食通
ナーサは口に含んだ、翼膜餃子を舌の上で転がす。
「じゃあ吉ちゃん、この、このコリコリとした面白い食感は何かしらぁ?」
「うーん、さっきの食材だと……耳かな。肉の風味を引き立てつつ、食感も増す効果があるな。野菜少なめの肉餃子なのにくどくなく、飽きが来ない味に仕上がってるのは耳のお陰だと思う」
ナーサがもう一つ頬張る。あっという間に残りの一つとなった。
「へぇ。これ蝙蝠の耳なのねぇ。軟骨かしらぁ?食べ応えがあるわぁ」
フェルシェイルがとっさに皿から最後の一つを食べ、瞳を見開く。
「……ふん、なかなかやるじゃない。それでこそアタシが焦がれた強敵よ」
「ありゃ、もう無くなってしまったわい」
最後の一個を狙っていたカチの箸が宙を滑った。
「うぅん……本気のリヨちゃんの料理、美味しかったわぁ」
ナーサが幸福のため息をつく。
「俺は鶏皮餃子が好物なんだけど、これは正直もっと旨かったな。全然食べ足りないよ」
吉仲は腹をさすった。朝からの重労働でまだまだ腹は空いている。
「まったくじゃ。おかわりが欲しいぞい」
最後の一個を食べ逃したカチは箸を未だに握っていた。
「ふふっ、ありがと!じゃ、次はフェルシェイルの番だよ!」
フェルシェイルが三人の前に水を置く。
「……しかし吉仲よ。お前、いつの間にここまで食材が分かるようになったんじゃ?ここ何日かで覚えるほど食ったかの?」
カチが水を飲み、一息吐いてから吉仲に尋ねる。
「あー、今回の食材はほとんど蝙蝠だったからかな。知ってる食材は、料理を食べた時にピンと来るようになってきたんだ」
「ここに住み始めてから、店にある物はできるだけ食べさせてたからね。少しずつ味を覚えてきたよね」
「そういえば、イサおじが未来の美食王になるかもしれない男がいるって……まさかアンタなの?どういうことよ?」
料理の皿を並べながら、フェルシェイルが怪訝そうな顔で吉仲を見る。
「えーと……なんて言えば良いかな、食べた時に食材と調理法が分かる特殊能力があってさ、イサさんはそれで美食王だなんて言ったんだよ。大袈裟だよな」
「へぇ、……でも大袈裟とは限らないわよ。美食家は舌が正確であるほど格上と言われるからね。――食べるだけなら誰でもできる、その味を正確に見極め、真なる美味を味わえる者こそが美食家である――なんて、美食家達はそんなこと言ってるしね。それに……」
フェルシェイルが、最後の一皿を吉仲の前に置いた。三人の前に、それぞれ三枚の皿が並べられた。
「食べた食材と調理法が全てが分かる能力なんて、精紋にだって匹敵するわ」
炙った翼膜だけ一枚乗っかっている皿、翼膜は炎に炙られたせいで脂が完全に抜けきり、乾き、不規則に脈打っている。
二枚めはペースト状の脳を載せた皿、調理を施した白いペーストは高級なクリームのようだ。
最後は、そのペーストをさらに炙った皿だ。ペーストに焦げ目がつき、パセリが目に鮮やかだ。




