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死の四つ辻

――魔力の存在が認知されない吉仲の世界で知られることはないが、吉仲の街、そして働いていた牛丼屋の建物がある土地は、ある特異点だったのだ。


死の四つ辻。


事故と事件、疫病と災害が交錯する、死にまみれた土地だ。

世界中のどこにでも、類似する場所は存在する。


そこは不吉な土地として、かつては人々に忌避(きひ)されてきた。


呪われた土地として打ち捨てられてきたか、鎮守の社が建てられ(うやうや)しく(たてまつ)られてきたか、いずれにせよ人の社会とは隔絶したものとして扱われてきた。


だが、人口が増え、そこかしこに人があふれる現代では忘れ去られ、新興の住宅地が造成され、今や街中にも存在する。

ごく少数の事情を知る者以外には、なんとなく事故が多い場所としか認識されなくなっているのだ。人の入れ替わりの激しい街だと、特にその傾向が強い。


そしてそれは、異世界との空間の振幅が似ていることに起因する。

魔力により、異なった世界同士が繋がりやすい場所なのだ。


極端に膨れ上がった魔力は、空間のゆらぎを引き起こし、存在しないはずの物が現れ、あるはずの物が消えることがある。それは、別の世界と繋がりやすくなるためだ。


ヤツキも二十年以上前に事故にあい、牛丼屋の建物ができる前の空き地で死んだのだと言う。そして、転移してきたのだ。


「え……」


吉仲には、平凡な、どこにでもあるチェーンの牛丼屋の建物の印象しかない。

大学進学を機に一人暮らしを始めた吉仲には知る由も無いことだった。


たしかに口さがの無いパートのおばちゃんは、この場所でかつて事故があったことを噂していたような気もするが、そんなのはどこにでもあることだと思っていた。


<祭壇には俺以外にも同郷の魂がいたよ。彼らのほとんどは元いた世界が別ということくらいしか分からなかったみたいだけどな>


ヤツキが辺りを見回す。魂はさらに数を減らしている、今や数えるほどだ。


リッチが気づいたのは、まさしく地下牢ダンジョンに眠る死の四つ辻だ。


カルレラの地下都市ダンジョンと違う設計者が建てた地下監獄ダンジョンは、魔力が溜まりやすく空間のゆらぎが起きやすかった。


精密に魔力を知覚できるリッチは、地下牢に囚われたある日、異なる世界を垣間見(かいまみ)たのだ。


そして地下牢獄の最下層に眠る膨れ上がった魔力は、彼を魔力で駆動する人工精霊に変える仕上げをさせ、地下都市と地下牢獄が打ち捨てられた後にも自身を存続させ、地下牢の構造を異世界に近づけるよう組み替えるのに十分すぎるほどの量だった。


異なる世界の交差点は同じであればあるほど、世界はさらに近しい振幅に近づく。

同じ高さ、同じ位置にするための、この地下五階だったのだ。


リッチに囚われた魂達の身体は、スケルトンとして利用され、その身が朽ちてなお種々の作業へ使役された。

一方、そのおかげで魂達はリッチの目的を知ることができたのだ。


地下牢ダンジョンを作り変え、カルレラの地下ダンジョンの魔力を掌握し暴走させ、異世界へ転移する。


それこそがリッチの真の目的だったとヤツキは語った。


その後に望むのが支配か殺戮かまでは分からないが、ロクなことにはならないだろう。


<そして、白羽の矢が立ったのが君だった>


ヤツキが真剣な表情で、吉仲を見据えた。



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