精紋
火の鳥の輝きが、動きに見とれていた吉仲を引き戻す。
「……なあナーサ、さっきも聞こうと思ってたけど、精紋って?」
「そうねぇ。人智の及ばない神獣の力を、無尽蔵に借りられる紋章、かしらぁ」
通常、魔物は大地から湧き上がる魔力に集まり生態系を形成する。
魔力と栄養素の違いはあれど、通常の生物と同様に外部から糧を得なければ生存できないのだ。
しかし、中には自らの身体から膨大な魔力が湧き上がり、その力で自給自足できる強大な魔物も存在し、それらは神獣と呼ばれている。
意思を持ち、無限に近い魔力を操り、天然のダンジョンを産み出す。
まさしく神に匹敵する恐ろしい存在として人々に畏怖され、崇められている。
神獣は人前に姿を表さず、また人も普通は神獣に近づこうとはしない。
強大すぎる力は天災と変わらないのだ。
火山の噴火から力を得ようとするものはいない。力より先に避けようのない死が訪れるためだ。
ただ長い歴史の中に、命を捨ててでも力を求める者や、神獣自身の気まぐれにより、例外が起こることもたびたびあった。
「そう、アタシの祖先がフェニックスから授かったのがこの力。精紋に懸けて、アタシは負けるわけにはいかないの……!」
フェルシェイルの脳裏に、母の墓標が浮かぶ。そして、再び炎の舞。
最初に炙った蝙蝠の翼より、かなり数が減っていた。
リヨリもフライパンで食材を焼きはじめた。
焼き目がついたらフライパンに水を差し、蓋をして蒸し焼きにする、しばらくして水が無くなったタイミングで蓋を取り、さらに焼き上げる。
熱気と共に香ばしく焼ける香りが鼻をくすぐる。終わりの時間は近い。
フェルシェイルが最後に一際強く炎を吹き付けると、黄金色に輝く料理が形を現した。
手早く皿に盛り、最後に塩胡椒で味付けを整える。
スナック菓子のようにパリパリに焼き上げられた翼の上に黄金色にこんがり焼かれた白いペースト。
皿に並べてパセリを散らす。
材料を知らなければ高級料理と言っても通じるだろう。
一方リヨリは、まだフライパンから手を離さない。
焼き目を見ながら、皮の全体を丹念に焼き上げている。
「残り一分」
吉仲の言葉と共にフライパンから下ろし、皿に並べていく。
「時間だ、そこまで!」
小皿にチリソースと塩を盛りつけたタイミングで、吉仲が声を張り上げる。
リヨリだけでなく、ナーサとカチからも溜息がこぼれた。




