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三人目の来訪者

吉仲の脳裏に、ふと疑問がよぎる。


「そういえば、トーマが帰った翌日にはもうフェルシェイルが来たけど、相当急いで来たんじゃないか?都からだと徹夜で来ないと間に合わない距離なんだろ?」


ここから都までは歩き詰めても一日は掛かる。

歩く場合は、途中の宿場で一泊し、二日掛けて来るのが一般的だ。

生真面目なトーマが歩き詰めて帰るのは想像が着くが、フェルシェイルが来るには圧倒的に時間が足りない。


もっとも馬車を使えば一日でも来れるが、駅馬車が通っているのは宿場までで、店まで来るには貸し切る必要がある。できるのは貴人や富裕な商人くらいの物だ。

実際、トーマの来店はイサが帰ってから数日の間を開けていた。


フェルシェイルは得意げにニンマリ笑い、鞄から大きな白い布を取り出す。

「ふっふっふ、違うわ。アタシにはコレがあるのよ」


「……布?」

布を引っ張りあげ、大きくはためかせると袋状に広がった。

フェルシェイルは指を弾き、掌に炎をまとわせる。


布が焼けない細心の力加減で炎は伸び、その熱気に煽られ、袋は膨らみ、やがて少しずつ空に広がっていく。


袋の口はすぼまり複数本のロープが伸び、細長い板状の皮につながっていた。袋は次第に空中に上がり、ロープに繋がった皮が垂れ下がる。


「熱気球か!」

思わず、吉仲が驚きの声をあげる。


「そういうみたいね、都からここまでくらいなら二時間も掛からずに着くわ」

この世界でも代替品は作られているが、飛ばすための炎のコントロールが非常に難しい。時折、学者達の手で極小規模の物が実験的に飛ばされる程度だ。


「へぇ……火の鳥の精紋ならではねぇ」

ナーサが膨らみつつある袋を掴みつつ感心した声を上げる、彼女も初めて見る移動法だった。


ある程度の航続距離を熱気球で飛ぼうとすると、強大かつ繊細な火の魔法を長時間放つ魔力、あるいは相応の魔法道具や燃料が必要となる。

しかし、無尽蔵にフェニックスの炎を使えるフェルシェイルにだけは関係ない。


「昨日来た時に畳んでたのはコレかぁ……」

リヨリが呆然とした声でつぶやく。巨大な袋は、白い巨人が多い被ってくるようにも見えた。

全員が静まりかえり、上を見上げる。


「あのう、ごめんください」

リヨリの背中に、後ろから、声を掛けられた。

一堂が振り向くと、小柄な少女が立っている。


深緑のマントの下には、白のフリルで縁取られた、愛らしい若草色のドレス。

ふんわりとした金のボブカットから突き立つ、尖った耳。エルフだ。

肌は抜けるように白く、対照的に瞳は深い藍色。

少女の柔らかな印象に似つかわしくない、年季が入り角張った、茶色い皮の旅行鞄を持っている。

身長は子供くらいだが、その顔つきは、どこか大人びて見えた。

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