試食開始!
イサはリヨリの作業をしばらく見つめた後、マンドラゴラの頭の部分と、残りの葉をみじん切りに刻み始める。
「まだまだ小娘に、この店は任せちゃおけねぇよ」
イサが三品を並行し調理を進め、三品目の下ごしらえが終わった頃に、リヨリは包丁を置いた。細かく切り刻まれたマンドラゴラは、一部が水につけられているが、残りは山と積まれている。
リヨリは鍋を取り出し、水と調味料、マンドラゴラの一部を入れて火にかけ、煮始めた。
「時間は半分を過ぎた、煮物をするには準備に手間をかけ過ぎじゃねぇのかい?」
「……そうかもね」
イサもリヨリも鍋から目を離さず短く会話をする。
イサは最後にフライパンに油を敷き火にかけた。最後の一品は炒め物らしい。
リヨリも煮え方を見つつ、マンドラゴラを次々と鍋に投入していく。
細かく刻んだ根と皮、そして葉っぱ。おたまで汁をひとすくいして味見をし、小さく頷く。
「だ、大丈夫なのか?」
「そうだねぇ。リヨリは材料を細かく刻んでる、煮る時間は短くてもいけるかもしれないよ」
イサは器用に煮物と炒め物を同時に見つつ、最初に器に入れた根と葉を取り出し水を切る。浅漬けをしていたらしい、今や根の皮は見違えるように白く輝き、葉は青々としていた。
時間は五分を切り、イサは皿にそれぞれの料理を盛り付けた。リヨリも皿を出す、しかし、マンドラゴラはまだ火にかけられているままだ。
「兄ちゃん、終了の号令も頼むぜ?」
イサはニヤリと笑い、吉仲に話しかけた。イサの作業はほとんど終わっている、吉仲は咄嗟に壁の掛け時計を見た。リヨリも気になるが、時間はもうギリギリだ。せめて時間ピッタリまで、作業できるように時計を注視する。残り一分。
リヨリが動きを早める。皿を並べ、鍋から汁を、マンドラゴラを注ぐ。
「……時間だ!ここまで!」
弾かれたようにリヨリが動きを止めた。イサは吉仲と老人達に、リヨリの分も含めた七人分を並べている。リヨリは三人前しか器を用意できなかった。
「ま、時間内に完成する必要があるのは審査する兄ちゃんの分だけさ。爺さん達に食わせる分は時間外でも別に構わねぇよ」
イサは何枚もの皿を器用に一度に持ち上げ、カウンターに座った老人達の前に置いていく。極細切りの根と葉の浅漬け、細切りにした葉っぱと頭の炒め物、大振りに切った根のだし煮。
一品一品に気品があり、まるで高級な料亭で出てくるような料理だと吉仲は思う、もっとも高級料亭に行ったことは一度も無く、味の想像もまるで付かないが。
「兄さんは悪いが審査対象の煮物だけだ、浅漬けと炒めは勝負が終わってから食ってくれ」
吉仲の前に一皿、老人達の前に三皿並べ終えられ、老人達はその料理の美しさに魅了される。
「おお、これは美味そうじゃ!」
「たしかに。浅漬けの輝くような白と緑、炒め物の艶々とした茶色のコントラスト。そして煮物の透き通るような純白。これは見た目だけでも上等の料理だって分かるよ!」
「百聞は一見にしかず、百見は一口にしかずってな。食ってみな」
イサの言葉と共に全員が吸い込まれるように料理を口に運ぶ。