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「……しかし、人形が作った料理がうまいもんかのう」

「うむ。なんとなくじゃが、その……うまそうな感じがせんの」

「いやでもさ、実際マルチェちゃんが動かしてるんだろ?マルチェちゃんが作ったのと変わらないんじゃないかい?」


老人達が、後ろでヒソヒソ喋るのが聞こえる。吉仲は特に反応しなかったが、厨房の奥にいたマルチェリテは柔らかく笑い出した。


「ふふ、そういうこともよく言われます。食べてみてからご判断いただければと思います」

「あ、いやそんなつもりじゃなかったんじゃ……」


「爺さん達、エルフは地獄耳だから気を付けた方良いわよ」


フェルシェイルが茶化すように老人達を眺め回す。老人達は恥ずかしそうに身をすくめた。

「もう、フェルさん。耳がよく聞こえるって言ってください。それと、本当に気にしないでくださいね」


人形達に作業を任せたマルチェリテは、湯を沸かしたきりで本当にすることが無いようだった。


黙々と料理を進めるリヨリの隣で、すっかりカウンターとの話に加わっている。とても料理勝負の最中には見えなかった。


人形達は、一糸乱れぬ動きで手早くバラ肉の解体を終え胡椒を振り馴染ませると、内臓と脳の処理を始めた。

二組に分かれ、片方はまな板の上に内臓を運び込み、解体する。巨大な魔物の腑分けのようだ。

もう片方は山のようなヒポグリフの頭を切り裂き、小人サイズの槌で頭蓋骨を叩き割り、分担して脳を取り出す。こちらはまるで土木工事現場だ。


一体一体の人形の力は弱く、作業台上の移動なども入るため人間の動きに比べると一つ一つは遅い。しかし十二体が同時に並行して作業をこなすことで、遅れを補って余りある時間短縮になっている。

人間であれば二人掛かりで作業を進めている程のスピードだ。


血抜きと食べられない部位の切除を同時にこなし、さらに香草を刻む。


内臓、脳はすぐに取り出され細かく刻まれ、沸き始めた湯の中に投入された。茹でこぼすようだ。

人形達の半分は櫓を組み、人間サイズのおたまを持ってかき混ぜる。


三分ほどで内臓を取り出し、さらに刻み始めた。人間であれば熱くて触れることはできないだろう、だが人形達には関係なかった。


マルチェリテが鍋の水を入れ替える。今度の水は先程の半分程度だ。

内臓を切り刻む人形達とは別のグループが、鍋に香草を入れる。


リヨリが包丁を置き、食材をザルに移した。


「さて……しばらく休憩、っと」

ザルに布巾を掛け、ボウルに載せる。調理場の隅でリヨリが割烹着を脱いだ。

ザルとボウルを持ったまま勝手口に進む。


人形にすっかり目を奪われていた吉仲達も、リヨリの動きに気がつく。


「え?リヨリ、どこに行くんだ?」

「私の料理に六十分は長いから、ちょっと時間潰してくるよ。マルチェは気にしないで進めてて」

「……え?……はあ」

マルチェリテも不審がっている。


「食材を持ってか?」

「うんまあ、ちょっと冷やしたいから、蔵までね」

話を打ち切り、リヨリは外に出た。一同の視線がマルチェリテに集中する。


「ちょっと怖いですが……私は私の料理をするまでです」

「ま、料理してんのは人形だけどね」

決然と呟いたマルチェリテをフェルシェイルが冷やかす。


人形達は人間のやりとりに見向きもせず黙々と作業を続けていた。

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