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ベレリ商会

翌日。吉仲とマルチェリテは、都の中心にほど近いベレリ商会の前にいた。


マルチェリテの人形喫茶にも同様の知らせは行っていたらしい。


都の中心部にほど近い商人街は主に二階建て、三階建ての事務所が立ち並び、王宮の周囲や下町とはまた違った(おもむき)だ。


高くはないとはいえ元の世界にもあるようなタイル張りのビルが立ち並び、吉中を懐かしい気分にさせる。


そして、その中の一角にベレリ商会の本社が建っている。


建物の外見は他のビルとの差を感じない。まさしく溶け込んでいるようだ。

都でも一二を争う大商会の本店というのに、そんなオーラはまるで感じなかった。


サリコルから場所を聞いた吉中がピンと来なければ、マルチェリテと共に永久に近隣をさまよい続けていた可能性すらある。

それほどまでに外見に特徴のない建物だった。


だが、中に入ると、そこは王宮にも負けず劣らぬ洗練された空間となっていた。


磨き上げられた大理石の床と、好対照の焦茶色の無垢の木の壁が上品でありつつも小洒落感を演出し、間接照明の投げかける光で固くなりがちな雰囲気をやわらげている。


どちらも入ったことはないが、高級ホテルか一等地のオフィスビルというのが吉仲の印象だった。


広いエントランスには忙しそうに歩き回るビジネスマンが多く、フロア奥は商談スペースとなっているのか、パーテーションの奥の話し声もそこかしこから聞こえる、やや混雑した印象だ。

だが、それもまた繁盛ぶりを物語っているようだ。


その中ですぐに身なりの良いコンシェルジュが二人に気付き、礼儀正しく出迎え、すぐにベレリの事務所の応接間に通された。


二階に上がってすぐのべレリの応接間は、今まで見てきた趣味の良さのエッセンスが詰まっていると言ってもいい上質な空間だった。


華美すぎるというほどでもないが、艶々(つやつや)の木製の棚や、染み一つない濃茶の皮のソファ、ピカピカに磨かれたガラス張りのテーブルが設えられ、ひと目で商会の実力と権勢、そしてベレリのこだわりが分かる。


ガラス張りのテーブルには、純白のカップが三つ。


ソファにはガテイユとシイダもいた。

三人は、応接間のソファに腰かけ、談笑していたのだ。


「……ん?来たか。……吉仲、お前どこ行ってたんだ?」


部下の声にベレリが顔を上げ、どこか不満げに吉仲に目を向ける。


大商人の強固なネットワークをしても、吉仲を見つけられなかったことが悔しいらしい。


結局彼は行方をつかめない吉中とマルチェリテを呼ぶために、心当たりの宿とグリル・アシェヤ、喫茶ノノイに言伝を頼むのが精一杯だった。


「はは、ちょっと……冒険に……」


吉中は苦笑しつつ、ベレリの言葉をあいまいにごまかす。


「また危ないことしていたの?マルチェさんも?」


シイダの問いかけに、マルチェリテもまたあいまいに微笑んだ。


リヨリやフェルシェイルとダンジョンへ潜り、リッチと戦ったなんて話は長く、ややこしくなりそうなためごまかすことにしたのだ。


「……それより、今日はどうしたんだ?大会まで、あと四日あるじゃないか」


ベレリがうなずく。

愉快そうにニヤリと笑ったその顔は、いたずらをたくらむ悪ガキそのものだ。到底この上品な部屋の主人には見えない。


吉中は、その顔に不吉な予感を覚える。


「ああ、死神テツヤのメシを食いに行こうと思ってな。お前が来なかったらどうしようかと思ったぞ」


「……マジ?」


嫌な予感が、的中した。



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