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同時作業

ヒポグリフは鷲の下半身が四本脚になり、地上に適応した種だ。


当然、元々の内臓は鷲の身体に入っていた。

しかし地上を速く走ることに適応して馬の身体が大きく進化する過程で、少しずつ身体の下側に内臓が移っていった。

獲物を追うのも天敵から逃げるのも、早く走る個体が生き残りやすい環境で、内臓が下にあって重心が安定する個体が選別されたのだ。


走るのに適した馬の身体が進化するに伴い、いよいよ内臓はそちらに移り、鷲の内臓が収まっていた胸腔の部分は中空のまま残った。


上半身は軽いほど、走る時も飛ぶ時も有利に働く。そのため、ヒポグリフの鷲の部分は空洞なのだ。

実際には鷲と馬の胸腔を分ける膜が張っていたが、内蔵と共に取り除かれている。


「フェルシェイルって、鳥の羽の処理したことある?」

「ええ?無いわよ。都じゃそこまで出来ないもの」

「あー、まあ簡単だよ。大きな羽は手でむしって、取り切れない産毛や小さい羽を火で炙って焼くの。フェルシェイルなら得意でしょ?」


リヨリは屈託の無い笑みをフェルシェイルに向けた。

フェルシェイルがヒポグリフの体毛を眺める。作業量は多いが、単純な分二足トカゲの解体よりは簡単に終わりそうだ。


「……まあ、それくらいならね」

「吉仲も毛を毟る所までは、フェルシェイルの方を手伝ってくれないかな」

「ああ良いけど、リヨリは?」


リヨリが山刀を抜き放った。軽く振り、背中の具合を確かめる。問題は無さそうだった。


「私は、こっちやるからさ」


言葉のままに山刀で、羽毛と馬の狭間を切り裂く。

一気に切られて翼が落ち、鷲の身体の首部分が作業台に広がった。


空洞の部分が大きいことで、首と胴体は真っ二つに切り分けやすい構造をしている。


フェルシェイルと吉仲が羽毛の処理をしている間に、リヨリが馬の身体の解体をする。同時進行であれば時間が短縮できるのだ。


カチが頷き、立ち上がった。家の壁に据え付けられた棚から二枚の袋を取り出す。


「吉仲、フェルシェイル、この袋を使うといい」

「ありがとう」


フェルシェイルと吉仲は袋を受け取り、翼の羽を抜きはじめる。

リヨリも脚を切り出し、蔵へしまっていく。


黙々と出来る作業は、口数が少なくなる。

おしゃべりに花を咲かせるナーサとマルチェリテ、カチと対照的にリヨリ達は必要最低限しか口を交わさず、各々の作業に没頭していた。


作業開始から、三十分ほど時間が経ったいた。


二人掛かりだったこともあり羽毛を抜くのは早く終わり、産毛を焼く作業もフェルシェイルに掛かればあっさりと終わる作業だった。

吉仲は馬の身体を切り分けるリヨリと、鳥の翼を切り分けるフェルシェイルからそれぞれ肉を受け取り、布を巻いて蔵へしまう役回りとなっていた。


作業分担で早く作業が進んだため、作業台の上はわずかばかりの肉塊と、羽の残りと骨や腱ばかりだ。


「お疲れ様です、そろそろ休憩いかがですか?」

マルチェリテが三人にお茶を運んで来る。


「うん、そうだね。もう終わりだし……う……」

なんの気無しに頭を上げたリヨリの動きが、ピタリと止まる。


「リヨリ?」

リヨリはそのまま背中を押さえ、蹲った。


「アイタタタ……」

「痛み止めが切れたのねぇ。ほらリヨちゃん、立って立ってぇ」

ナーサが近寄り、リヨリを起こす。リヨリは痛みで身体を強張らせつつも、ゆっくりと立ち上がった。


「よくなり出した時に料理勝負に解体だもの。痛みがぶり返してきたのもありそうねぇ」

「作業もあらかた片付いてて良かったわね」

「まったくだ、計ったようなタイミングだな」


最後の肉塊を包みつつ、フェルシェイルが呆れた声を出す。

ナーサの言う通りだろう、痛そうではあるが深刻さは薄い。


「ふふ、作業が終わり頃になって気が緩んだんでしょうね。痛み止めの効力は集中している時に増しますから」


フェルシェイルと吉仲が布巾で手を拭き、マルチェリテからお茶を受け取る。


「リヨリ、後はやっとくから休んでなさい」

「そうだな、片付けるだけだしな。蔵の中の置き方は見てもらいたかったけど、まあ後でも良いしさ」


「うう、ごめん……」

リヨリはナーサの肩を借り、カチの家の縁側に横になった。

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