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瀬尾哲也

瀬尾哲也は、不幸な男だった。


両親は世間体のために結婚し、生まれた子供はあくまでも他人に自分たちをよく見せるための道具に過ぎなかった。


家庭では愛情を注がれず、少しでも彼らの気に入らないことがあれば、しつけの名の元に厳しい折檻が行われる。

外では彼らが望む通りに振る舞わなければならない。


物心ついた時からそうだった。

思い出す子供の頃の記憶では、いつも腹を空かせていた。肉体的にも精神的にも飢えていたのだ。


だが彼に、心の支えができた。年の離れた弟の八生(ヤツキ)だ。


八月に生まれたから、ただそれだけの名前だ。


哲也は知るよしもなかったが、実は父親も違う。

子供に愛情を注ぐ気のない、世間体で一緒にいるだけの両親にとっては、大した問題ではなかった。


それでも両親の庇護を受けられないたった二人の兄弟は互いを思い、協力し生きていた。


自分たちに興味のない両親も世間体のために最低限生かす努力はしていたこと、彼らの不興を買うようなことをしなければ無視されていたことが不幸中の幸いだった。


しかし八生は、十五のある暑い夏の日に、事故で死んだ。


突然の出来事だった。とある空き地――“死の四つ辻”でのことだ。


ただ一人生き残り、心に深い傷を負った哲也は、それでも弟との大切な時間でもあった調理の仕事についた。

職場で出会った女性と結ばれ、子供も生まれた。


両親との縁を切り、自分の悲しみを息子には味あわせまいと彼はよき父、よき夫であろうとした。


弟との生活は彼を飢えた獣から人にしていたのだ。

そして自身の子供の成長が、確かに彼に癒しを与えていた。


だが、“死の四つ辻”は彼を再び地獄へ突き落とす。


牛丼屋の配送トラックが、店の前にいた彼の息子を轢いたのだ。


かつての弟、そして今、最愛の息子を失ったショックで陥った狂乱、憤怒と憎悪は呪われた土地にいる者――牛丼屋で働く者へと向けられた。


商売道具の出刃包丁を咄嗟に握り、まだ事情をよく理解していない吉中へと憎悪をぶつけたのだ。


吉中の死は、完全に八つ当たりのとばっちりだった。


激情に駆られて引き起こした一人の人間の死が、彼に冷静さを取り戻させた。


彼はそのまま死を選ぶ。

自分の人生が虚無であることを悟ったのだ。


だが絶望が終わりを迎えることはなかった。


死んだ先は無明の暗闇か、無限の地獄だと思っていた彼は牧歌的な世界、そして自分を気にかける人間に戸惑った。


旅商人だった店主に助けられたのだ。その恩義で彼の店を手伝っていた。


そして彼は知ることになる。

この世界は、彼が望む罰を与えるでもなくただ存在している。


裁かれない罪を抱え、罪悪感だけを抱えて生きる日々。

それは、彼が望む地獄以上の地獄だった。


永劫とも思える平和な地獄、そして彼に与えられた能力が彼を無感情に陥らせる。


それでも、料理の腕だけは磨かれていった。

やがて、彼は死神と呼ばれるようになったのだ。


「……そうか」


アリーナがざわめく。司会が言葉を失う。彼らには、その話については何一つ分からなかった。


食通たちとリヨリは真面目な表情でテツヤの話を聞いている。


「……頼む。どうか……俺を……裁いてほしい……」


テツヤは、涙を流した。



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