翼膜の包み焼き
フェルシェイルが不敵な笑みを浮かべる、自分の料理に絶対の自信を持っていた。
「アンタからで良いわよ」
「うん。じゃ、そうさせてもらうね。翼膜の包み焼きだよ、熱々だから気をつけてね。さあ、召し上がれ！」
リヨリは三人の前に皿を並べる。
焼き上げられた翼膜は、ツヤツヤと輝きを放ち、香ばしい香りが空腹を頂点まで引き上げる。
「ほほう、こいつはうまそうじゃ」
「いただきまぁす」
三人が箸を伸ばし、思い思いの調味料を付けてかじる。
「熱っ、ん。パリパリでうまい……」
丹念に焼きあげた結果、皮の余分な脂は除かれ、パリッとした感触が心地よい。
咀嚼するとパリパリの皮の下に、ジューシーな肉が現れる。熱々を食べたから口の中が火傷しそうだ。だが、どこか野生的な風味を持つ肉汁の味は、熱さも忘れさせるほどだった。
翼膜はさばく時にカチが言った通り、うまかった。
パリパリの皮の下にしなやかな歯ごたえがあり、淡白ながらも肉とは異なる皮のふくよかな旨味が染み出すような、今まで食べたことの無い味わいだった。
肉と皮の別種の旨味が作り出すマリアージュ。
吉仲の脳裏に別の料理が思い浮かんだ。
「あ……これは鶏皮餃子！」
吉仲は、思わず残りの半分を口に入れる。
「何言ってるの吉仲？蝙蝠は鳥じゃないよ？包んでるのも皮じゃなくて翼膜だし」
「……それは知ってるよ、一緒に捌いたろ蝙蝠。俺の国にそういう料理があって、料理として似てるんだよ」
リヨリの言葉にバツが悪そうに返しつつも、もう一つ頬張る。
「この料理で、蝙蝠の翼膜の代わりに鶏の皮を使うのぉ？ふぅん、たしかにそれも美味しいかもねぇ」
「うむ、だが翼膜か肉か、鶏には無い野性味があるのう。パリパリの翼膜、ジューシーな肉の他に、コリコリした食感も楽しいぞい」
ナーサとカチは幸せそうに頬張り同意した。
「あら？血なまぐさい肉で本当に美味しいかしら？」
フェルシェイルは怪訝そうに尋ねた。
元々血の味の強い食材は、少しでも血抜きに失敗すると血の風味で料理を台無しにしてしまう。
食べた時点で血の味からは逃れられないはずだ。
「ああ、たしかに血の風味はする。というか、カチさんの言う野性味ってのは血の味だな」
吉仲は一つ、もう一つと口に入れていく。
一つ一つが小ぶりだから、熱さにさえ慣れればいくらでも口に運べそうだ。
血のかすかな風味が、肉を食べる満足感と、生物としての本能が刺激されるような感覚に繋がり、食欲をますます強めていく。
「でも、ミンチにされたことと、たっぷり入ったネギとニンニク、刻んだ香味野菜が血なまぐささを消している。むしろ残ったその微かな血の風味が全体にコクと野性味を与えて、味に深みを生み出しているくらいだよ。肉のジューシーささえも引き立てている、めちゃくちゃ旨いよ」
「へへっ。血抜きに失敗したからって食材自体を無しにするんじゃなくて、それなりの使い方を考えなきゃね」
リヨリは料理がうまくいって満足げだ。フェルシェイルへ一歩リードした感覚もする。
