告白
リヨリとナーサは、それから二日後の明け方に帰ってきた。
リヨリとナーサ、フェルシェイルが乗った気球が宿へ戻ってきたのだ。
決勝の前にリヨリに知らせるべきか、吉中は悩んだ。まず間違いなく勝負の結果に影響は出るだろう。
だが、あの男は死神ではないと思いたかった。
自分を殺めたことに悔やみ、苦悩し、絶望の淵に沈んでいるなら、罰は十分受けているとも思う。
気球を片付けたあとのリヨリとナーサを、こっそりと部屋に呼ぶ。
フェルシェイルは翔凰楼からレイネを呼び、気球とともに帰っていった。
リヨリの探索の結果は、芳しくなかったらしい。
リッチがダンジョンの魔力を消費していたことで、ダンジョンの下の階層でもゆらぎや進化は起きていなかった。
ナーサが想像した通り、空間のゆらぎを引き起こすほどに魔力が蓄えられるのはまだしばらく時間がかかりそうだ。
彼女たちは五階よりだいぶ下の階層をしばらく探索したにも関わらず、上と変わらずジャイアントバットと人食いツタと二足トカゲばかりだったらしい。
起死回生の食材探しが空振りに終わり、リヨリの表情は前回より深刻さを増している。
だが、それでもリヨリは、吉中の顔を見て心配げな表情となった。
「どうしたの吉中?」
おそらく、今話さなければ大会が終わるまでチャンスはない。
吉仲は深く空気を吸った。
「……リヨリ。話がある、テツヤのことだ」
「テツヤ?あの人がどうしたの?」
首をかしげるリヨリ、不思議そうなナーサ。
そして、ヤツキの顔とテツヤの顔。あまり似てないなと吉仲は思った。
「テツヤは……」
一拍の間、吉仲は弱々しい声にならないように注意する。
「テツヤは……ヤツキの兄だ」
だが、自分でもどこか声が上ずっているように感じた。
「……え?」
ナーサが目をみはる。リヨリは、何を言われたか理解できず、きょとんとした。
「最初はリッチを倒したあと、ヤツキから聞いたんだ。……さすがにその時は間違いだと思った」
吉中はその時のことを思い出す。
<もしかしたらだが……テツヤというのは……俺の兄貴かもしれない……>
ヤツキの最後の言葉だ。ただ、真偽を問いただす前に時間切れとなりヤツキは消えた。
そして、そのフレーズだけが、呪いのようにいつまでも吉中の頭の中で響き続けていた。
「そのあと、テツヤと会ったときに確認したよ。明確には言わなかったけど、あの反応は間違いない。……テツヤは、ヤツキの兄だ」
「つまりぃ……死神テツヤがリヨちゃんの伯父さん……ってことぉ?それじゃあ……」
リヨリよりも衝撃を受けているナーサの言葉に、吉中はうなずいた。
それじゃあ、の後は、彼も転移者であることを確認しそうになったのだろう。
リヨリはまだよくわかっていないようだ。思えば、父の家族のことは何も知らない。
幼い頃に何度か聞いたが、遠くにいるとはぐらかされるだけだった。やがて聞くこともなくなっていたのだ。
「間違いなく、テツヤはヤツキの死を悼んでいた。そして……」
吉仲は、自分とテツヤの因縁をすべて話す。
ここまで来て、残りを隠しておくことなど不可能だった。
自分も、ヤツキもテツヤも死をきっかけに異世界から来た転移者であること。そして、ヤツキは知らないが、自分の死の原因はテツヤにあること。
転移者の存在を知らないリヨリも、ナーサの補足と、リッチとの戦いのことで少しずつ納得してしていったようだ。
「……あいつは、俺を殺したことを悔い、心は闇の中に捉えられてる……と思う。……きっと、あいつを救えるのはリヨリ。……お前だけだ」
吉中の真剣な声に、リヨリの目が輝いた。




