蔵
言われるままに包まれた頭と脊髄を持ち、リヨリについていく。
東屋の奥に小さな離れがあった。蔵というよりは、小さな物置だ。
リヨリが扉を開けると、冷気が吉仲に当たる。
外の初夏の陽気と裏腹に、中はひんやりと冷え切っている。
「お、寒いな。冷蔵庫か?」
「れいぞうこ?なにそれ?ここは昔村にいた魔女さんに作ってもらったんだって、魔法で空気を冷却してる部屋だってさ」
「あー、俺の故郷だとそれをそう言うのさ」
「お父さんは普通に蔵って呼んでたけどなぁ、まあいいけど。ナーサさんとダンジョンもぐって分かったけど、ポータル作った人なんだろうね」
「ああ、色々用意していたんだな」
蔵の低い扉をくぐると、中は二畳程度の広さの部屋だ。
本当に業務用の冷蔵庫に近いが、食材はかなり少ない。
「お父さんが生きてた頃は、ここも食材が山積みだったんだけどねぇ……」
リヨリは肉の包みを棚に置き、懐かしそうに眺める。
「うん、頑張ろう吉仲!ダンジョンも入れるようになったことだし、ここも食材でいっぱいにしよう!」
「お、張り切ってるな」
「当たり前じゃん!そうだ!今からダンジョン行こう!」
リヨリは意気込んで、吉仲の腕を引っ張って外に出ようとする。
「え、いや、ナーサいないと無理だろ。腹も減ったし……」
吉仲も引っ張られつつリヨリに言うと、蔵の入り口の前にナーサがひょっこりと現れた。
「呼んだぁ?」
「わ!ナーサさん!」
リヨリは勢いあまってナーサに衝突し、ナーサの胸に頭から突っ込んだ。
「きゃ、リヨちゃん、危ないわよぉ」
「えへへ、ごめん……でもどうしてここが?」
「お店に行ったけど閉まっててぇ、蝙蝠解体してるのかなぁって、カチちゃんの家に来たのよぉ。そしたらこっちにいるってぇ……これ蔵ぁ?」
ナーサが見回し、リヨリを寄せて蔵に入る。
二畳の広さの蔵の中に三人入り、一気に狭くなったように感じた。
「ふぅん、多分これもおば様の仕業ねぇ。随分入れ込んでることぉ」
「あれ?ナーサさん知らなかったの?」
「そうねぇ。普通の魔法施設って、漏れ出る魔力がほとんど出ないように作れられてるから、外からじゃなかなか気づかないわよぉ?ダンジョンみたいに漏れ出すほど潤沢にあれば別だけどぉ」
「へぇ。……あ、そうだ。ダンジョン行こうと思ってたんだけど着いてきてくれる?」
「うーん、いいけどぉ……その前に、ご飯にしない?」
「賛成!激しく賛成!」
ナーサの提案に、吉仲が乗っかる。
「あ。そういえば、朝ご飯食べてなかったね。ご飯にしようか」
作業台に戻り掃除をし、酒で清める。
ある程度乾いた翼膜も蔵にしまい、蝙蝠の肉の一部を切り、持って帰ることにする。
店には、カチも一緒に着いてきた。
カチはずっと独り身で、朝昼は毎日リヨリの店で食べている。
狩人をやめた後は近隣の家の農作業を手伝うことと、小動物の罠猟くらいで、後は悠々自適に生きていると吉仲に語った。
世間話をしながら歩いていると、店はすぐだ。
なだらかながらも小高い丘の上にある店の前に、誰かが立っている。
遠目にも分かる、キラキラと輝く赤い髪。若い女性のようだ。
大きな袋のような物を畳んでいるらしい。
リヨリの顔に、緊張が走った。




