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第5話 エルフ少女の復讐

台風パない、帰り際びっしょりですわ。


人がさっくり死にます。

ご注意ください。

 現在、奏多は森の中を駆けていた。

 魔物などに見つからないよう、シロに認識阻害をかけてもらった上で。更に音を立てない走り方のため、すぐ傍を通っても小動物が反応すらしない。


「もう近くまで来てるはず……」


 そう口に出した直後、視界に映る人影。

 状況把握のために木の上に跳ぶ。枝に立って見ると状況は分かりやす過ぎるくらいだった。


「おら、そろそろ観念したらどうだぁ? 誰も助けになんざ来ねぇよ、生贄の嬢ちゃん」

「……生け、贄……? なんの、ことですか……?」

「おっと、口が滑った……なんでもねぇよ。これから死ぬおめぇには関係ねぇ話だ」


 いきなり不穏なワードが飛び交っていた。

 金髪の少女がひとり、それを囲む男達が十数人。戦力として考えるなら過剰もいいところだ。

 少女の見た目は10代前半。顔立ちは整っていて、肌は透き通るような白さ。身長は低めで起伏が少ない。何故そこまで分かるのかと言えば、服がボロボロな上に貫頭衣のような雑な服だからである。

 そして、その耳が特徴的。場所は普通の人間と同じものの、パッと見で分かるほど尖っていた。……恐らくはエルフだろう。


 男達の方は、服装はまあ普通。

 武器と防具も、ひとりを除いてあまり目立ったものはない。そのひとりは先程少女と喋っていた男。

 巨大な斧を持っている。地球で考えるなら持てるものすら限られるようなサイズだ。


「手間かけさせやがって。丸一日も、どうやって逃げてやがったんだ? ああ?」

「………」

「おいおい、無視かぁ? まあいいけどよ。ま、両親と同じ末路を辿れて良かったなぁ?」

「りょう、しん……? 何を、言って……」


 いきなり話題が変わって困惑……というだけでなく、少女にとってその話題は目を見開く程意外だったらしい。


「んだよ知らなかったのかぁ? おめぇの両親は、俺達……そん時はまだ頭になってなかったが、ありゃ傑作だったなぁ! 赤ん坊を逃がすのに必死でよ、命乞いまでして時間を稼いでやがったんだよ!」


 下品に笑う男……話からすると頭なのだろう。

 どうやら、ファンタジー小説で見るような奴隷狩りや女を攫って慰み者に……といった単純な話でもないようだ。

 生贄、少女の死、両親と同じ末路。

 これだけで厄介事なのは分かる。


 男達は、盗賊かそれに類するものだと思われる。しかし、そうだとすれば何故そんなことに盗賊が関わっているのかという話になるのだ。

 裏で手を引いている者が居るはず。


 奏多が冷静に話を整理していると、


「ゆる、さない……! 村を襲っただけじゃなく、お父さんと、お母さんまで……」

「許さなかったら何ができるってんだぁ?」


 嘲笑う頭の声。不愉快だ。

 そして、少女の怒りは増すばかり。


「両親と同じく、無様に這いつくばるのが精々だろ?」

「ふざけないで下さいッ!!」


 怒りの形相を浮かべた少女が頭に向かって走り出す。何をするのかと思えば、懐から取り出した短剣を刺すつもりのようだ。


「やばっ……」


 そう簡単に行くはずもなく、少女は後ろから迫っていた男に蹴り飛ばされた。頭が言っていた通り、這いつくばった状態。


「母親と同じ殺し方になっちまうなぁ! 」


 振り下ろされる斧。

 それを止めるものは何も無い。


 ……本来ならば。


 ◇◆◇


 間違いなく殺せた。あの状況から避けられるはずがないのだから。少し待ち、土煙が晴れ、そこには……


 ――何も残っていなかった。


「あ……?」

「残念。あの子ならもう居ないぞ」


 声の方向を見ると、黒目黒髪の男が立っている。


「誰だてめぇ!」

「通りすがりの剣士だ」

「……おい、舐めてんのか? お前ら、やっちま……え……?」


 仲間達を見回し、固まる頭。

 そこには誰も立っていない。

 地に伏せ、首と胴体が別れている。


「は? んだよこりゃあ……!?」


 すると、すぐ横から声が聞こえた。


「ああ、全員殺させてもらったよ」

「クソがっ!」


 斧を振り抜くが、切った感触はない。


「なんか……大したことないな、あんた」

「んだと!?」

「動揺するのはともかく、声をかけられるまで敵の攻撃に気づかないってなんなんだ?」


 手加減するのも楽じゃないんだよ――


 最後の言葉は頭の耳に届かなかった。


「舐めんなぁッ!」


 大きく振りかぶった斧。

 速さも中々だ。……常人からすれば。


「遅いなぁ、やる気あるのか?」


 男は頭の脇を通り抜ける。

 その直後、斧を取り落としてしまった。普段ならしないミス。慌てて斧を拾おうとしたが、その腕は一本しかない。


「がぁぁあッ!?」


 認識した瞬間、強烈な痛みが襲う。

 だが後ろには敵が居る。痛みに悶えている場合ではない。

 ……が、もう手遅れだった。


「グハッ……!」


 背中を蹴られ、前のめりに倒れ込む。

 まるで、先程の少女のように。過去に殺した少女の母親のように。


「どんな気分だ? 殺した母親、そして殺そうとした女の子と同じ状況っていうのは」

「まさか……てめぇ、あのガキの知り合いか!」

「いや、全然違う」


 ならば何故だ?

 同じ状況を作り出す意味がわからない。

 知り合いなら、仕返しとして同じことをするのも理解はできる。だが、無関係の人間が……?


「通りすがりって、言ったろ?」

「な、ならっ、俺と手を組め!そうすれば大金が手に入る……! あのガキを殺して連れていくだけでいいっ、無償でガキひとりを助けるよりいいじゃねぇか!」

「……いくらだ?」


 いけると思った。

 報酬を全て失うくらい、死ぬよりはマシだ。


「1000万、全額やる! どうだっ!?」

「ふぅん……たったそれだけか」

「……は?」


 1000万を、たったそれだけ?

 この男は、今、そう言ったのか?

 頭には全く理解できない話だった。


(……見た目か? 確かに顔は整ってやがるからな)


「お、女が欲しいなら俺が見繕ってやる!」

「……まあ、可愛いとは思うけど、そうじゃない。あの子の心は1000万より圧倒的に価値があるってことだ」

「心だ……?」


 頭は知らない。

 男が、奏多が心を覗けることを。

 否、知っていても理解できないだろう。

 あんなことを平気で行える頭には。


 ゆっくりと男が歩き出す。


「ひっ……! や、やめろ、来るなっ……!」

「………」

「た、助けてくれ! 何でもするっ!」

「……で、命乞いした人をあんたは助けたか?」

「わ、悪かったっ! これからはもうしねぇよ! だから、命だけは許してくれ!!」


 ピタリ。男の足が止まる。

 甘い。この男は甘い。しない訳が無い。警戒を解いたところでまずはこの男を殺す……と考えた所で気付いた。

 男の横に誰かが立っていることに。


「なんで、さっきのガキが……」

「ああ、それならずっと近くに居たよ。あんたを殺すのは俺じゃなくて、1番被害にあってるこの子じゃないとだめだろ?」


 もはや、絶望しかない。

 男は油断していないし、少女の目は殺意に満ちている。


「どうして、お父さんやお母さん……村のみんなを殺したんですかっ!? 生贄ってなんなんですか!?」

「し、知らねぇよ」

「このっ……!」

「ほ、本当に知らねぇんだ! フードの男が呟いてるのを偶然聞いただけで……」

「フードの男……?」


 フードの男。

 頭に依頼したのは、前回も今回も同じフードの男だ。あの村のエルフ達を連れてくること。生死は問わない。それがフードの男が出した依頼。


「つまり……お金のために、殺したんですね」


 目的があったなら許せた、という訳では無い。ただ、お金のためにみんなが殺されたと思うと、やるせない気持ちになるだけで。

 すっと、剣を振りかぶる。


「ま、待ってくれっ! 俺はまだ――」

「聞きたくありませんっ……!」


 涙を流しながら、頭の首を切り落とした。


 ◇◆◇


「………」


 死んだのを確認すると、少女は膝から崩れ落ちる。


「……みんな、仇はとりましたよ……見ていて、くれたんでしょうか……?」


 少女は、縋るように奏多を見た。

 そんな彼女を抱きしめ、しっかりと頷く。


「もちろん。届いてるに決まってる」

「……よかった……」


 でも、と奏多は思う。

 両親はきっと、復讐をするよりも幸せに暮らして欲しいと願っていたのではないか、と。

 いや、今はこれでいいのだ。


 復讐は何も生まない。それは事実だろう。

 けれど、復讐しなければ前に進めない。


 彼女はここから進めばいい。

 幸せな道を歩めばいい。

 その手助けならいくらでもしよう。


 まずは、泣きじゃくる少女を慰めよう。

 優しく頭を撫でる。ずっと、泣き止むまで。


「もう、平気です……ごめんなさい、服、汚しちゃいました」

「気にしなくていい。それより、怪我は大丈夫?」

「え? あ……」


 奏多に言われて初めて気づいた様子。

 顔も含め、全身に傷を負っていたのに。それだけ心の傷が深いのか、痛みになれてしまったのか。

 どちらにしろ、奏多は悲しく思う。

 こんな子がどうして、と。


「これからどうしたい?」

「どう……」


 これからは自分だけ。

 それを再度認識して泣きそうになるが、何とか堪えたようだ。

 暫く考え込む。

 一度奏多をちらっと見ると、覚悟を決めたように頷く。


「……この首輪、知っていますか?」


 そう指さすのは自分の首。

 黒い、見てるだけで不快になる金属製の首輪があった。


「……ロクでもない物のは分かるけど」

「はい。これは、隷属の首輪と言って……付けた状態で奴隷術を使われてしまうと、離れた時に爆発したり、命令に逆らえなくなるそうです……」

「それを外して欲しいってこと?」

「いえ……その……」


 そこで口ごもる。

 言い難いことなのだろうと、急かすことなく待った。……若干、嫌な予感を覚えつつ。


「……私の、」

「私の……?」


 一度深呼吸を挟み、




「私の……ご主人様になってください」




復讐は一旦終了。

何がなにやらと思うかもしれませんが、少女視点で一話作りたいと思います。……もう少ししてから。

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