食人ツタのステーキ
フェルシェイルが朝食を振る舞い、皿を片付ける。
「まさか、あの瑞々しいツタをステーキにするとはな……」
「ねぇ、サラダや煮物なら分かるけどぉ。本当に炎の料理人なのねぇ」
「………………」
吉仲とフェルシェイル、老人達は美味い物を食べた満足感から、とても幸福そうな顔だ。リヨリだけは食べ終わった皿を見つめて黙りこくっている。
「リヨリ、どうした?」
「……え?あ!な、なんでもないよ」
「勝負しなくて良かったわね、リヨリ」
「む~……」
フェルシェイルがリヨリの前から皿を持ち上げる。リヨリは反論しようとするが、声にならなかった。
触手植物は自由自在にツタを動かすため、しなやかで歯ごたえがあるが、それでいて柔らかい。そのうえ甘みもあり、肉のような食感の野菜とでも言うべき食材だ。
ポンプで動かすために水分量が多く、通常はサラダや煮込み料理で食べられる。
しかし、フェルシェイルは不死鳥の精紋の力で、余分な水分を飛ばし焼き目を付け、それでいて乾き過ぎない絶妙な火加減でステーキのように焼いたのだった。
熱々の体液を残しつつ、こんがりとした焼き目を付けるのは、フライパンやオーブンでは絶対にできない。
まさしくフェルシェイルにしかできない料理だった。
昨日の蝙蝠の脳もそうだったが、フェルシェイルはリヨリの想像を越える料理を作る。それが悔しいのだ。
勝負していたら、今回は負けていたかもしれない。
「いやぁ流石だねぇ、こんな立派な跡継ぎがいて、フェイネルも喜んでるだろうよ」
「まあね。せっかく始めてのお客様が相手だし、自分の得意な料理を振舞わなきゃ」
老人達もたった今目の当たりにした炎の翼と料理、リヨリの怪我の具合や、昨日の勝負について、お茶を飲む今も熱っぽく語り合っている。その表情は、全員が嬉しそうだった。
フェルシェイルが老人達の顔を満足そうに見回した。
「じゃあ、アタシはそろそろ行こうかしら」
「え?もう?もう少しゆっくりしてったら?」
思わずリヨリがフェルシェイルを引き止める。フェルシェイルが近くにいればもっと自分のレベルが上がりそうな実感があった。
「元々そのつもりだったもの。アタシももうちょっといたいけど、イサおじにも報告しなきゃだしね」
しかしフェルシェイルは肩をすくめた。
リヨリ、フェルシェイル、ナーサと吉仲が店の前の広場に出る。
「それじゃ、またね。トカゲの頭、もらってくわね」
フェルシェイルはトカゲの頭が入った包みを軽く掲げた。




