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無明焼き

リヨリとテツヤの料理はどちらも一皿。


そして、どちらも料理大会の決勝には見えない。


どこの家庭でも出てきそうな、ありふれた料理にも見える。

リヨリの料理は一見なんの変哲もないオムレツだ。


食材が中に入っているから、カテゴリとしてはスパニッシュオムレツになる。

ただし、すべてが魔物食材の、それも一皿に収まったとは到底思えない膨大な量の魔物食材を使ったスパニッシュオムレツだ。


様々な卵を混ぜた結果、出来上がったその姿は鮮やかなオレンジ色をしている。

陽光を反射し、まさに太陽の輝きだ。


リヨリは満足げにひと息をついた。やり切った清々しさが微笑みに浮かび、玉の汗をかいている。


調理時間いっぱい動き詰めだったが、すべてを望む通りに作れたという表情だ。


一方のテツヤは、黒い紙状の物体で、暗灰色のこんにゃくのような物、ケルピーの肉、そして黒い塊を巻いた磯辺焼き風の食材に、黒い塊を煮詰めたソースをかけた料理だ。


ひたすらに黒い。


ただし材料が謎であること、黒一色であること以外は、これも何かで巻くという一般的な調理法の料理だった。


テツヤは相変わらずの無表情。

リヨリと違い、ゆったりとした作業だったからか、息切れ一つしていない。


「ねえ。先に行く?後からにする?」


リヨリがテツヤに話しかける。だが、テツヤはリヨリの方を見ようともしなかった。


「……好きにするといい」


<もうフェルちゃん、そんなイライラしないのぉ>


吉仲とマルチェリテの耳に、ナーサのなだめる声が聞こえた。

フェルシェイルの怒りの表情が想像できるようだ。二人は顔を見合わせて苦笑する。


一方のリヨリは特に意に介していない。想像していたリアクションだった。


「じゃあさ、先にお願い。……あと、ねえ。決勝戦だし、私達もお互いに食べてみない?ちょっとでいいからさ」


しかも、にこやかに不思議なお願いをしてきたのだ。

その不思議なリアクションにテツヤがはじめてリヨリを一瞥する。


戸惑いがあるわけではない、無表情のままリヨリに視線を送る。だが、その瞳は今までのような暗黒ではなく、何かしらの感情を抱いているようにも見えた。


何も言わず、テツヤがもう一皿用意する。


「ありがと!あとで私のもあげるね!さ!食べよ食べよ!」


「さあ!テツヤ選手の試食です!」


食通の前に、真っ黒の料理が並んだ。


じっくりとソテーしたものと、焼く寸前に刻んだ謎の黒い物体が中心にあり、しっかりと火の通ったケルピーの肉に巻かれて焼かれている。


その肉がさらに茹でこぼした暗灰色の物体に、黒い紙状の物で巻かれ、上には黒いソース。


ソースにも黒い物体が浮かんでいる。


「なんだこの料理は……」


「……無明焼き、とでも名付けよう」


お互いに顔を見合わせて、困惑しながらも巻物を一口食べる。


リヨリも、巻物を頬ばった。


「………………!?」


咀嚼すると同時に、ぬるりと、皿に引き摺り込まれる感覚。

重力が強まり、身体が皿に向かうように感じた。


食通とリヨリの背中が、ぞわりと粟立つ。さらに咀嚼する。


皿が、手招きをしているようだ。うまいものを食べる時、人は皿に引き込まれるように錯覚する。

だが、実際に皿から逃れられない重力を感じたのだ。



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