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魔法道具について

そこから、二十分が経った。リヨリは未だに戻っていない。

人形達は内臓と脳をじっくりと煮込み、取り出し、丹念に潰し始める。

内臓のペーストにするらしい。


六体で香草やスパイスを混ぜつつ、残りの六体で潰す。

屈伸運動で全身を使って潰しているのに、驚くほどのハイスピードだ。


さらに高速で満遍なく均等に潰すのは人間には大変な作業だが、疲れ知らずの人形達はまさしく機械の緻密さと素早さで作業をこなす。

見る見る内に内臓も脳も香草も潰れてペーストとなっていった。


「こういう作業は人形が強いな。見てるだけで疲れそうだ」

「そうねぇ。単純作業の反復なら、魔法道具でも再現できないかしらぁ」

「人間が持ってるだけで潰せるの?それは良いかもね。見習いがやる下ごしらえだけど、単純作業は簡素化して、もっと包丁や調味の修行に当てる方が効率良いもの」

ナーサがニヤリと笑った。新たなビジネスチャンスを見つけた顔だ。


「ま、私みたいな考え方する料理人は少数派だけどね。そういう地味な見習い仕事が基礎を養うんだ、っておじさんの方が多いし」

しかし、次のフェルシェイルの一言でガックリと肩を落とす。


魔法道具の制作は魔女の基本だが、人々が買いたいと思う物は意外と少ない。


起動するための微量な魔力はほとんどの人間が持っているし、ほとんどの家庭には必ず二つか三つは魔法道具がある。

ただ、高価な魔法道具を揃えてまで、あらゆる作業時間を短縮するという考え方は浸透していなかった。


串のように金属的な性質を使った、単純な構造の魔法道具は量産が利くため安い。

ただ、ほとんどの魔法道具は一台買う額で、一家族が一ヶ月は暮らせるような高価な代物だ。


魔法道具は大量生産ができない。

そのため製作に掛かる手間が価格に反映されてしまうのだ。


コストを気にしなくても良いほどの資産家だとしても、魔法道具を数台買うよりメイドを一人雇う方が安上がりでその上できる仕事も多い。


「なかなか難しいわねぇ……」

実際、家庭用ではなくプロの職人の作業短縮のための道具が最も魔法道具の商売には適している。もっとも、職人の作業短縮は職人側の意識次第で拒否されるという問題もあるが。


ナーサが行商で売っている物の大半が魔法道具でない、普通の道具や食材なのもそれが理由だ。


「ただいまー」

リヨリが戻ってきた。時間は残り二十分。


人形達は胡椒を使って臭み取りを施した肉を、ペーストに漬け込む作業の最中だった。

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