ジャイアントバット勝負!
「ただいま!」
しばらく時間が経ち、リヨリとフェルシェイルが戻ってきた。
リヨリは翼膜の包みを、フェルシェイルは別の大きな包みを持っている。
肉の包みではなく、頭の包みだ。
「どうしたのみんな?なんの話してたの?」
「んー……料理が楽しみぃって話かしらぁ」
ナーサの声にカチは頷き、吉仲は肩をすくめた。
「ふーん、ちょっと待っててね」
リヨリは翼膜をカウンターに置き、奥の部屋に引っ込む。
フェルシェイルも包みを置き、赤いジャケットを脱いだ。下は白いタンクトップ一枚だ。
「え?ここで着替えるのか?」
「悪い?どうせすぐ終わるわよ」
白い肩に輝く、炎の中で翼を広げる赤い鳥の紋章が目を引いた。ナーサが感嘆の声を上げる。
「あらぁ?それはぁ……まさか、精紋?」
「そ。アタシはそんじょそこらのパイロマンサーとはレベルが違うのよ」
フェルシェイルはそう言いながら、白のコックコートを手早く身にまとい、タイを締め、エプロンを腰に巻く。
コックコートのボタンもタイもエプロンも濃赤色で、白いコックコートとのコントラストが美しい。
さらに手際よく髪を三つ編みにして、頭の上で丸めてお団子にする。
豊かな赤髪は瞬く間に圧縮され頭の上に収まった。その上から白い帽子を被ると、鮮やかな早着替えと共に料理人の姿となった。
吉仲が精紋について聞こうとした瞬間、白い割烹着、勝負服のリヨリが奥から姿を現した。
「お待たせ。カッコいいねそのコックコート」
「ふふん、アンタも悪くないわよ。……さて、じゃあお題はジャイアントバット、勝負は一品。審査員は……」
フェルシェイルが椅子に腰掛ける三人に眼をやる。
「吉仲?」
「あら、せっかく三人いるんだもの。三人でやってもらいましょう。三人の内二人が推した方の勝ちよ」
「ほう、ワシらもか」
「あらぁ?私達、リヨちゃんに有利判定しちゃうかもよぉ?」
「そうね。でもそれを味で覆すことに意味があるんじゃない!……いいわねリヨリ?」
フェルシェイルの目が赤く輝く。炎が燃え盛ったように見えた。
「うん、良いよ。吉仲は分かってるだろうけど、ナーサさんもカチ爺も、贔屓しちゃダメだよ!」
カチとナーサが頷き、三人はカウンターに座り直す。
「ふふっ、後悔しないでよ?……翔凰楼の料理人にしてパイロマンサーのフェルシェイル!父の店の名と、母より受け継いだ火の鳥の精紋に賭けて、料理勝負の結果に異論を挟むことなし!」
「リストランテ・フラジュの料理長、“食の革命児”ヤツキの娘、リヨリ!この店と父の名に賭けて、料理の味での勝敗に異論を挟むことなしっ!……吉仲。合図お願い」
「よし、今から三十分、勝負開始だ!」
誓いは立てられ、勝負の幕は切って落とされた。




