新たな来客
赤髪の女性が白い袋を畳み終えて、鞄に入れる。
それから伸びをした。
「お客さん……じゃないよね。多分」
リヨリの声に緊張が混じる。
「昨日の今日でか?トーマが帰った後すぐに、しかもかなり急いで来ないと来れないんじゃ」
「それだけ気合の入った相手ってことねぇ。さっそく楽しみぃ」
「ナーサさん……楽しみじゃないんだけどな……」
赤髪の女性は、近づいて見ればトーマと同年代くらいの少女だった。少女もこちらに気づく。
振り向くと同時にウェーブの掛かった豊かな髪が揺れる。
濃赤色の小さな皮ジャケットに白のショートパンツ、黒のロングブーツでアクティブな印象がする。そして、燃えるような緋色の瞳。
「いらっしゃいませ……じゃないよね?」
少女はリヨリの言葉を鼻で笑い、手提げの鞄から何かを取り出す。
「ふん、アンタがリヨリね。イサおじからこれを見せれば、それで話は伝わるって聞いたわ」
その手には丸まった羊皮紙が握られていた、イサが持つ店の権利について書かれた証書だ。
「おじ?またイサの弟子か?」
「そんなワケないでしょ、泣き虫トーマなんかと一緒にしないでよ!」
吉仲の声に、少女は語気を強める。かなり気が強いようだ。
「泣き虫トーマって?」
「あんたが倒したんでしょ?イサおじの弟子のトーマよ。アイツが子供の頃、ずっとベソかいてる時から知ってるの」
吉仲はなんとなく、この子が泣かせてたんだろうなぁと思い、トーマに同情した。
「えーと、じゃあ、あなたはイサさんの親戚?」
「それも違う、イサおじはアタシの父さんの友達!……まあ、アタシが小さい時に料理の基礎を教えてくれたこともあったけど、アタシの専門は炎とお肉!包丁技術と海鮮のイサおじとは方向性が違うわ!」
「炎」
「お肉」
なんとなく吉仲とリヨリは、リヨリの手の中にある蝙蝠の肉に目を落とした。
「そう、アタシは翔凰楼の料理人で、パイロマンサーのフェルシェイル!勝負よ!リヨリ!」
暑苦しい女の子だなと、吉仲は思った。
「パイロマンサーの料理人?珍しいわねぇ」
「……げっ!ウィッチ?」
ナーサがフェルシェイルに近づき、まじまじと眺める。対して、フェルシェイルはナーサを露骨に警戒した。
「ちょっとリヨリ!なんでウィッチがここにいるのよ!?何を企んでるの?」
「ええ?企むって……魔女行商だよ?ちょうど昨日からウチに滞在することになってね」
フェルシェイルは疑いの眼差しを崩さない。
「魔女行商……何よアンタ、パイロマンサーが料理人やってるのをバカにしてるわけ?」
「料理人はちょっと驚いたかしらぁ?でもたしかに料理は火加減が重要だものねぇ。炎の摂理を学ぶには最適かもぉ」
「そ、そんなこと言ったって騙されないわよ?きっと心の中ではせせら笑ってるんだわ!」
「まあまあ、立ち話もなんだし、店の中に入ろうよ」
リヨリは肩透かしを食らった気分で、フェルシェイルを店の中に引き入れた。




