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確率問題

「……なるほどねぇ。たしかに、昔ながらの魔女にも未来が視える人がいると聞くけどぉ……でも、そこまではっきりとわかるものかしらぁ?」


吉仲の話を聞いたナーサはしきりにうなずき、視線を辺りにさまよわせる。


ナーサ自身は未来を視たことは無いが、人が導かれゆく“流れ”の話は師匠や、手ほどきを受けた他の魔女からも聞いていた。


干し肉を食べ終え、お茶を一口飲み、一息ついたマルチェリテもまた視線を宙に向ける。


「聞いたことがありませんね……未来視はもっと直近の、蓋然性(がいぜんせい)の高い未来図が漠然と観える、その程度のものでしたよね?」


ナーサが同意する。

彼女の知る話は、直近でその人間に起こりうる事態のシーンが白昼夢のように観える、あるいは主観で体験したように直覚する、そういった類のものだ。


一ヶ月、二ヶ月のスパンで一人の身に何が起き、どう対応して、それにより何が起こるか、そこまで見えるわけがなかった。


そこに至るには無数の偶然が絡み合っているのだ。未来のことは、未来にならなければわからない。


吉仲はうなずいた。


「だよなぁ……。でも、そんなのに導かれてたと考えると怖くてさ……」


おたまはもう無い。だが、今までのことが全ておたまを通じてリッチに支配されていたと考えると、どうしても不気味な印象が拭えない。


吉仲はなんとか笑顔を作ろうとするが、自分でも頬が引きつっているのがわかる。


「……うーん……ただ、そうねぇ。おたまちゃんとか、吉ちゃんの舌みたいな特殊な能力を与えて、後はひたすら待つだけなら、リッチにもできるかしらねぇ」


不安げな吉仲をじっと見つめるナーサは、少しだけ考えた様子で話しはじめる。


吉仲は言ってる意味が分からず首を傾げる。


マルチェリテはうなずきつつも、そこにはかすかな難色があった。


「吉仲さんやヤツキさんの前にも、似たような境遇の人をたくさん用意し、リッチが持っていた何万年もの時間で望む結果が出るまで試行する……ですか……」


確率の問題は、大量の試行回数で補える。

いかに起こる確率が低くとも、試行を重ねれば重ねるほどに起こる可能性は高まっていく。


もっとも確率はやがては収束する、永遠に起きない可能性もありうるが。


「そう、でもやっちゃんと吉ちゃんじゃ、能力も境遇も違うでしょう。試行錯誤の過程でそうやって色々と条件を変えて、試していけばいつかはぁ……」


ナーサの深い青紫の瞳が、吉仲を見据える。


ヤツキを外れと評し、吉仲を英雄と言ったリッチなら、たしかにその可能性は捨てきれない。

それに、魂の祭壇には、他にも無数の魂がいたのだ。


彼らの中にも“外れ”がいたとしたら。

そうした試行錯誤の結果、全てがリッチの思う通りに動いていたのが吉仲だったとしたら。


不安な心持ちの吉仲は、その底知れない瞳に囚われ、飲み込まれそうな錯覚を起こした。



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