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虹色の味

「……一口一口ごとに異なる味。さらにそれが、次の一口の料理の味を高めている……のか?」


「ああ、一口食べるごとに、それより前の味すべてが乱反射してインフレしている。次の一口はもっと美味いと確信できる料理だ」


ベレリと吉仲が、次の一口を味わう。


インフレは続いている。

異なる刺激によるうまさは単一の味では決して出せない広がりと膨らみを持ち、あらゆる味覚が頭の中で反響するようだ。


吉仲は、ふとこの世界に来た最初の瞬間を思い出す。あの時も、舌はあらゆる味を味わっていたようにも思う。


玉子で包まれているため、それぞれの味の境目はぼんやりとしている。

だが、あらゆる魔物の味の組み合わせは食べ進めるごとに鮮烈な異なる色彩を放つ。


まさしく虹だ。


「……それに、リヨリさんの料理だけではありませんね。ヤツキさんの料理の味も混ざっています」


マルチェリテがそっと目尻をぬぐう。彼女にとって初めての人間の友達を思い出したのだ。

ガテイユもうなずき、吉仲は感心した。


「そうか、この……違う味はヤツキのものか」


リヨリが照れるように頭をかく。


「不思議だよね。お父さんから教えてもらった料理のはずなのに、私の味はまったく同じにはなってないんだもん」


物心つく前から食べている父の味は染み付いている、体捌きも受け継いだこともあり、再現するのはたやすい。


だが、リヨリは昨日試しに作ってみて、今の自分の味とはあまり似ていないことに驚きを受けたほどだ。


ガテイユがふっと微笑んだ。


「そんなものだ、味は生き物だからな。伝統の味を脈々と守り続けているように思っていても、作る者や時代の変化で気づかない内に変わっていく」


リヨリは感心したようにガテイユを見た。

シイダは不思議そうな目でリヨリを眺める。


「でも、なんで一皿に……オムレツにまとめようと思ったの?フルコースでもいいじゃない」


リヨリは予想もしていなかった質問だったかのように目をパチクリさせる。

言われてみれば他の可能性は最初から切り捨てていた。


最初のアイディアの時点から、全ての料理をまとめる完成形はオムレツだと決めてかかっていたのだ。


「うーん、なんだろ……オムレツがはじめて作った料理だったからかなぁ……」


父の教えを受け、十年前のリヨリが人生で最初に作った料理はスパニッシュオムレツだった。

その日から、毎日父と料理をしてきた。


また、父親(ヤツキ)も家にあるソーセージや野菜の切れ端でオムレツを作ったのが、人生で最初の料理だったという。


異なる味をまとめるためには、統一感が何より必要だ。

統一させるものがなければチグハグな味となるだろう。


テツヤはそれを弱い旨味で作り上げた。

リヨリは卵で包みあげたのだ。


他の可能性を改めて考えても、やはりオムレツ以外の選択肢はないように思えた。


「まあ、それぞれ違う料理を作りきるのは時間がなかったのもあるし、玉子でまとめるのが一番確実かなって思ったのもあるけどね」


リヨリが苦笑する。



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