エンカウント
殺風景な荒削りな土の壁に、等間隔に並ぶ明かりの魔法陣。
床はボロボロの石畳、部屋の奥には朽ちかけた木の扉。
階段を降りた地下二階は、一階と大きく変わらないように見えた。
部屋から出た後の廊下の構造が違うくらいで、残りはほとんど一階と同じだ。
今度は吉仲が拍子抜けをした。
「魔法のダンジョンって言うくらいだから、一階ごとに見た目が大きく変わるもんだと思ってたけど……」
「一階ごとに内装が大きく変わるような所は、かなり珍しいって言うわねぇ。でも魔物や罠は変わるかもしれないから気をつけてねぇ」
気を引き締め直し、一行は二階を進む。しかし、やはりモンスターは現れなかった。
二階でも出る魔物はスライムとジャイアントバットのみらしい。
「……カチじぃは三階まで行ったって言ってたよね」
二階をあらかた調べ終わる頃、リヨリは誰にともなく呟いた。
三階への階段は、最奥の少し手前で嫌な冷気を放っていた。
「ああ、カチさんと初代は魔法の道具を借りて三階まで進んだんだったな」
「そういえばそうねぇ。つまりぃ……三階には魔物が多いか、もしくはぁ……」
ナーサが溜めを作る。
吉仲にはどこか不気味に響いた。階段の冷気が背筋を走ったかのようにゾクリとする。
「もしくは……?」
「数は少ないけど、とぉっても恐ろしい魔物がいるか、かしらぁ」
「ええ……じゃあ、日を改めて……」
吉仲はフェルシェイルとリヨリを見る。
「何言ってるのよ、上等じゃない。ここまで来て何も獲れずに帰れませんでしたなんて嫌よ」
「それに、お父さんは一人で五階まで行ったって言ってたし、そこまでじゃないんじゃないかな」
及び腰の吉仲を、リヨリとフェルシェイルが囲む。逃げられないと吉仲は思った。
「そうそう~。浅い層で腕の立つ魔術師が二人もいて、危険になることなんてまず無いわよぉ」
ナーサも下へ進んでみたいようだ。
吉仲は、ナーサも目的を達してなかったこと思い出す。
おたまを眺めてため息をつき、三人に着いて行く。ほどなく、冷気を放つ階段を降っていった。
三階層へ辿り着き、廊下へ出る。
空気が変わったと、全員が思った。
魔力の無い吉仲ですら、悪寒が止まらない。
ここに比べると二階までのなんと穏やかだったことか。
鳴き声が聞こえた。
南国の鳥の鳴き声のような、甲高い叫びだ。
吉仲達に向かって声を発しているようだ。しかし、手元の明かりでは奥までは見えない。
「……やばくない?引き返さない?」
「威嚇かしらぁ?言語には聞こえなかったわねぇ」
「うん、気をつけて進もう」
ナーサが鞄の留め金を外し、リヨリは山刀を抜き放つ。
フェルシェイルのジャケット越しに精紋が赤い光を放つ。
吉仲はおたまを見て、もう一度ため息をついた。




