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勝者の望み

吉中がテツヤをじっと見つめる。

テツヤには、反応が視えた。そしておののく。


「いいや、裁かない。あんたを許すよ」


「……なぜだ……俺を……殺した俺を、恨んでいないのか?」


テツヤが弱々しい目で吉仲を見る。


虚無に支配されていた男が、自分を取り戻している。

その表情は、心中は、罪悪感に満ちあふれていた。


吉仲はうなずく。


「ああ、あんたは十分罰を受けたと思う。というか……まあ、俺がそんなに恨んでないってのもあるけどさ」


今思えば牛丼屋の生活も悪くはなかった。

だが、今の生活の方が確実に楽しいのだ。


辛いこともあるが、楽しいことも多い。

降って湧いた能力ではあるが、料理人のために舌を生かしていく目標も生まれた。


「だが……」


吉中が納得していたとしても、それでは収まりがつかないのだろう。


「じゃあそうだな……償いと言っちゃなんだけど……」


吉仲はアリーナを見渡す。

当たり前だが、イサの姿は見えない。だが、必ずどこかで見ているだろう。


「ある店の料理人になってくれないか?そこも最近、料理長を亡くしたばかりでさ」


テツヤが不思議そうな目で吉仲を見た。


「ああ!それいいんじゃない!」


リヨリが嬉しそうに同意する。


「……まあ、その店の店長や、今の料理長代理とも相談しなきゃだけどさ」


テツヤが戸惑う。

料理をすることが償いになるとは思えなかった。


「死や虚無なんかじゃない、ただうまい料理で人を幸せにしてくれれば、俺はそれでいい。……あんたならできるだろ?」


だが、吉中の言葉で、感情で、理解する。


うまい料理を食べた時の幸福感。人を喜ばせる料理。それを作れと言っているのだ。


自分の料理のルーツも、(ヤツキ)を喜ばせるためだった。


両親に恵まれなかった分、ヤツキはテツヤによく懐いていた。

兄の作る料理は、なんでもうまいと喜んで食べていた。一緒に料理を作る時間は、弟との最高の思い出だ。


そして、それらが自分にとっての幸福でもあることを思い出したのだ。


テツヤが滂沱(ぼうだ)の涙を流す。深く、深くうなずいた。


「――決着がついたようだな。……勝者テツヤよ、何を願う。」


王が厳かに宣言した。

テツヤは眩しそうに貴賓席を見上げる。


「カルレラ料理大会、優勝者の特権だ。余の力の及ぶ限り、どんな願いもかなえよう」


おお、と、アリーナがどよめいた。


「お、俺に……望みなど……いや……」


テツヤは頭を振る。

たった今、芽生えた望みに気づいたのだ。


「俺の……姪……リヨリとの、再戦」


テツヤが、リヨリを見る。


「それは、リヨリに聞くがいい」


国王は呆れたように微笑んだ。

リヨリがニッと微笑む。


「次は負けないよ!おじさん!」


アリーナ中に拍手が響いた。

テツヤが空を仰ぎ見る。


白いドームは夏の日差しを反射し、まるで天国でもあるかのように輝いていた。



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