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二足トカゲ解体

翌朝、吉仲とフェルシェイルがトカゲを運び込む。リヨリの怪我はある程度は治っていたが、力仕事はまだ難しい。


「ほう。二足トカゲか、なかなか大物じゃ。昨日のツタと言い、さすがに魔術師が二人もいればダンジョンでも楽に収穫できるのう」

「そうでもないわよ、大分苦戦したし」

「リヨちゃんは怪我もしたしねぇ」


フェルシェイルとナーサが顔を見合わせ苦笑した。カチの顔に緊張が走る。


「怪我?リヨリ、大丈夫なのか?」

「ちょっと背中を打たれただけだよ。ナーサさんに治療してもらって大分良くなったし」


リヨリは気丈に振る舞うが、歩き方はどこかぎこちない。


「まったく気をつけるんじゃぞ。お前にもしものことがあったら、ヤツキに申し訳が立たんわい」

「はーい……じゃ、ロープを解こうか」


吉仲が作業台に載せ、フェルシェイルがロープの魔法を解除する。戒めを解かれたトカゲはダラリと全身の力を失った。


「なんじゃ?骨が折れているのか?」

「色々あってね……骨の支えが無いと、皮を剥くのも苦労しそうだなぁ」


カチが腕を持ち上げると、二の腕の真ん中で折り曲がった。

まるで蛸でも持ち上げたような状態だ。そのまま軽く振ると、簡単に引っ張られて、全身が揺れた。


「これはまた酷いのう。どういう倒し方をするとこんなことになるんじゃ?巨人に握りつぶされでもしたのか?」

「はは……まったくだ」


吉仲の苦笑に、リヨリが肩をすくめる。


「まあ、とりあえず……捌いてみようか。フェルシェイル、お願い」

「ん、まずは内臓を出した所から、皮に切れ目だったね」


リヨリから山刀を受け取り、フェルシェイルがトカゲの正中線に切れ目を入れる。

腕の立つ料理人だけあって、そのナイフ捌きは堂に入っていた。


「リヨリ。フェルシェイルに作業を任せるほど、体が痛むのか?」

「アタシがやりたいって言ったのよ。せっかくだし、捌く所までやってみたくなってね」


カチと話をしながらも、正確に皮に切れ目を入れる。


「ほほう、それは勉強熱心じゃの。感心感心」

「こんなところね。吉仲、お願い」

「ああ」


正中線、首回り、腕と脚の付け根に切れ目を入れた後、吉仲に抑えさせての皮を剥ぐ作業に入る。

「大変じゃないかコレ?」


胴体は特に骨がメチャクチャに折られていて、吉仲が抑えることすら難渋する。

脂肪は少なく皮そのものは剥ぎやすい部類だが、捉えどころが無く刃を入れるのも難しかった。


「そうだねぇ、フェルシェイル、替わる?」

「ううん。もうちょっとアタシにやらせてみて」

しかし、フェルシェイルは難しいと言われると燃えるタイプだった。


吉仲に固定させて、細心の注意で刃を入れ、少しずつ皮を引っ張りながら山刀を入れる。

初めて捌く、難しい状態とは思えないほど綺麗に剥がれていく。


「へぇ、やっぱりフェルちゃんすごいわねぇ」

「包丁技術でここまでできるとはのう」

ナーサとカチは完全に見物の姿勢で、感想を言い合う。


「魚の皮引きと似てるわね。掴み所が少なくて滑るけど、皮と肉の間に切れ目さえ入れられれば多分なんとかなるわ」


胴体、背中と慎重に剥ぎきると、後は早かった。


手脚を落とし、手首と足首を一周するように切れ目を入れ引っ張ると、引っ張り出すことができた。手脚はそのまま蔵へしまう。

首を落とし、肉を切り出していく。作業しながらも骨を少しずつ取り除き、やがていくつかの肉塊となった。

この状態まで来ると、元は二足歩行のトカゲだったと言われても分からないだろう。


「ふぅ。こんな所かしらね」

「うん、ありがとうフェルシェイル!」

「骨のかけらがまだありそうだから、調理する時は気をつけなさい。あと、作業の手間賃ってわけじゃないけど、この頭、もらって行って良いかしら?」

「いいよ、どのみちフェルシェイルが精紋使わないと食べられないだろうし」

「そういえば脳みそも食うんだったな……」


フェルシェイルが頭を持ち上げ、微笑む。トカゲの生首に笑いかける少女は、吉仲にはどこか異質に映る。


「ありがと、これは今日の店のメインに使おうかしらね」


自分が食べるわけじゃないことで、吉仲は安心した。

「片付けて戻るか」

「うん、朝ごはんは私が作るね。フェルシェイルも食べて行きなよ」

「そうさせてもらうわ」


肉塊とトカゲの頭を蔵にしまい、代わりに触手植物のツルを持っていく。作業台を清め、カチも伴って店に向かう。

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