vsフェルシェイル決着
二人の視線が吉仲で交差する。
吉仲はさほど悩んでいるようには見えなかった。
「俺は決まってるよ。リヨリだ」
リヨリが両手を広げて喜びを表現する。フェルシェイルが驚愕の声をあげる。
「なんでよ!?」
むしろフェルシェイルの料理は、吉仲が今まで生きてきて一番美味い料理と言っても過言ではなかった。
ただ一点、調理過程さえ思い出さなければだが。
しかし、思い出すまいとするほどに思い出してしまう人の性が、吉仲の脳裏に蝙蝠の脳、蘇生、断末魔を浮かび上がらせる。
「……フェルシェイルの料理はうまかったけど……脳の蘇生が……ちょっと、その、グロテスクで……。後から考えるほどに、食べてる時ほど美味しく感じられなくなったというか……」
「はぁ?何よそれ!」
味覚は、心理状態によって変化する。
嬉しい時や楽しい時はジャンクフードも高級料理を上回る。
同様に、ネガティブな感情を抱いている時は味覚は減退し、味を感じなくなるのだ。
そして、食べている時の味わいは、食べ終わった後は記憶として残る。その時の記憶の作用は、記憶の味わいにも変化をもたらす。
「そういえば、吉仲は脳が駄目だったのう。まさに締めたての新鮮な脳を味わえるなんてそうそう無いことなんじゃが」
「いや、このさい脳自体は良いんだ。食べられたし、うまかったし、今は食材として見れると思う。もしかしたら、あの蘇生を見えない所でやっていれば、フェルシェイルの勝ちだったかもしれないけどな……」
味は拮抗していたが、食べている最中の感動はフェルシェイルのコース仕立ての提供の仕方が、リヨリの料理を上回っていた。
しかし、後から思い出すほどに、蘇生魔法のくだりのマイナスを強く感じる。
「蘇生なんて普通なら絶対に見れない貴重な一瞬なんだけどぉ……そうねぇ、知らない人が見ればキツいかもしれないわぁ」
「……う~……なんなのよそれぇ」
フェルシェイルが子供のような唸り声をあげた。しかし、すぐに首を振る。
「……納得がいかなくても、誓いは誓い。勝負の結果に異論を挟むことなし、よ……」
結果的に、自分の能力をアピールするための蘇生の炎が、裏目に出た形だった。
審査員次第では負けていたかもしれない、リヨリはホッと胸をなでおろす。




