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ベレリは露骨に不機嫌になる。


「いくらなんでもこれは……」


事前審査はたしかにポーズにすぎない。

だが、これはなめられていると文句を言ってもいいのではと感じた。


テツヤは料理と言ったが、さすがにこれをテツヤの料理とは思えない。

ガテイユとシイダも同意見、二人は不満を表明しているが、マルチェリテは違ったらしい。


「手を抜いて……と見ることもできますが、何かしらの意図があるのかも……」


吉中は、自身の皿をまじまじと見る。食べかけの料理の上に塩が輝く。本当にそれだけだ。


「とはいえ……塩を振っただけ、だけど……」


食通たちは、互いに顔を見合わせ、それでも食べることを決めた。

つまるところ、食べなければ何も言えない。


「……え」


一口食べて、再び顔を見合わせる。


塩の一振り程度で、何もかもが明確に変わるわけではない。

茹で加減や揚げ加減には影響せず、大部分は店主が作ったままの、どこかしら詰めが甘い素朴な料理のままだ。


だが、塩加減は味を引き締める力を持つ。


茹ですぎ、揚げすぎでぼやけた味が、塩で引き締められていた。

決して美食になっているわけではない、だが、塩の一振りで今までの料理より数段上の味になっていたのだ。


「これは……」


ガテイユが驚いたようにもう一口食べる。


最初の一口は、修行をはじめたばかりの弟子とも大差ない味だった。

彼はそこで興味をなくしたが、塩を振っただけで数年分の修行をこなした者と同じ味になっている。


「たしかに、おいしくなっているけど……」


シイダも続け、マルチェリテもうなずいた。だが、問題はそこではない。やはり意図はあったのだ。


「……食べもせず……ここまで味をあげられるものなのか……?」


吉中がつぶやいた。

ベレリはいまだに絶句している。


テツヤは料理を一瞥し、塩を振っただけなのだ。


この店の店主の腕で、安定した味を作れているとは思えない。

レシピ通りに作っても、日によって、皿によっての多少の誤差もあるだろう。


だが、それぞれに振った塩加減は、それら全てを調整する、今の料理からすればベストな塩加減となっている。


食通たちは理解した、まさしく妙技だ。ひと目見て料理の味を見抜き、最高の塩の量を追加したのだ。


「……これで終わりだ。騒がれたくない、帰ってくれ」


テツヤは、ことも投げに言い放った。



食通たちは返す言葉もなく呆然と店を出る。その表情は複雑だ。


自分たちが急に言い出したことではある。事前審査もポーズだ。

だが、あまりに人を食った態度ではないかいう憤りは、まだどこかにくすぶっていた。


一方で、テツヤはオーダー通りに技量を見せつけてきた。

客が求めるものを、必要最小限の手間暇で実現させるのがプロだとしたら、テツヤのやったことは百点満点の回答でもある。


吉中は、釈然としないまま去っていく彼らの背中を見つめ、そして、覚悟を決めてテツヤに向き直った。

重要なことを確かめなければならない。


マルチェリテは、吉中を心配そうに見つめ、それでも三人とともに店の外に出る。


店の裏への呼び出しに、テツヤはすんなりと応じた。




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