言うことは、シンシアには言うなよ。

コパン    うん。

タプファー  俺はあいつを守らなきゃならないんだよ。

コパン    ならない?義務感?

タプファー  だって、俺とシンシアは、兄妹だから。

コパン    兄妹?!

タプファー  つっても、シンシアはこっちに来てから1回記憶をなくしてるから、知らないだろうけど。

コパン    だから、守ってあげなきゃいけないの?

タプファー  ああ。約束したから。俺があいつを助けてあげるって。

コパン    いい兄ちゃんだな。

タプファー  ま、俺はお前が付けてくれた名前に恥じないように、皆を守るけどな。

コパン    …っ。それは、頼もしいなぁ。


タプファー  くっそ。何が勇敢だよ…。どうやって、助ければいいんだよ…。頼もしいのは、いつだってお前で、お前の背中がなきゃ、今じゃもう、怖くて怖くて仕方ねえよ。コパン。


 コパンがシンシアと背中合わせに立つ


コパン    小さい頃の記憶?

シンシア   そう。コパンにはある?

コパン    一応ね。と言っても昔も今も、そんなに変わらないけど…。

シンシア   ここの皆、親の名前も顔も覚えてない人が多いの。でも、何かしら覚えていることがあって。

コパン    シンシアには何もないの?

シンシア   うん。私、ここの学園で一回、記憶を消してるから。

コパン    どうして?雷にでも打たれたの?

シンシア   ううん。動物たちを助けようと思って、屋根に上って、屋根から落ちたの。命を落とさなかっただけ、運が良かったんだけどね。

コパン    そっか…。

シンシア   私の周りには、ずっと誰かがいてくれたの。猫の日もあったけど、雀の日もあった。カラスが話しかけてくれたこともあったし、鳩が話しかけてくれたこともあった。でも、なんだか寂しいって感じる時がある。コパンが来るまでは、私、タプファー以外に人とのつながりなかったから。

コパン    シンシア。

シンシア   何?

コパン    ここでいっぱいいっぱい、思い出作ろうね。友達との思い出は、これから先も繋がっていくから。

シンシア   うん。コパン。ありがとう。ここに来てくれてありがとう。

コパン    何だかお礼を言われるのは恥ずかしいね。それに、これから、過去のこと思い出すかもしれないだろ?


シンシア   まだ、思い出、全然作れてない…。記憶だって…。コパン。まだ、向こうに戻るのは早いよ…。学園長から、とり返さなきゃ…。


 コパンがオネストの隣に寝っ転がる


オネスト   コパンはさ~、何でここに来たわけ?

コパン    えっ?

オネスト   だって、外の世界に居たんだろ?ここに居るよりずっと自由で、ずっと楽しかったんじゃない?だって、ここ、あまり噂良くないだろ?

コパン    俺が聞いてた噂は凄い楽園みたいな頃の話だったよ。

オネスト   楽園?ここが?

コパン    随分と前の話だったみたいだけどね。

オネスト   それでここに来たのか。可哀想に。

コパン    でも、僕にとっては楽園かもしれない。

オネスト   はあ?どこが?

コパン    だって、ここで皆に出会えた。

オネスト   よくそんな恥ずかしいこと言えるなぁ。

コパン    オネストは素直じゃないの。知ってたよ。

オネスト   は?

コパン    とにかく素直になれない子。でも時々、ポロリと本音がでちゃう子。それが、オネストなんだよね?

オネスト   …じゃあ、何で俺にオネストなんてつけたの?

コパン    知ってる?名前って、その人がどんな性格かでつけるもんじゃなくて、その人にどうなってほしいかでつけるもんなんだよ。


オネスト   素直に何かなれないって思ってた。パって出てきた本音で人を傷つけるから。コパン。俺、お前を助けるよ。多分本当の素直に何かなれない。でも、今くらい素直になってやるよ。


 コパンがレーヴの正面に座る


コパン    やっぱりレーヴは歌がうまいね。

レーヴ    母さん、歌が好きだった。

コパン    僕の母さんも好きだったよ。

レーヴ    でも、自分はこの曲しか知らない。だから、ずっとこの曲を歌ってた。でも、歌詞は覚えてなくて、ライラも覚えてないって言ってたから。コパンが知ってて良かった。ありがとう。

コパン    僕もこの曲を思い出したのはレーヴのおかげだもん。ありがとう。

レーヴ    自分、コパンの好きな曲も覚えたい。

コパン    僕の?

レーヴ    他に好きな曲ないの?

コパン    うーん…。じゃあ、アップテンポの曲覚えてみる?

レーヴ    頑張る。

コパン    これは二人で一緒に歌おう?アップテンポだし、少し早口だから1人だと息が続かなくなっちゃう。

レーヴ    うん。コパンと二人で歌おう。ライラは歌えないから、人と一緒に歌うの、初めて。

コパン    これからもいっぱい、一緒に歌おう。


 レーヴが自分の顔をライラで隠す


レーヴ    うん。

コパン    レーヴは笑った顔を見せてくれないね。

レーヴ    恥ずかしいからやだよ。

コパン    え~、いつか見せてもらうからな~。じゃあ、新曲の練習しようか!


レーヴ    ♪ようやく見つけたパラダイス。……。夜空は僕等のショータイム。

       これからも一緒に歌おうって言ったのに…。ライラ、また2人ぼっちだ…。2人って、こんなにも寂しかったっけ。


 コパンがツァールトの後ろに立つ


ツァールト  あいつの最後の仕事は、お前を連れ戻すことかもな。

コパン    もういいよ。

ツァールト  諦めるのか?

コパン    その場の流れに身を任せる。どうせ、僕はまたあそこに戻ることになる。

ツァールト  この世界に正解なんてない。でも、コパンはそれでいいのかよ。

コパン    皆で、ここを出れたらいいのにな。

ツァールト  え…?

コパン    そうしたら、本当の意味で自由になれるかもしれないなぁって。

ツァールト  少し、学園長の周りをかぎ回ってみる。

コパン    できるの?そんなこと。

ツァールト  …わからない。どうにか、エクラから話しが聞ければいいんだ。どうにか、あいつが仕事に行った後と行く前の違いさえ分かれば、何かが変わるかもしれない。

コパン    …ツァールト。

ツァールト  何だ。

コパン    ありがとう。

ツァールト  …トモダチだろうが。

コパン    …ああ。


 ツァールト以外が下手へ去る

 ドアのノック音。上手からエクラが入ってくる


エクラ    やっと見つけた。B1.君に僕の仕事を助けてほしいんだけど、良いかな?

ツァールト  俺もその仕事とやらを教えてもらおうと思いましてね。丁度来てもらえたみたいで、嬉しいです。

エクラ    じゃあ、内容を話させてもらっていいかな。

ツァールト  ただし。その仕事の内容によっては協力どころか、今すぐに仲間を呼んでお前を燃やす。

エクラ    そんなことしたら、君達はすぐに僕らの仕事場だった場所に運ばれるけどいいの?

ツァールト  まあ、やむおえない。で?どうぞ。

エクラ    ロワを、この学園から引きはがしたいんだ。


 S11

 舞台中央で少し間を開けて背中合わせに座るレーヴとコパン。


レーヴ    コパン。いる?

コパン    いないわけないでしょ。みんな、自室謹慎なんだから。

レーヴ    壁が薄くてよかった。会話ができる。

コパン    …レーヴは寂しがり屋だもんね。

レーヴ    うん。

コパン    いつもだったら、そんな生意気言うんだったら、ライラの心を読んでみなよ、コパンには無理だろうけどね、とかいうくせに。

レーヴ    調子狂っちゃってんだよ。何が起きてるか、全然整理がつかないんだ。

コパン    レーヴがその調子なら、更に僕の調子が狂っちゃうよ。

レーヴ    もうとっくに狂ってるじゃん。声がいつもより暗い。テンション低い。自分だって、何が起きてるかわかってない癖に。

コパン    分かってるよ。だいたいは…。レーヴよりは、分かってる。

レーヴ    ……コパン。歌おう。

コパン    歌う?教官にばれちゃうよ。そしたら、レーヴも面倒事に巻き込まれる。

レーヴ    大丈夫だよ。ちょっとなら。ライラが歌を聴きたがってるの。

コパン    いつだって、レーヴはライラの為、だね。

レーヴ    …うん。ライラが自分にとって、唯一だったから。

コパン    ♪語りつくせない思いを重ねてきたこの道

レーヴ     無謀に思えたあの時の試練さえ愛おしい

2人      大好きな笑い声の中、明日もまた強くなれる。そんな気がしてる

        たとえ未来が何色であっても僕らならば大丈夫だよ

        隣で笑って肩組み歌って輝いていく旅をしよう

        寄り添って伸びるこの影がこれからも共にあるように

        別の道を行く大切な仲間との約束

        ずっとさがしてた場所の先の先へと連れてこう

        あの頃の僕等にきっと今はちゃんと胸を張れる

        そんな気がしてる

        悲しい雨も胸を刺す風も僕らならば大丈夫だよ

        前だけを向いて心を重ねて後悔のない旅をしよう

        寄り添って伸びるこの影がこれからも共にあるように

コパン     たとえ苦痛の涙を流すとしたって

レーヴ     叶えなきゃいけない夢。僕らにはまだ残ってるから

コパン     何度も今日まで折れかけた時は

レーヴ     隣に君がいてくれたんだよ。

2人      この先もずっと肩組み歌って輝いていく旅をしよう

        寄り添って伸びるこの影がこれからも共にあるように

     共にあるように…

     (共にあるように/MeseMoa.)


 少し間をおいてから


レーヴ    コパン。

コパン    …何?

レーヴ    自分にとって、唯一は、ライラだったけど、

コパン    レーヴ、泣いてるの?

レーヴ    泣いてない!良いから聞け!

コパン    …

レーヴ    自分にとって、唯一は、ライラだけだった。でも、コパンのおかげで、沢山自分と一緒に居てくれる人ができた。唯一はライラだけじゃなくなった。コパン。絶対助けるから。絶対に。

コパン    …ありがとう。

レーヴ    だから、諦めたようなテンション辞めろ。そのテンションで居られて辛いのは、お前じゃなくてライラだから。

コパン    レーヴ。

レーヴ    何…。

コパン    ライラじゃなくて、レーヴの気持ちでしょ?

レーヴ    ライラのだよ。自分のじゃない。

コパン    怖い?自分の気持ちを自分のだと思うの。

レーヴ    コパン。

コパン    ライラは、レーヴの分身。それは分かってる。だから、レーヴは僕と友達で居てくれたんだよね。

レーヴ    自分の気持ちを読みとってくれるから。それは、コパンだけ。

コパン    みーんな、分かってるよ。

レーヴ    …

コパン    みんな、ライラとレーヴは同じ気持ちで、レーヴはそうやって自分の気持ちを前に出してくれてるって。

レーヴ    でも、自分の気持ちを自分の物として前には出せなかった。何度やっても、口に着くのは、「ライラが」っていう言葉だったんだ。

コパン    それでもいいよ。レーヴの思いは皆に伝わってる。レーヴができると思った時に「自分は」って言ってくれればいい。

レーヴ    じゃあ、それまでコパンは自分の近くで見ててね。絶対に。

コパン    …っ。うん。僕はレーヴの笑顔をちゃんと見るまではレーヴの隣に居る。

レーヴ    じゃあ、一生見せないで居る。

コパン    それは、途中で僕の心が折れる。

レーヴ    でも、一緒に居てもらう。

コパン    レーヴは強情だなぁ。ふわぁ、もう就寝時間だね。

レーヴ    眠いの?珍しいね。

コパン    うん。色々あって疲れたのかな。

レーヴ    もう寝る?

コパン    うん。今日はもう寝るよ。おやすみ。

レーヴ    うん。

コパン    レーヴ。話しかけてくれてありがとう。なんか安心した。

レーヴ    …


 コパン上手へ去る


レーヴ    ツァールト。聴こえてるかな。情報があるわけじゃない。でも、自分、コパンを何としてでも助けたい。何か、自分にやれることないかな。


 ドアのノック音


レーヴ    誰…。

ツァールト  俺。あけるよ。教官が来たらどうしようもないから。


 下手からツァールトが出てくる


レーヴ    ツァールト。どうしてここに来れたの?

ツァールト  色々情報が揃った。

レーヴ    どうやって…。

ツァールト  良いから、俺の部屋に行くぞ。教官達を一時間引き止めてくれてる。さすがにコパンの部屋の鍵は教官が持ってるから呼べないけど、早くしろ。コパンを助けるぞ。

レーヴ    分かった。


 S12


 ツァールトの部屋

 五人がそれぞれ好き勝手に座ってる。


オネスト   で、どこから情報を入手したんだよ。

ツァールト  エクラから。

シンシア   名前…。あの人、味方なの?

ツァールト  時間がない。単刀直入に言う。エクラの最後の仕事、ここに来た目的は、コパンじゃない。学園長をこの学園から引きはがすことだ。

タプファー  ちょっと待て。どういうことだよ。良く分かんねえんだけど。

ツァールト  学園長が、どうしてここに光はないと言い続けるのか。それは光が消えたからなんだよ。

シンシア   それって、エクラが自分の前から居なくなったって事?

ツァールト  そういうことだ。学園長は、仕事に行くという意味を理解していなかった。いや、学園全体が理解していなかったんだよ。そして、初めて学園から仕事に出されたのが、学園長が一番目をかけていた少年だった。

オネスト   それがエクラ。

ツァールト  そういうこと。あいつの元の能力は不老が伴う。つまり、人の死を見る能力だ。仕事先は欲しがっただろうな。ここのお得意である仕事先に言われたら、断れなかった学園側。その学園側は、仕事のことを甘くみてたんだよ。ここと、仕事の行き来ができると思ってた。仕事は、あんなにも手を汚すものだと思ってなかったんだ。

タプファー  じゃあ、どうして…、今もなお仕事に行かせてるんだよ。何でこんな規則作ってんだよ。

ツァールト  言っただろ。学園は仕事先がお得意さまだ。そこからの出資率は半分を超える。

シンシア   汚い大人の世界。

オネスト   俺らが、ここで甘やかされないければ、仕事でも、少しは傷つかなくて済むかもしれない。そんなこと、考えてのかな…。

五人     ……

レーヴ    エクラは、ここから学園長を離してどうするつもりなの?

ツァールト  この学園を潰す気だ。

オネスト   はぁ?!俺らはどうなるんだよ!

ツァールト  エクラが俺らの生きる場所を見つけ出してくれてる。仕事先には行かなくてすむ。

タプファー  じゃあ、なんとか学園長を説得すれば

ツァールト  何とかなると思ってた。

オネスト   思ってた?

ツァールト  仕事先に明日の早朝に一人生徒を送らなければならなかった。

シンシア   っ。それって、もしかして…。

ツァールト  コパンだよ。コパンは今日送られるんだ。真夜中にな。

シンシア   どうしてコパンを!学園長はコパンを能力者じゃないって、思ってるんじゃないの?

ツァールト  コパンがそう言った。でも悪意じゃない。ただの、おとりだよ。コパンは眠りが浅いから、就寝時間を超えてからでも、こちら側からの救出も上手くいく可能性が高い。

オネスト   今すぐ逃げなきゃ。コパンを連れて。

ツァールト  そのために、エクラが今、学園長達の説得に回ってるんだろうが。全員でこの学園から逃げるんだ。。

レーヴ    コパン。もう寝てる…。

シンシア   え?たしかに就寝時間超えてるけどさ。いつもよりはやくない?

レーヴ    今日は、なんか、眠いって。

ツァールト  ……あいつらの方が先だった!急げ!コパンの部屋に行くぞ!


 全員上手へ走り去る

 少し間をあけて上手からでてくる


レーヴ    コパン!


 ドアを開ける音


シンシア   誰も、いない…。

レーヴ    コパン?

オネスト   どういうことだよ…。何でだよ…。

タプファー  くそが…。クソが…。


 上手からエクラが出てくる


ツァールト  やられたよ。遅かった。

エクラ    …仕事場の奴らがコパンの紋章を見たら、またここに生徒を取り戻しにくる。その前に、移動しよう。

オネスト   コパンを見捨てろって言うのかよ!

エクラ    一度逃げ出した奴が、何の問題もなく逃げ出せると思うか?

レーヴ    コパンは、どうなる…?

エクラ    ……

レーヴ    どうなる!!

エクラ    人による…。コパンは実績があるから、死にはしないだろうけど…。

レーヴ    何でだよ…。何で、コパンだけ、苦しまなきゃならないんだよ…。

シンシア   レーヴ…。

レーヴ    約束したのに。約束、したのに…。

ツァールト  レーヴ。立て。

レーヴ    ツァールトは悔しくないのかよ!

ツァールト  悔しくないと思ってんのかよ!

オネスト   全員悔しいんだよ。全員が全員、苦しいんだよ。でも、俺らだって命かかってんだ。ここで、立ち止まってまた仕事場の奴らが来るのを待つわけにはいかねえんだよ。

タプファー  わかるだろ?今、ここに残ってる俺らがやるべき最初のこと。

レーヴ    ……

シンシア   レーヴ、行こう。

レーヴ    ♪逃げて、逃げて、逃げ切った先に

見たことのない景色が広がっていた

        何をするのも自由。急にそんなこと言われても

        好きなものは好き。嫌いなものは嫌い

        これが僕らだ。傍で見ててくれ。

        大好きな場所は自分でつくれるんだ。

        君はどうだろう。僕はどうだろう。

        光の粒が空を彷徨い出会うオーロラ…。

        (オーロラ曲技団/MeseMoa)

シンシア   行こう。逃げよう。コパンも、逃げてこれる。約束したんでしょ?コパンと。

レーヴ    ……ああ。

ツァールト  エクラ。教員たちは。

エクラ    もう連れて行った。後はお前らを今日の寝床に連れて行くだけだ。

オネスト   たく。結局自分達優先か。

エクラ    いや。全員残るって言ったが、俺が無理やり車に詰め込んだ。あいつら、意外とお前らのこと思ってくれてたよ。


 エクラが上手へ去る


タプファー  その話詳しく聞かせろ!!


 タプファーが上手へ去る

 後に続いてシンシア・オネストが去る

 ツァールトが上手へ去る直前


レーヴ    ♪悲しい雨も胸を刺す風も僕らならば大丈夫だよ

        前だけを向いて心を重ねて後悔のない旅をしよう

        寄り添って伸びるこの影がこれからも共にあるように

     たとえ苦痛の涙を流すとしたって

     叶えなきゃいけない夢。僕らにはまだ残ってるから

     何度も今日まで折れかけた時は

     隣に君がいてくれたんだよ。

       コパン。待っててね。必ず、必ず…。お前の前でちゃんと、言ってやる。助けれなくて、ごめんな。必ず、助けるから。そしたら、いっぱい一緒に笑おう。一生なんて望まないから…。


 ツァールトが上手へ去る

 レーヴがそのあとを追って上手へ去る


 S13


 1人、コパンが中心に座ってる


コパン    ♪走れ、踊れ、歌え。

        やりきった先に、まだ見たことのない景色が待ってるから

        でも辞めるのも自由。大丈夫、今はもう逃げない。

        好きなものは好き。嫌いなものは嫌い。それが君さ。

        今なら見えるだろう。大好きな場所は自分で作れたんだ。

        君は一人じゃない。……


 全体が明るくなると同時に、コパンの周りに5人がいるのが見える


五人      僕等は一人じゃない!

レーヴ     コパン。(手を差し伸べる)


 コパンが静かに手を伸ばす。

 暗転


はじめましての方ははじめまして!

二度目以上の方はこんにちは!

*yudukiと申します。

二作品目の投稿は長編脚本となります

「Call my name」

誰が誰に名前を呼んで欲しいのか。

それぞれに想いが隠れています。

ぜひ楽しんでいただけましたら幸いです


Twitterの方でご依頼を受け付け、無償の脚本提供を行っています。

ご興味ありましたら是非

@yuduki_6789

のフォロー、およびDMへのご連絡よろしくお願いいたします

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― 新着の感想 ―
[一言] 新作、心待ちにしてました。 書いてくれて、書くのを諦めないでくれてありがとうございます。 これ程上演したいと強く思った作品は、前作に引き続き貴方の作品だけです。 挿入歌もピッタリでした。キャ…
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