第6話 リポールへの道中~ティルを添えて(?)~
タイトルは……深夜テンションで……笑
書いた時も深夜だったので、後々書き直すかも?
――私の……ご主人様になってください。
それに対し、奏多は、
――分かった、君がそうしたいのなら。
そう、迷うこと無く答えた。
少女が考えて決めたことならいいだろう、と。別の道を見つけたら送り出せばいい。
今は、何かに掴まらないと歩き出せない状態なのだ。
奏多は、ひとりで歩けるようになるまで支える、言わば手摺りのようなものである。
馬車への帰り道。
(あ、お金だけでも貰ってくればよかった……)
疲れからか動けなくなった少女を背負い、かなりどうでもいいことを考えていた。
柔らかさへ意識が向かないように。
(背中も一部は感覚ないのになぁ……)
ちなみに、シロは奏多の頭の上だ。
戦闘中は少女の肩で待ち、その後も空気を読んで黙っている。
「ご、ご主人様……重く、ありませんか……?」
「大丈夫、片手でも余裕なくらい軽いよ」
「よかったです……あったかい……」
少女について気になることは多いが、とりあえずは彼女が落ち着けるようにしなければいけない。
「そういえば、名前はなんて言うの?」
「ティルです。ご主人様は……?」
「柊 奏多……あ、奏多が名前だから」
「はい。奏多様……やっぱりご主人様にします」
どちらにしても様は付けるのか、と苦笑する奏多。瑠美への説明とティルの問題もある。
と、丁度馬車が見えてきた。
「……あ、カナ……それと……誘拐は、ダメだと思う」
「違うよ!? 俺がそんなことするとでも……?」
「冗談」
なんだ、冗談か……とは言えない。女の子が言うことは割とシャレにならないのだ。注意して欲しい。
「てぃ、ティルです……ご主人様には、助けて頂いて……」
「ご主人様……奴隷?」
「まあ、大体そうかな」
首輪を見てそれを判断できるのは、ある程度ファンタジーものに詳しい証拠だろう。
視線が集まっているので服を着替えてもらう。色々見えそうなのと、傷があるのはあまり見られたくないはずだ。
着替える時は、上からシャツを着てスカートを穿く、そして貫頭衣を首の所から出す、だ。肌を見られることなく完遂。
そこ、舌打ちするな。
さて、馬車が動き出した訳だが……ティルの分、10000リル、待たせた迷惑料として1000リルを払っていた。
「うぅ……私、払えるんでしょうか……はっ、これはもしかして体で返せという――」
「全然違う」
「ふぇ? ……く、口に出ていましたか……?」
「普通に、出てた……私にも、聞こえるくらい」
「は、はわわ……ごめんなさい!」
「別に謝らなくても……というか、どうせ一緒に居るんだから気にしなくてもいい」
お金が欲しいのなら、奏多が魔物を狩るなり、瑠美が武器をつくるなりすればいい。
体で返す……その言葉に魅力を感じない訳でもないが、そこまでクズでもなければ女の子のカナちゃんには払ってもらう方法がそもそもない。
非常に残念……なんて思っていないのだ。
だから、シロと瑠美は冷たい視線を浴びせないで欲しいと思う奏多。何故バレたし。
こつん。
何かと思えば、ティルがいつの間にか眠っていたらしく、揺れた拍子に頭が奏多の肩に当たった。
(……どうせすることも無いんだ。眠らせてやろう)
夜。やはり何事もなく食事をしていた。
「ご飯……美味しい……っ」
「泣くほどか」
「美味、しい……?」
「シロのもあげるねー」
瑠美が愕然としていたがそれはさておき。
寝る前に割と重要な問題が起きた。
「……頑張って、詰めれば……3人」
「い、いえ、私は見張り番をしてますから……」
瑠美は3人で寝たい。
ティルは迷惑をかけたくない。
「よし……ちょっと散歩してくるから2人で――」
「「だめ(です)」」
言い終える前に腕を掴まれた。
奏多が出て行ってしまっては本末転倒、という事でティルが瑠美の案に頷いた。奏多の意思は何処。
「えーと、ティル、驚かないでくれると助かる。……無理だろうけどさ」
「はい?」
シロの幻影を解除。
すると、ティルが口を開けたまま固まっていた。
「簡単に説明すると、俺は元男で何故か今は女の子。でもってさっきまでのは魔法みたいなやつで見せてた」
「……こ、混乱はしてますけど、なんとか理解できました……えと、ご主人様、お綺麗です」
「……そうなの?」
「ん。超絶、美少女」
こくこくとティルが頷く。
美少女と言われても、自分で見ていない奏多には分からない。それよりも、目の前の美少女2人に挟まれて眠るという状況の方が嬉しい。
狭くて密着するのも、だ。
「所で、ティルの傷……治ってないか?」
傷だらけだった体は、いつの間にかほとんど元の姿を取り戻している。
話を聞くと、エルフはみんな傷の治りが早いらしい。理由は不明とのこと。だが、一先ず安心だ。傷が残ってしまうのは可哀想だから。
「……おやすみ」
安心して眠って欲しい。
狭くて、お世辞にも快適とは言えないけれど、少なくとも命の危険は無いはずだ。
ゆっくり、休めばいい。
「着いたな……」
「ん、やっと……うぅ、気持ち悪い……」
「だ、大丈夫ですか……?」
「うにゃぁ……?」
結局、朝起きてからは何も無くリポールに着いた。強いて言うなら、眠った瑠美とティルが奏多に抱きついていたことだろうか。
奏多のもふもふは寝ていても魅了効果があるらしい。
「シロ、ちょっと裏路地にでも入ろうか」
一旦2人を待たせ、人のいない所に向かう。
「……エッチなことするの?」
「いや待て、どうしてそうなる」
「だって、いきなり脱ぐんだもん……かなたなら嫌じゃないけど、優しくしてね……?」
「違う、着替えだ着替え。一応、女の子になってるから優しくとか無いぞ」
「………し、知ってたよー?」
嘘である。シロにそんな冗談は言えない。
それはそれで奏多に手を出されてもいいということになるのだが、あえてそこには触れない。意地でも。
着替えも終わり、2人の所に戻る。
「えっと、お待たせ……」
「……ん、私の目に、狂いはなかった」
「わぁ……」
「ぼ、僕、変じゃないかな……?」
「僕……」
「ここに居るのは柊 奏多ではなく、ただの美少女剣士カナちゃん。はい、どうぞ」
ここに来て瑠美が突然饒舌になる。
「どうぞって言われても……あ、結局この服装っておかしくないの? 女の子の服とか知らないから、ちょっと不安で」
「ご主人様、全然違いますね……あっ、その服はとってもお似合いですよ」
「ふふっ……神崎にみっちり刷り込まれたから……」
「ちょ、ちょっと目が怖いです……」
具体的にはハイライトの消えた目。
何があったのか気になるティルだが、さすがにこの状況で聞けるようなことではない。むしろ、知らない方がいいこともある。
「でも、やっぱりこれは恥ずかしいって……」
上は動きを邪魔しない程度にひらひらしていて、下は「これ、意味あるの?」と聞きたくなるほど短いショートパンツ。
太ももがすーすーして不安になる。
「かなた可愛いよー?」
にこにこしながら奏多に抱きつくシロ。
傍から見ると仲のいい姉妹に見えなくもない。猫と狐で違うものの、色はほぼ同じなのだ。
「うん、ありがと……」
(すんなり出てくるのは、昔の名残かな……?)
昔はこんな話し方をしていたような……やっぱりしていなかったような、と実に曖昧な感じである。
「それで、と……まずはどこ行く? 候補としては、早めに宿で休む、冒険者ギルドに行く、街の中を散策する……って感じ」
「……私は、休みたい……」
「あー、そっか……うん、僕も宿で休みたいんだけど、2人はどうする?」
「私もご主人様と一緒に行きます」
「シロもかなたと一緒がいいー」
当然の結果だった気がする奏多。
ティルを奴隷にする話が出ないのは、まだ瑠美に説明していないからだ。決して、怖気付いたなどという訳では無いのだ!
お風呂も付いている宿を探し、入ってみると少し問題があった。
「二人部屋はあるけど……えー……」
二人部屋だけは空いていた。
しかし、空いている二人部屋はベッドがひとつしかない。
最初はシロならいいかと思っていたが、そこに割り込んだのはなんとティル。
「わ、わたしもご主人様と同じお部屋がいいです!」
シロもティルも引かない。
ならば、じゃんけんで決めればいいだろう、と。最終的にはティルが勝ってしまった。いや、悪いことばかりでもないのだが。
夕食を食べ終え、部屋に入る。
「………」
「ティル?」
「はひっ!?」
「あのさ、何もしないから緊張しなくて大丈夫だよ?」
「そ、そうですよね……女の子でした……」
分かっていても異性と同じベッドで寝るというのは緊張するものだろう。昨日は瑠美が居たお陰で気にならなかっただけで。
「……シロと交代する?」
「い、いえ……ご主人様には、聞いて欲しいことがあるんです」
「やっぱり……」
何の話かは大体予想出来る。
「わたしの住んでいた、村のことを――」
まだ可愛がられてない……イチャイチャさせたい病が……くっ、右手が疼く……!
まあ、メインヒロインが出てないのでまだですけども。