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火翼

店の前には、村の老人達が待ち構えていた。


「リヨリよ、昨日は食い損ねて残念だったぞい」

「そうだよまったく。カチさんから聞いたけど、良い食材で料理勝負してたそうじゃないかい」

「しかも何やら、すごい魔法があったんじゃってな、どうしてワシらを呼ばんかったんじゃ」


老人達が口々に嘆きを発する。

彼らは昨日、リヨリ達が蝙蝠を捌いている間に来店したが、店が閉まっていることを知り、そのまま帰ったのだった。


その後のことをカチに聞かされ、美味い料理と白熱する勝負を同時に楽しむチャンスを失った老人達の落胆は大きかった。


「あはは、ゴメンゴメン。呼びに行く感じじゃなくてさ」

「この人達は?」

フェルシェイルがリヨリに尋ねる。


「ウチの常連さんだよ。いつもウチでお茶してて、イサさんやトーマとの戦いは立ち会ってくれたんだけどね」


食通の老婆、チーメダが一人前に出て、値踏みするような目で、ジロジロとフェルシェイルを眺めはじめた。


「アンタが昨日の勝負の料理人かい?店は?」

「翔凰楼のフェルシェイルよ」

「へえ翔凰楼!あの“火翼”のフェイネルのかい?」


チーメダの目の色が変わる。老婆の瞳はアイドルに憧れる少女のようにキラキラと輝いた。


「フェイネルはアタシの母さんね。でも母さんが調理場に立ってたのなんて、もう十年も前だけど……」

「まさかフェイネルの娘とは……アタシはヤツキ、リヨリの父親の味に惚れ込んで昔にこの村に越してきたから、ちょっと情報が古いのさ。お母さんは元気にしてるかい?」

「あー……その、母さんはアタシが小さい頃に、病気で亡くなってて……」


フェルシェイルの表情は伝えにくそうではあるが、悲しみは無い。


「あらそうかい……そいつはすまないね」

「別にいいわよ、母さんの味はしっかりアタシが継承しているもの。食べたくなったら、いつでも翔凰楼に来てちょうだい」

「そいつは楽しみだ……そうだ!なんなら今日の朝食を作ってくれないかい?特別な火の翼の魔法を使うんだろう?お代は弾むからさ!」

「なるほど、そいつは良いのう!」

「勝負じゃないにせよ、珍しい魔法が見れるのは楽しみじゃ!」


チーメダの提案を老人達が囃し立てる。フェルシェイルも乗り気だった、料理で人を喜ばせるのは、料理人冥利に尽きる


「ええ?料理は私が作るよ?」

困惑したのはリヨリだ。献立を考えている時に、料理の機会を奪われるのは料理人でなくても不満が残る。フェルシェイルはニヤリと笑った。


「あら、じゃあ勝負する?」

「しないよ!!……う、イタタタ……」

咄嗟に大声を張り上げたリヨリは背中を抑えてうずくまる。


ナーサがリヨリの肩を抱き、背中をさする。

「無理しちゃダメよぉ。まだ治りきって無いものぉ」

「そんなんじゃ、お客に食べさせられる物作れないでしょ。ま、アタシに任せておきなさい」

フェルシェイルはすっかり得意げな表情になった。

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