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めざめ

リヨリは空腹に突き動かされているが、頭はまだまだ夢の中なのかもしれない。

足取りがおぼつかない、動きも老人のようにゆっくりだ。


フェルシェイルと違い疲労が色濃く残っているらしい。ただ、空腹の方が勝り、倒れそうというほど危なっかしいわけでもなかった。


「おはよ、キッチン借りたわよ。あと小麦粉とかも使わせてもらったわ」


「んー?……ん、いいよー……」


再びキッチンに立ったフェルシェイルに生返事をして、寝ぼけたまま吉仲の隣に着席する。リヨリの目は、ほとんど閉じていた。


手早く調理したフェルシェイルが、リヨリもホットサンドイッチを出す。


皿が目の前に来たと同時に、リヨリは今までの動きとは比べものにならないほど素早く口に運んだ。


「ん……(から)……。でも、おいし……」


突き抜ける辛みもリヨリを起こすには至らなかったらしい。

ただ、リヨリは吉仲以上のハイテンポでホットサンドイッチを食べ切り、ぼんやりしたままおかわりを要求する。


リヨリが食べる様子を眺めていた吉仲も、おかわりがあるならとフェルシェイルに求める。


フェルシェイルは呆れつつも二人にホットサンドを提供する。それらはすぐに次のおかわりとなった。

二人の食べる勢いを見ていると、昼や夜の分も考えて多めに作ったパンはすぐに食べ尽くされそうだ。


「ただいまぁ。……あら、リヨちゃん吉ちゃん、起きたのねぇ」


ナーサがドアを開け、マルチェリテと共に店に入る。


「ああ、おかえり、どうだった?」


魔術師二人は、ノームに昨日起きたことの説明に行っていたのだ。


「ノームちゃんも驚いてたわぁ。リッチの存在は知らなかったみたいねぇ」


「そうですね、ただ、ダンジョンは特に問題はなさそうです」


ポータルができるずっと以前、監獄としての役目を終えしばらく経ったあとにノーム達の自我が芽生えて以来、彼らは浅い階層から下へは行っていない。


彼らにとって、自分達の住処であるダンジョンを維持することが存在の最大の目的だ。


契約をかわしていない外からの侵入者と、外へ出ようとする何もかもを防ぐが主な役目となる。

ダンジョンが逸脱を起こすレベルの空間のゆらぎがない限りは、下の階層へは行く必要がなかったのだ。


そして、リッチの陰謀が動き続けていたことで、溜まり続ける余剰の魔力は適度に消費され、数万年のスパンでダンジョンは安定していた。


ただ、リッチが消えた今、彼らの仕事は増えることになりそうだ。


「じゃあ、ダンジョンはあのままか」


「んー……リッチが消えて魔力は溜まりやすくなったから、むしろ魔物は増えるかもねぇ……」


吉仲の言葉に、ナーサは肩をすくめた。


リッチのような規格外の怪物が他にいない限り管理はできそうだが、リヨリ一人じゃ大変だろう。ノームと同様、ナーサもしばらく離れることはできないかも知れない。


リヨリは口だけを動かしつつ、それらの話をぼんやりと聞いていた。


話の内容は理解はできてはいなかったが、問題はないのだろう。ナーサやマルチェリテの言葉に緊迫感はない。

しかしその時、あることを思い出した。


「……あ」


弾かれるようにリヨリは立ち上がる。目覚めたことを確認するように目を見開き、パチパチとまばたいた。


「そうだ!しまった!」


全員の視線がリヨリに注がれる。何か忘れものでもしたのかと、心配になる一同をリヨリはゆっくりと見回す。


「……決勝戦の食材、どうしよう……」


リヨリは最後の、残り一口のホットサンドに視線を落とし、つぶやいた。



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