スパイス
「さあ、判定をお願いします」
老人達がざわめき立った。
チーメダを中心にリヨリの料理を推す者達と、カチを中心にマルチェリテの料理を推す者達で分かれ、激論をかわしている。
リヨリの食人ツタと二足トカゲの肉巻き天ぷらか、マルチェリテの二足トカゲのバラステーキ、ヒポグリフの内臓風味か。
吉仲は、本気で悩む。
どちらの料理をも最高にうまかった。フェルシェイルの時と異なり、思い出す味も拮抗していた。
「ちなみにフェルちゃんはどっちぃ?」
「うーん……」
吉仲と同じようにフェルシェイルも悩んだ。味はもちろん、技術的にもどちらかを選ぶ決め手に欠ける。
「あくまでアタシが審査員だったらだけど……リヨリね。揚げ物で食材を蒸すっていう発想はアタシには無かった。ナーサは?」
「マルチェちゃんかしらぁ、魔傀儡がすごかったしぃ」
「……料理の味じゃないのね」
「ふふ、私は料理人でも美食王でも無いものぉ。料理はどっちも勝ちねぇ」
呆れたフェルシェイルにナーサが微笑む。
「で、その美食王サマは?」
フェルシェイルの言葉に、緊張の面持ちで吉仲を見つめていたリヨリが唾を飲みこんだ。
吉仲はもう一度両者の料理を再生する。料理自体は同じ味だが調味料の多少の違いで交互に楽しめる天ぷら、同じ味でも飽きずに食べ続けられるバラステーキ。
最後の一切れを口に入れたイメージが湧いた。
「決めたよ……リヨリの勝ちだ」
リヨリは全身に喜びを爆発させ、マルチェリテは残念そうに肩をすくめた。
「届きませんでしたか……理由をお聞かせください」
「もちろん、マルチェの料理もうまかったよ。だからここまで悩んだ」
マルチェリテが静かに微笑む。
「決め手は最後の一切れを食べた後のイメージだったな。マルチェの料理は心から満足できた。食べてる最中は無限に食べられそうだったけど、最後の一切れを食べた瞬間、満ち足りて満腹になったんだ」
「多分、スパイスの効力ね。時間経過か、食べる続けることで薄まるようにしたんでしょ?」
フェルシェイルの言葉にマルチェリテが頷く。
「はい、脂肪を分解する作用でいつもより多く食べられますが、胃を大きくするわけじゃありませんから。身体が限界を感じた時、自然に効果が緩むようになっています」
「リヨリの料理は、味付けを少し変えただけで同じ効果を持たせてたし、同じように無限に食べられそうな気分だった。最後の一切れが無くなった時に、残念だ、もう一切れ食べたいって思ったよ」
「マルチェみたいな器用な真似はできないだけとも言うけどね」
リヨリが肩をすくめた。
「でもぉ、それだけだとリヨちゃんの方が優れているとは言いにくいんじゃないかしらぁ?結局どっちもお腹いっぱいまで美味しく食べれたってことでしょう?」
ナーサの言葉に吉仲が頷く。
「確かに、それともう一点。リヨリ、あのカラシのペースト。あれもスパイスが入ってるだろ?」
全員の視線が今度はリヨリに集中した。マルチェリテが驚き、緊張した面持ちに変わる。
リヨリは、ゆったりと頷いた。
「さすがだね。吉仲にはまだ食べさせてなかったんだけど。……これだよ」
リヨリが手を開き、その場にいる全員に見せる。




