赤く輝く黄金の炎
「フェルシェイル。耳、もらっていい?」
鍋に湯を沸かし始めたリヨリは、フェルシェイルが持ってきた包み、蝙蝠の頭を指差した。
「耳だけならね。好きに使えば良いわ」
「ありがとう」
蝙蝠の耳を切り落とし、次いでリヨリは肉の塊の外側を切り落とし、可食部を取り出す。
皮と同様に、脂肪がほとんど無い、赤身ばかりの肉だ。肉をスライスし、さらに細かく刻む。
「リヨリは作る物が決まっているみたいじゃのう」
「ああ、それに急いでるみたいだな。手間が掛かる料理なのかも」
二本目の包丁を取り出し、細切れになった蝙蝠の肉を小刻みに叩く。ミンチにするらしい。
叩き、まとめて、形を整え、また叩く。リズミカルな音が店内に響き渡った。
対するフェルシェイルも鍋に水を入れ、火にかけたままリヨリの動きを眺めている。
口元には不敵な笑み。
「フェルちゃん、動かないのぉ?」
「肉も用意してないけど大丈夫なのか?」
フェルシェイルは鼻で笑う。
「このお肉の及第点ってのはあくまで家庭料理のレベルよ。プロは血抜きに失敗したお肉なんて使わないわ。食材は常に最上の物を使わないと。……これとかね」
耳が切り取られた蝙蝠の頭を持ち上げる。
「……頭?」
包丁を当て、頭頂の皮を剥ぎ、包丁の背で頭蓋骨を割る。
脳が露出した、血管はどす黒い紫色で、脳細胞は淀んで黄色く変色している。
脳は血が回らなくなるとすぐに分解が始まるため、締めた直後に取り出し処理をしないと瞬く間に品質が落ちる。
「最上?脳は肉以上に質が悪いぞ。時間が経ち過ぎておる」
カチとナーサは興味津々だが、吉仲は見ていられなかった。
リヨリが肉を刻み続けている方に目を逸らした。
「普通だったらそうね。でも、アタシだけは違う。代々受け継いできた火の鳥の精紋の力、見せてあげるわ!」
コックコートの下、フェルシェイルの肩の紋章が輝いた。
厚手のコックコートの上からも赤い光が透けて見える。リヨリの方を向いた吉仲も、その輝きから眼を背けることはできなかった。
リヨリですら手を止め、フェルシェイルを向いた。
「本気の本気で、勝ってみせるわ……」
「まさか……」
脳を露出した蝙蝠に手をかざす。ナーサの声は今までに無いくらい緊迫していた。
「火の鳥の精紋よ、その力を解き放て……。黄泉の夜闇に眠りし者に、再び朝日の輝きを……フェニクシア=リヴァイン!」
フェルシェイルの両手が、蝙蝠の頭が黄金色の炎に包まれる。
店の誰もが、その光からは目を離せなかった。




