吉中の料理
吉仲の料理は、ヒポグリフの干し肉を軽く焼き、胡椒を振ってスライスしただけのものだ。
付け合せは村の老婆が漬けたのだろう、同じく蔵にあった食人ツタの漬け物だ。
カチ達が作ってくれた干し肉だけは大量にあったのは幸運だった。
リヨリが見たら切ったサイズがバラバラだと笑い、フェルシェイルが見たら焼き加減がめちゃくちゃだと呆れるだろうなと、吉中自身が思うような料理だった。
まさしく一人暮らしの男が、その場にあるものでとにかく腹を満たすだけの料理そのものだ。
だが、ナーサとマルチェリテは一言も発さず、黙々と口に運んでいる。
吉中も最初こそ自分の調理技術の低さに呆れたものだが、疲れ果てた身体に塩辛い干し肉と漬け物が染み入るようだ。
水分が抜けた干し肉は、旨味が凝縮されている。
さらに焼いて胡椒を振ったことで、旨味と塩気の弾けるようなジューシーさが強調され、パンチのきいた味だ。
それでいて鶏肉に近いヒポグリフの肉質はサクサクと食べやすい。
一方、水分豊富な食人ツタの漬け物は、塩だけだとしょっぱくなりすぎるのか、砂糖や酢で味を調整されている。
ツタそのものの自然な甘みも合わさったピクルスは、すっきりとした味となっている。
ややもするとくどくなりがち干し肉の後味を、漬け物で断ち落とし、いくらでも食べられそうだ。
吉仲はふと、白メシが食べられれば最高に幸せだろうなと思う。だが、さすがに今から鍋釜で米を炊く気はしない。
「ふう……おいしかったぁ……吉ちゃんすごいじゃない。私こんなことできないわよぉ……」
ナーサが満足げにお腹をさする。
マルチェリテのフォークはまだまだ止まらないが、食べ続けるその状態でしきりにうなずいている。よほど気に召したようだ。
「焼いて切っただけだよ。うまいのは干し肉と漬け物を作ってくれたカチさん達のおかげだな」
牛丼屋でバイトしていたとはいえ、吉中は料理はほとんどできない。
店でやる調理と言っても、大半はおたまですくって盛るか、レンチンした物を並べるくらいだ。
ふと、おたまの存在とヤツキの言葉が頭をよぎった。
「そういえば……俺がおたまを手に入れたのはダンジョンにあるマジックボックスだったよな?」
満足げで幸福そのものの顔のナーサは、お茶をすすりながらうなずいた。
おたま――リッチの右腕はダンジョンでヤツキが見つけたアイテムとして存在していた。
本当にその時点から、陰謀が始まっていたというのか。
ナーサとマルチェリテに確かめてみたくなったのだ。
「……ヤツキが言ってたんだけど、それらは全部リッチが仕組んでいたんだじゃないかって」
ナーサは怪訝な顔になる。吉中の言葉に、マルチェリテも顔をあげた。




