最終局面
リヨリはかき混ぜ終えた溶き卵を小さなボウルに分け、それぞれに今まで調理してきた膨大な食材を投入していく。
食材が消えて片付いた調理台の上は、またたくまに食材の入った溶き卵に埋め尽くされる。
一方のテツヤは、暗灰色の物体を茹でこぼす。
「テツヤも最後の食材か……」
アクを切ったのか、熱を通ししただけなのか、テツヤは暗灰色の物体をさっと湯から出し、最初の黒い物体と同様に細切りに刻み始める。
「あの暗灰色の塊はなんだ?スライムっぽいけど……」
色合い、柔らかさともに、吉仲にはこんにゃくのように見える。
こっちの世界で食べたもので一番近いものはスライムだ。
「たしかにスライムのようですが……あの色は?」
ケルピーの肉で巻いた黒い塊の周囲に、さらに暗灰色の食材を黒く薄い、紙のようなもので巻く。
「……あれは?」
食通達が困惑する。
謎の食材が一種なら楽しみにもできるが、最終局面で立て続けに出されると混乱してしまう。
「海苔……?」
吉仲の言葉に、食通の視線が集まる。
ベレリとシイダ、マルチェリテは興味深そうに、ガテイユは新たな食材を前にした料理人の真剣な瞳で、異世界の食材かと問いかけているようだ。
<ノリってなーにぃ?>
ナーサの言葉に、吉仲も周囲の注目に気付いた。
「え?ああ、こっちには無いのか。……なんだろ……海藻を紙状にして、乾燥させた食材かな?俺の故郷だと一般的だったんだけど」
「海藻の……紙……?」
食通達の瞳がテツヤへ向く。
死神は器用に肉と謎の物体を巻いていく。肉の磯辺焼きに見える。
一つ一つはそれでも小ぶりで、一口で食べられそうだ。
そしてそれらを皿に盛り、最後に別で火にかけていたソースをかける。
テツヤが動きを止めた。調理終了のようだ。
一方のリヨリはフライパンを火にかけ、たっぷりの油を引くとボウルの中の食材を次々と焼き始めた。
半熟未満のゆるい状態で隣の大きなフライパンに開けて、次の食材を焼き始める。
熱が通るジャアッという音に、アリーナ中の視線が集まる。
フライパンには今までの下ごしらえで用意してきた料理からは比べ物にならないほど少ない卵が踊る。
誰もが一目見て、リヨリが作る料理の正体がわかった。そして、驚愕する。
「お……」
最後に一つのフライパンにまとめた半熟未満の玉子の塊を手早く焼いてまとめる。
それを六回繰り返し、六皿の料理が現れた。
「……オムレツゥ!?」
食通、そしてアリーナ中が一つの言葉を発した時、司会がただ一人違うことを叫んだ。
「調理終了!そこまで!」
ギリギリ間に合ったリヨリが言葉とともに動きを止め、深く息をはいた。




