炎の嵐
「ナーサ!魔法陣、見つけたぞ!」
リヨリとフェルシェイルが攻めあぐねている時、壁際に立った吉仲が声を上げる。
「明かりの魔法陣?そんなのそこらにいっぱいあるじゃない!」
フェルシェイルが声をあげると共に、ナーサがリヨリとフェルシェイルに近づいた。
「ふふ、違うわよぉ。フェルちゃん、あのツタを丸ごと焼き払えるような大きな炎。用意してもらっても良い?」
「え!?何言ってるのナーサさん!食べられなくなっちゃうよ!」
リヨリが思わず、ナーサに向き直る。ナーサはリヨリの肩を掴んでトカゲの方に回す。
「落ち着いてぇ、獲物から集中を途切らせちゃダメよぉ。私の言う通りにやれば大丈夫。……いい?」
ナーサがリヨリに耳打ちをして、カバンをまさぐる。リヨリの表情が緊張で強張った。
「アタシはいつでも行けるわよ。……どうなるかは知らないけど」
「大丈夫ねぇ。じゃあ、吉ちゃん、お願いねぇ!」
「あ、ああ!」
吉仲は床に描かれた魔法陣におたまを突き立てた。リヨリとフェルシェイルは目を瞑るが、光は発生しなかった。
魔法陣はブロックノイズが掛かったように揺らぐ。
狂ったように淡い燐光を吐き出しつつ、紋様がうねる。
光の魔法陣の時はすぐに発生した強烈な光で魔法陣の様子までは見えなかったが、今は吉仲も書き換わっていることがよく分かった。
遠くから、風の音が聞こえる。フェルシェイルとナーサの、長い髪が翻った。
「フェルちゃん、今よぉ」
「ホントもう、どうなっても……知らないわよっ!」
ナーサの声に合わせ、フェルシェイルは目を開く。
両手を掲げ、敵に向かって大きく交差させる。
華奢な腕の動きに合わせて、二つの炎の翼が羽ばたいた。
翼はぶつかり合い、燃え盛る巨大な一つの炎の塊となってトカゲとツタに迫る。
この大きさなら二つとも焼き払えるだろう、吉仲は確信した。
しかし、何かに阻まれるように炎は動きを止めたように見えた。
「……え?」
「来るわよぉ……気をつけてねぇ、フェルちゃん、リヨちゃん」
風の音が聞こえる。留まっていた炎が揺らいだ。
炎は風と共に逆巻き、リヨリとフェルシェイルに襲いかかる。
「え?ちょ、ちょっと!」
ジェット気流のような轟音と共に、嵐のような暴風が吹き荒れる。
フェルシェイルは焦って腕を振り回し、炎をかき消す。
灼熱の熱気が二人の体を打ち、ドッと汗が吹き出る。しかし、幸いにも火傷は負わなかった。
「リヨちゃん」
「う、うん……!」
トカゲは炎と風にひるんでいる。
ツタは炎から身をかわすため壁際にくっつき、暴風に翻弄され、その身を強張らせていた。
リヨリが一歩踏み出す。風が止んだ。
難なく見つけられた一番太いツタの根に、山刀を入れる。
山刀はなんの抵抗もなくツタの根に呑み込まれ、反対側から抜けていく。
野菜でも切るようにツタの根は両断され、切り口から緑色の液体が吹き出す。
もつれ、絡み合うツタの全体がドクンと跳ねた。
「危ない!」
フェルシェイルが叫びをあげる。




