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人形の魔法

魔傀儡その物は、魔法陣や魔法道具と同様に、与えられた命令通りに動くだけだ。

しかしその動きは予め命令をする術師の思考次第で、単純にも複雑にもなる。


十二体の魔傀儡個別に状況に適した動きをさせることは、高度な抽象化の技術が必要にはなるが、修行を積んだ魔傀儡師(マリオネッター)であればそう難しいことではない。

よく練り込まれた想定される状況と、状況に対応した行動パターンを作り出し、適用と微調整の試行錯誤を繰り返していけば、いつかはその通りに動く。


しかし、他の個体と協調して動くとなると、途端にその複雑さは跳ね上がる。


人間ですら、一つの作業に関わる人数が多くなるほど役割分担が必要となり、円滑に動かすのが難しい。

大きな物を運ぶだけでも、各々が状況を確認・判断し、互いに声を掛け合い、注意しあって動くことで、ようやく達成できる。


人形達はマルチェリテの意思で統一はされてはいるものの、初めて見るリストランテ・フラジュの調理場という環境で、それまで扱ったことの無いであろう、肋骨が潰されたトカゲのバラ肉を解体するのだ。


他の十一体の状態、作成する料理、作業台の広さ、対象の大きさや形状や状態、調理器具の使用状況といったあらゆる情報から自分の作業を計算し、能動的に動く必要がある。


それを予め人形達に入れた命令だけでこなす。その難しさは想像を絶する。


特に、他の個体の状態が厄介だ。

位置と作業状況と作業完了時間が常に変動し続けるため、自分の取るべき最適な行動もリアルタイムで変動し続けるためだ。


吉仲は改めて人形を眺める。

当たり前のように滑らかに作業を進める姿で気づかなかったが、その動きこそフェルシェイルの精紋に匹敵する人智を越えた力の結晶だった。


「マルチェの人形喫茶は、子供くらいの大きさの魔傀儡が運営してるのよ。マルチェ自身は店の奥でお茶をすすってるだけ。人件費ゼロね」

「もう、フェルさん。遊んでるだけみたいに言わないでください、この子達が滑らかに動くようにするのって、結構大変なんですよ?」

フェルシェイルの嫌味にマルチェリテが反論する。例によってそんなに怒っている様子は無い。


吉仲はさっきヒポグリフの死体を、自動化したロープで運んだ時のことを考える。


ロープの動きは単純に前に進ませるだけで、方向を変えたり、障害物からかわしたりすることは手動で行なっていた。それにヒポグリフは一体だった。


それらを全て環境に合わせて自動化して、他のも同時に動かす。

想像しただけで気が遠くなりそうだった。

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