待ち時間
フェルシェイルが咳払いをする。
「勝負の前に、そのジャイアントバットを見せてもらえる?」
リヨリはフェルシェイルを厨房に入れ、包みを解く。
さっき解体した肉の一部が姿を現した。
「ちょっともらうわね」
フェルシェイルが外気に触れていた外側の肉を包丁で削ぎ、食べられる部分を切り出す。
包丁は専門ではないと言ったが、その正確な手際だけでもかなりの技量が伺えた。
そして、肉片を持った手が炎に包まれた。ナーサを除き、全員が眼を見張る。
炎を自由に操る、それがパイロマンサーの能力だ。
肉片はすぐに炙り焼きになり、フェルシェイルは一口で頬張った。
肉の焼けた匂いが吉仲の鼻腔をくすぐり、空腹感が増した。
「……ん、まあまあね。でも最高にはほど遠いわ。首を切って締めたでしょ?」
「え?どうしてそれを?」
「元々血の味の強いお肉だけど、血なまぐささが強いわ。ジャイアントバットは大きく強い心臓を突いてポンプ効果で血抜きすべきなのよ、頸動脈を切ると血が抜けるまで時間が掛かって、お肉に血の臭いが染み付く。……でも血抜きをするまでの時間は早かったみたいね、ある程度は抑えられている。品質的には及第点って所ね」
「そうだったんだ……」
「すごいな、一口でそんなことまで分かるのか」
「それにあの火力とタイミングねぇ。簡単にやってみせたけど、ちょっとでも弱いと生焼けに、ちょっとでも強いと黒焦げになっちゃうわぁ。パイロマンサーは伊達じゃないわねぇ」
「ふふん、アタシの専門は炎とお肉とって言ったでしょう?それとも食材を変える?アタシはそれでも構わないわよ」
「……ううん、このままで良いよ!」
「大した自信ね、面白いわ」
リヨリが蝙蝠の肉に目を落とす。解体した後の肉は、外気に触れていた外側を削いで、中の肉を使う必要があり、取れた分よりもっと小さくなる。
「でも、料理勝負をするなら、もうちょっと必要かも。ちょっと取ってくるね」
「ならアタシも行くわ。使いたい部位があるかもしれないし」
「分かった、行こう。すぐ戻るからみんなはここで待ってて」
カチから鍵を受け取り、リヨリとフェルシェイルが出て行く。
カチは三人を見送りお茶をすすった。吉仲とナーサも椅子に座る。
「最近のリヨリは生き生きしておるの」
「ああ、料理勝負が楽しいみたいだな」
「それもあるが、こうなったのは吉仲が来てからじゃよ」
カチの声に、ナーサがふふっと笑った。
「俺?なんで?」
「唯一の肉親のヤツキが死んだ後、リヨリはずっと張り詰めておったわい」
「そうねぇ、お店のお客さんもどんどん減って行ったし、自分の今後もどうすれば分からなくて、パンク寸前って感じだったわぁ」
「イサとの勝負の日に吉仲が来たから、ワシも最初は勝負で店の存続の道筋が立ったお陰かと思ったが、その後見ていて思ったよ。吉仲の世話をしている時も楽しいみたいじゃな」
「世話って。ペットじゃないんだから……」
「ふふ、そうねぇ。弟みたいに思ってるのかもぉ」
そっちの方がマシかと思ったが、そんなに変わっていない。
「そうさの。爺婆に囲まれて育った割に、世話を焼くのが好きな子じゃからなぁ」
「いや、俺、リヨリよりだいぶ年上……」
ナーサとカチが笑いだす。受け入れられていることは悪い気がしないが、扱いが軽い気もする。




