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遅い朝食

都から貴族や大商人を含めた、数多くの客を迎えていたリストランテ・フラジュの建物は、レストランというより宿屋と呼ぶ方が適切な程度に客間が多い。


その晩は、全員ふかふかのベッドで泥のように眠れた。


特に、昨日からの連戦が祟ったリヨリは、昼を回ってもまだ夢の中だ。

久しぶりの自分のベッドでリラックスしているのか、父親との幸せな夢を見ているのか、口元が緩み切っている。


似たり寄ったりの吉仲はそれでも起きて、目をこすりながら店へいく。


店には、フェルシェイルが一人お茶を飲んでいた。


「……おはよう……フェルシェイルだけか?ナーサやマルチェもまだ寝てる?」


「おはよ、ずいぶんゆっくりだったわね。後はアンタとリヨリだけよ」


吉中の言葉で気づいたフェルシェイルは、話しながらキッチンに立つ。


一晩寝て精神力がすっかり回復したフェルシェイルが、慣れた手つきで炎をまとう。フェルシェイルからは昨日の疲れが感じられなかった。


吉中はその様子をぼんやりと眺めつつ、着席する。

ほのかな熱気と香ばしい香りがキッチンから漂ってきた。昨日食べた肉はすっかり消化され、今や昨夜に負けず劣らぬ腹ペコだ。


すぐに、フェルシェイルが吉中の前に皿を置いた。


「まあ、昨日の今日じゃ仕方ないと思うけど。……さ、召し上がれ」


こんがり焼けたパンには、干し肉が挟まれている。ホットサンドイッチだ。

吉中はぼんやりした頭のまま、空腹に急かされるように一口かじる。


カリッとしたパンの舌触り、香ばしい風味と小麦の甘み。

そして、その直後に爽やかな辛味が舌と鼻を貫く。


「……うまっ!」


一気に眠気が吹っ飛んだ。覚醒した瞳でホットサンドを見る。


胡椒の刺激と、唐辛子の辛みだ。寝ぼけた吉中の目を覚まし、寝起きで冷えた身体に熱が灯る感じがする。


身体からの欲求と衝動のままに、もう一口かじる。さらにもう一口。


辛みは吉中の身体を驚かせただけではない。

強烈ながら抜けるように爽やかな辛みは塩気、酸味と渾然一体となり味の奥行きを与えている。


「これ……」


衝撃で我を忘れた吉中は、それだけを言って顔をあげる。

フェルシェイルがにこりと笑った。


ヒポグリフの干し肉と人食い草の漬け物は、昨日吉中が使ったものとまったく同じ。

吉中の舌で分かった違う食材も、パンと唐辛子だけだ。だが、味は格別だった。


「こんなうまいのか……」


「昨日は吉中が作ったんだって?ごめんね、寝ちゃってて」


微笑んだままのフェルシェイルが肩をすくめる。人がおいしそうに食べる姿は彼女にとっても嬉しいことだ。


「いや、全然大丈夫だったけど……」


さらにもう一口。すでにホットサンドは半分に減っていた。

干し肉の焼き加減や漬け物のサイズも相まって、辛さにも関わらずするすると食べられる。


「餅は餅屋、料理は料理人か……」


敵わないなと吉中は思った。


「面白い言葉ね、アンタの国のことわざ?プロの技が一番ってこと?」


吉仲はうなずきつつ、ホットサンドを見つめもう一口。食べ切るのが惜しいが、食べるのが止まらない。


同時に店の奥の扉が開き、昨日と同じ姿のリヨリが目をこすりながら出てふらふらと歩いてきた。


「うーん……おいしそうな匂いが……」


フェルシェイルの顔が、笑顔になった。



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