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料理の全貌

死神テツヤがソテーしていたものと生のもの、両方の黒い塊をケルピーの肉で巻く。


削ぎ切りにしていたケルピーの肉はタレに漬け込んでいたのか、すっかり茶色い液体に染まっている。

すべてを巻き終えたあと、フライパンで焼きはじめる。


香ばしい匂いがアリーナ中に広がった。

漬けダレのものだろう、甘い香りと、ケルピーの肉が焼かれる香り。そして遅れてわずかに香る複雑な香気。


「ケルピーの肉の漬け込んだタレの豊潤な香りが広がる!もしかしたら謎の黒い塊の匂いも混ざっているのか!?」


<うーん……いい香りぃ……>


観客席のナーサがうっとりとした声を発する。


ナーサだけでない、観客席のそこかしこから、恍惚とした声やためいきやがこぼれる。

かなり遠くまで届いているようだ。


「なんか……珍しいな……」


吉仲のつぶやきにベレリが首をかしげ、マルチェリテがうなずいた。


「む?何がだ?」


「些細なことかもしれませんが、今までテツヤさんの料理は食べてみるまで全貌がわかりませんでしたからね。……こんな美味しそうな匂いをさせることもなかったので」


「言われてみれば、たしかに……」


マルチェリテの言葉にシイダが今までの料理を思い出す。


度肝を抜き、目を引く調理や見た目のインパクトはあっても、匂いなど、美味しそうな雰囲気は食べる瞬間まで分からなかった。


食欲をダイレクトに刺激するような匂いは、今までのテツヤの料理にはなかったものだ。


ガテイユも得心がいったように深くうなずく。


「……まあ、ほんとに、ちょっと珍しいと思っただけなんだけど……あ、リヨリも最後までの食材みたいだな」


吉仲はバツが悪そうに頭をかく。そこまで感心されるとは思わなかったのだ。


リヨリの方を向くと、リヨリは最後まで残った手付かずの食材、大量の卵を割り始めていた。


「リヨリ選手!紫の包丁を手放しても手が早い!目にも止まらぬ速さで卵を割っていく!」


鶏卵のように小さな楕円形の、ただし色彩はもっとカラフルな殻の卵から、より大きく、柔らかく円筒形に近い形状の卵まで、その種類は様々だ。


それらの卵を両手に持ち、曲芸のように次々と割り巨大なボウルへ入れていく。


司会の言葉通り、その手さばきは素早く残像を残すほどだ。


調理台に山積みされていた卵はすぐに姿を消し、リヨリはボウルを抱えるようにかき混ぜる。


「最後は卵ですか……」


「煮たり焼いたりした魔物の食材に、最後は大量の溶き卵?」


「玉子スープにでもする気じゃないだろうな?」


食通たちが怪訝な声をあげる。


一方のリヨリは、今までのテツヤの料理に近い。


調理も最終局面のはずだが、未だにその全貌は見えないのだ。



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