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夢と同郷人

吉仲は、ぼんやりとした意識のまま夢を見ていた。


――生前のリッチ、古代都市でも指折りの能力を持つ魔術師もまた、この地下牢ダンジョンに収監された囚人だった。


王都の地下ダンジョンが古代都市国家だった頃、彼は国家中枢の高い地位にいたにも関わらず、古代都市の私物化を目論んでいた。


理由はハッキリとしない。だが、強大すぎる力と地位を持つ彼に、あらゆる他者など存在していないも同然だった。


しかし彼はその取るに足らない他者の手によって、陰謀を暴かれ、投獄され、脱獄不能と名高いもっとも深い階層に囚われたのだ。


国家への反逆罪、ダンジョンの破壊を目論んだ罪、そして関連する数多の罪による死刑が宣告された。天涯孤独の身でなければ、一族郎党も同じ目にあっていただろう。


当時の為政者や、身柄の拘束にあたった兵達はそれでも脱獄と報復をおそれ、過去に例が無いほどにダンジョンや自身の警備の増強を重ねるほどだった。


だが彼は、脱獄などしようとしなかった。


おとなしく、淡々と、何事もなかったかのように刑に処されたのだ。


さすがに諦めたのだと強がり笑う者、死することを発動条件とした呪いを使ったのだと怯える者、さっさとその存在を忘れ切り替えようとする者。

様々な反応があったが、為政者も兵達も、誰一人として知らなかった。


彼は、体内に入れて密かに牢内に持ち込んだ宝珠に、自身の肉体を情報化する魔法を使っていたこと。

そしてもう一つ、魔術を研究する過程で、ある法則に気付いていたことを。


吉中が目を覚ます。


だが、ダンジョンではなさそうだ。

光に包まれた空間に立っていた。暖かな光は、疲れ切った吉中の身体を癒やすようだ。


「今のは……リッチの右腕(これ)から流れこんできたのか……?それにここは?」


吉中は、右手に握る骨の腕を見る。

力は完全に失われ、今にも崩壊しそうなのが分かった。そこでようやく、リッチを倒したことを実感する。

最後のサーベルは、見事宝珠を貫いたのだ。


そして、吉中の目が収束する光を捉えた。


<……君が吉仲か……初めましてだな>


吉中の目の前には、四十がらみの男。


顔立ちや体つきは優男という感じだが、目には強い意志をたたえている。その目元は、リヨリにそっくりだった。


「あ、あんた……ヤツキか?」


目を見張る吉仲に、男が優しく微笑みうなずいた。


<正確にはこの魂の祭壇に囚われていた、ヤツキの魂の残りカスさ。……リッチは消え、俺たちを縛る物は無くなった。心から礼を言うよ>


ヤツキが辺りを見回す。人の形をした無数の光が辺りに立っていた。


「魂の祭壇……?」


<リヨリが飛ばされたところさ。君は(それ)を持っているから来れたんだろうな>


吉仲の手の中の、右腕の骨を指さす。力を失い濃い灰色となった骨は、少しずつ軋んでいた。


「ああ。なるほど、さっきのリヨリのあの強さはあんた達が何かしたのか……」


骨の山から出てきたリヨリは、イサやベルキドアにも勝るほどに剣の冴えが増していた。

その時はナーサと驚くばかりだったが、ヤツキが娘に何か手助けをしたと考えると納得がいく。


<そうなるかな。俺たちはリヨリの背中を押しただけだけどな>


ヤツキの周りの人型の光が、少しずつフェードアウトしていく。目的を果たし、ここに留まる理由を失った魂から消滅しているのだ。


ヤツキは寂しそうな微笑みをたたえ辺りを見回すと、不意に真顔になって吉仲に向かい合った。


<それはそうと……君もこのダンジョンの元になった街の……あの店があるところで死んだんだろ?>


「え?あ、ああ。どうしてそれを……」


吉仲は面食らった。だが、ヤツキも同郷という話を思い出す。

そして、あることに思い至った。


「……まさか……」


ヤツキは、静かにうなずいた。


<俺と君は同じ場所で死んだ。俺もそうして、この世界に飛ばされてきたんだ>



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