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第4話 リポールへの道中

ブクマありがとうございます!

じわじわ増える感じがいいですね笑

 街の外。ゲームであれば少し歩くだけでモンスターとエンカウントする。しかし、現実でそんなことは……そう思っていた奏多。

 残念ながら現実にもあった。

 街から離れていない場所は冒険者や兵士によって掃除されているけれど、数時間も馬車で走れば魔物がチラホラと。

 馬車には冒険者の護衛が数人居る。

 魔物に襲われても問題は無いのだ。


「だからこそ利用料金が高いって訳か」

「ん……2万リルは痛手」


 ひとり1万リル。昨日泊まった宿ならば10泊出来てしまう。距離や危険を考慮してのお値段なのだろう。


 ちなみに、白金貨は100万、金貨は1万、銀貨は100、銅貨は1リルとなっている。確かめたので間違いない。

 銅貨100枚で銀貨、銀貨100枚で金貨、金貨100枚で白金貨……と嵩張ってしまうのは辛いところ。


「……暇」

「分かる。何かしたいけど何も無いんだよなぁ……」



 特に何事もなく、夜。

 一応、数回襲われたものの被害は無かった。


「あ〜……予想通りだけど不味い……」

「………」

「ドライフルーツは美味しいよー?」

「……ん」


 あまりの不味さに瑠美が無言だった。

 ドライフルーツ――元が何なのかは知らない――を食べてようやく「ん」と言えた程である。舌が肥えている日本人には辛い。

 それと、シロは人の姿になっている。認識阻害で奏多と瑠美以外からは見えないようにしているのだ。


 奏多が少し離れた所を見ると、冒険者と複数の人達が鍋を囲んでいる。どうやら昼間襲ってきた魔物を食べているらしい。


「……カナは、行ってきていい、よ?」

「いや、別にそういうつもりで見てた訳じゃないよ。ただ……あの調理器具はどこから出したのかと思って」

「あ……」


 誰かの持ち物という可能性もあるが、だとしても重い上に嵩張る鍋を2つ以上持つだろうか? そこが気になって奏多はずっと見ていたのである。


「ん……? 今、変な空間? に手を入れてたよな?」

「……見えない」

「? あ、狐だから夜目が効いてるのか」

「シロは見えてたよー。……えらい?」

「うん、えらいえらい」

「えへへ〜♪」


 何がえらいのかは分からなかったけれど、褒めて欲しそうだったから撫でる奏多。暫くそうしてると、「……イチャイチャ、しない」とジト目で瑠美に注意されてしまった。なお、二人にイチャイチャしてるつもりはない。


「でさ、あれは魔法かスキルなんじゃないかと思うんだけど……」

「……アイテムボックス?」

「そうそう、それ系のやつ。そうだとしたら助かるんだけどなぁ……使える人を仲間にすればいい訳だし?」


 あるいは、魔法の鞄のようなものがあるかもしれない。

 もしあったら整理なんてしなくても……とか、快適な旅ができる、なんてことをテントに入るまで話していた。


「……眠い」

「じゃあ、そろそろ寝るか……」


 交代でパジャマ……ではなく普通の服に着替える。万が一の事態が起こった時、すぐに逃げられる服装の方がいいからだ。

 そのついでに、濡らしたタオルで体を拭く。


「かなた、シロも拭いてー」

「それは自分で――ってもう脱いでるし……あのな、何度も言ってるけど男に裸を見せちゃいけないんだぞ」

「子供を諭すように言わないでー! ……かなた以外に見せたりしないもん。それならいいでしょー?」

「よくない……けど、聞かなそうだから今はそれでいいや……」


 いつもそうなので早めに諦める奏多。

 軽くため息をつきながらシロの体を拭いていく。隠すところは隠していても、それ以外の部分は白い肌が丸見えだ。ある程度慣れているとは言え、奏多の理性はゴリゴリ削られている。


 なるべく意識しないように胸を拭き終えて下半身に移ると、さすがのシロも恥ずかしいのか奏多に話を振ってきた。


「あのねー、ひとつ思ったのー」

「?」

「かなたになら見せても大丈夫だよねー?」

「いやいや、俺も男だからダメだって……」


 あれ? と首を傾げる。

 その疑問を肯定するようにシロが続けた。


「かなた、今は女の子だよー」


 ……ショックで暫く反応出来なかった。

 そう、シロを拭き終わっても自分の体があるのだ。完全に忘れていた。いや、忘れようとしていたのかもしれない。


「結論、シロに拭いてもらえばよくない?」

「うん、任せて〜」

「……あの、何故に手をワキワキさせてるんですかね?」

「ふっふっふー、何故でしょーかー?」

「お、お手柔らかにお願いします……」

「だが断るー♪」


 断られた。奏多の運命は決まったも同然。


 …………。


「……もうお婿に行けない……」

「ん……大丈夫、女の子だから、お嫁さんにならなれる」

「くっ、ニヤニヤしながら言うなぁ……! シロはシロで頭をぽんぽんするんじゃない。こんにゃろう……こうしてやるっ」


 うりうりとシロ(猫ver)の頭を揺らす。


「……ふふっ」


 楽しそうな声が聞こえ、シロと奏多は声の主を見る。


「えと……どうして、こっちを見る、の?」

「いや、急に笑ってどうしたのかな、と」

「にゃあ」


 そして、笑ったのが初めてだというのもある。

 ニヤニヤならついさっきあったが。


「やっぱり、カナが一緒だと、楽しいから……」

「うにゃー?」

「?」

「シロはじゃまー? だって」

「……そんなこと、ない」


 そう言いながらシロの頭を撫でると、嬉しそうな声で鳴きながら頭を擦りつけていた。

 猫と戯れる美少女。物凄く微笑ましい光景だ。


「よしよし」


 けれど、ほんの少しの疎外感。

 そんな訳で、奏多は瑠美の頭を撫でてみる。


「……子供、扱い?」

「いや、折角だから混ぜてもらおうかなーと。……嫌だった? もしそうだったらごめん」

「ん、別に……嫌じゃない」

「そっか」


 撫で続けること暫く。段々、瑠美の瞼が下がってきた。

 眠りたくないと抵抗している様子だったが、最終的には眠気が勝ったようで小さく寝息を立て始める。


 実の所、テントに入るまでは少しだけ不安そうだった。王城からいきなり追い出された不信感、騎士に殺されかけたことによる恐怖。

 だから鍋を囲んでいる所にも混ざれなかった。

 人見知りだからというのも多少はあるだろうが。


「カナ、か……」


 初めて話したはずなのにそんな呼び方をする彼女。不思議と違和感はなくて、嬉しいような気さえする。……何も分からないのに。

 ああ、俺はこの子の傍に居ないと。

 そんな風に思うのはどうしてだろう?

 ……やっぱり、何も分からない。


「はぁ……シロ」

「にゃー」


 終わらない答え探しをやめ、他のことに意識を向ける。

 見忘れていたシロのステータス。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


名前:シロ

種族:unknown

性別:女

年齢:15

天職:軽業師


レベル:1

魔力:C

体力:E

筋力:E

耐性:E

敏捷:D

器用:D

精神:E


◆スキル◆

『言語理解』『立体機動Lv4』

『暗殺Lv1』『爪術Lv3』

『魔力操作Lv9』『敏捷補正Lv1』


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 見て分かる通り、シロの能力が含まれていない。幻影、認識阻害と来れば暗殺者の方が向いているだろう。しかし、ステータスには『軽業師』とある。

 この辺りは奏多と同じだ。

 問題は、どうして表示されないのか。


 1、この世界のものではないから。

 2、神(?)が干渉出来なかった。

 3、スキルではなく体質か何かだと判断された。


「だめだ……情報が少な過ぎる……」


 仮定するにしても、何もわからないのは困る。

 ステータスとは一体何なのか。

 生き物の情報を数値化して表したもの?

 植え付けられた全く違う力?

 それとも、この世界の法則?


 分からないことだらけだ。

 知る必要もなく帰ることが出来ればそれでいい。

 けれど、もし……


 いや、やめよう。

 悪い方向にばかり考えていてはどうにもならない。一度寝て、すっきりした頭で考え直そう。


「おやすみ、シロ」

「にゃにゃー……」


 ゆっくりと夜は過ぎていく。





 カンカンカンカンッ!


 金属を打ち鳴らす音が聞こえる。

 騒がしいという訳でも無いので、普通に朝の合図のようなものだろう。


 奏多は目を開けて、


「えーと……神崎さんや」

「っ!?」


 起こさないように優しく奏多の耳を触っていたが、驚いてから視線をさ迷わせながら離す。


「いや、触るくらいなら怒らないよ?」

「………」


 また触り始めた。

 今度は奏多が起きているので触り方が違う。


「ふぁ……ん……く、くすぐったい……」

「もふもふは、正義……」


 瑠美が満足して離すと、丁度シロも起きた。

 奏多の息は荒く顔も赤かったが、首を傾げるだけでシロは特に追求しない。それが奏多にとっての救いだ。


(耳は敏感。俺、覚えたよ……)


 ちょっと気持ちよかったのは秘密。


 シロに幻影をかけてもらってから朝食を終え、軽く食後の運動――素振りを20分ほど行う。

 いつもと違い刀ではないが、それでも振らないよりはマシだ。サボった分だけ……いや、それ以上に腕は鈍る。


「ふっ!」


 切り裂け。

 邪魔をする敵も、

 立ち塞がる壁も、

 人生を決めようとする運命も。

 その為だけにこの腕はある。

 ()()なんかに、何も決めさせない。


(まだ足りない。まだまだ……)


 ()()には何もかもが足りていない。

 ()()? 分からない。

 どうして? 分からない。

 けれど、抗わないという選択肢は存在しない。

 磨け、力を。


(なんなんだろう、これは)


 素振りや戦闘時にはいつもこれが頭に浮かぶ。

 ただ、急がないと間に合わなくなる。それはなんとなく分かっていたから、必要も無いのに毎日刀を握っていた。


「ふぅ……今日はこの辺で……」


 意識を体に戻した時、拍手が聞こえた。

 見渡してみると、周りには人が集まっていた。口々に「見事だな」「すげぇ、俺もああいう動きがしてぇな……」「ぷふっ、あんたには無理よ。でも、ホントにすごい……」なんて言っている。

 何故こんなに? とは思ったが、見られているのも落ち着かないので瑠美の元に向かう。


「……すごかった」

「? ただの素振りなんだけど……」

「そう、なの……?」


 お互いに首を傾げた。

 汗を拭いてシロと戯れているうちに馬車の準備が終わったらしい。それに乗り込むと、昨日と同じく何も起きずに進む。


 やがて、目的の街……ではなく、その途中の街に着いた。先程まで乗っていた馬車はここで折り返し、別の街が目的地なら乗り換える。

 もちろん奏多達は乗り換え、再度馬車に揺られていた。


「……お尻、痛い」

「さっきよりも揺れてるな。道が悪いのか馬車が違うからなのか……」

「……気持ち、悪い……」

「そうか? 俺はそこまで……えっ? ちょ、す、すみません、馬車止めてもらっていいですか!?」


 瑠璃が青い顔で口を抑えていたので、本気でまずいと思った奏多は馬車を止めてもらう。

 急ぎの人が居なかったお陰で助かった。


「……だい、じょう、ぶ……うっ」

「全然大丈夫そうに見えないけど……?」

「……乙、女として……吐くのは、アウト……絶対、耐える……っ」

「そ、そうか……何かして欲しいことは?」

「…………膝、枕」

「え? ま、まあ、そんなことでいいなら……」


 突き刺さる男達の視線。

 目元が隠れているため、じっと見なければ美少女なのは分からない。それでも可愛い女の子であることは間違いないので、「リア充爆発しろ」と言わんばかりに睨まれる。

 実は奏多も美少女だったりするのだが。


 それを理解して奏多が苦笑した時、


「………い……けて……」


 小さな、風の音にすら負けそうな小さい声が聞こえてきた。


「……神崎、何か聞こえなかったか?」

「聞こえ、なかった……」

「シロは?」

「にゃっ」


 右前脚を上げる。聞こえたらしい。

 幻聴や空耳ではない。ならば、どこから聞こえた?


「ふぅーっ……」


 目を閉じて耳を澄ます。

 全神経を集中するつもりで。

 暫く待つと、今度はハッキリ聞こえた。


「――やだ……やめ、やめて下さいっ……!」


 若い女の子の声。奏多とそう変わらない歳だろう。

 現在地は森の中。

 一体、こんな場所で何が起こっているのか。なんとなく想像はつく。なんにしても、ろくでもないことだというのは間違いない。

 面倒事に首を突っ込んでいる暇は無い。無い、のだが……


「聞こえたものは仕方ない、よな。これを無視するのはただのクズだ。そんなものなるのはごめんだぞ、俺は」


 瑠美に一声かけて、立ち上がる。

 一応、散歩という体で。


()()()()()、人助けの時間だな」

「んにゃー!」


あからさまな伏線……下手でごめんなさい。

自分から首を突っ込む系主人公。

馬車が盗賊に襲われる?

助けた相手がお姫様?

いいえ、自分から女の子を助けに向かいます!

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