ジャイアントバット判定
黄金色に焼かれ、パセリが載った三品目を前に出す。
「ふふん。メインディッシュは、これよ」
しかし、すでに脳のペーストを味わった三人は、乗り気にはなれなかった。
「とはいえ、炙られただけだとのう……」
「いいから、召し上がれ」
フェルシェイルが自信を持って言う。三人は言われるがままに一口かじった。
「なっ……」
「これは……」
「この風味はぁ……」
最後の炙りと彩りのパセリを除けば、二品目とまったく同じ料理である。
しかし、味はまるで異なっていた。
焦げ目のために表面は薄く固まり、もっちりとした新たな食感が加わっている。さらに焦げ目は味わいに深みを、コクを与えている。
生ハムとクリームチーズを載せたビスケットが高級料理の前菜として十分通用するように、翼膜のスナック感に脳の食感、焦げの風味が渾然一体となり、味の相乗効果を及ぼしている。
そしてその相乗効果は前菜の域を超え、メインディッシュとしても成立する逸品となっていた。
二枚、三枚と口に入れる。手も口も止まらなかった。
最初の翼膜だけの物から見た時に、味わいのギャップを出し、さらに味わいが徐々に強まっていくことでフルコースのように満足感を演出する効果もあると、吉仲は感じた。
フェルシェイルが三人の様子を見て、満足そうに微笑んだ。
「アタシの炎、味わってもらえたかしら?」
まさしく、炎がこの料理の精髄だった。
翼膜の炙り、脳の蘇生、そして二つを結びつける焦げの焼き目。
全てがフェルシェイルの炎でのみ生み出せる神業だ。
「さあ、判定を聞かせてちょうだい」
フェルシェイルの声には、自信がみなぎっている。
リヨリは唾を飲む、イサの時のような敗北感は無かったが、トーマの時のような勝算も無い。
初めて、真剣勝負の場に立った気がした。
審査員となったナーサもカチも本気で悩んでいる。
甲乙つけ難い物に判定を下すのは、苦しみを伴う。しかし、引き分けは許されない。
「うーん……」
最初に口を開いたのは、ナーサだった。空になった皿をじっと見つめている。
「……悩ましいけどぉ、僅差でフェルちゃんかしらぁ?」
フェルシェイルが小さくガッツポーズをする。
リヨリは、フェルシェイルもまた真剣勝負の場に立っているのだと気づいた。
拮抗しているなら、まだ勝ち目はある。
「皮が丁寧に炙られてパリパリを越してサクサクだったのは初めての食感だったしぃ、その上に乗った新鮮な蝙蝠の脳のペーストのクリーミィさ。そしてその二つが合わさりお菓子みたいな感じだったのが、最後に炎に焼かれることで、一気にフルコースのメインと言っても過言じゃない満足感をもたらしたわねぇ。私、ギャップに弱いのよぉ……リヨちゃん、ゴメンねぇ」
「ううん、いいんだよナーサさん。真剣に判定してくれてありがとう」
ナーサが疲れ果てたようにため息をつく。リヨリとフェルシェイルが、カチと吉仲に目を向けた。
「うむむ……どっちも美味くてワシには優劣を付けられんわい。単純にワシの好きな味付けで選ばせてもらうよ」
カチはお手上げとでも言うように頭を振った。
「リヨリじゃ。……リヨリの料理の肉を食ったという強烈な実感がワシの好みじゃった、それだけじゃ」
リヨリが力強く頷く。これで一勝一敗。
「ふん、審査員の味の好みまでは分からないものね。さて、奇しくも一対一、結局勝敗は吉仲次第ってわけね」
リヨリは背中を冷や汗が伝うのを感じた。




