不意打ち
戦況は、一進一退だった。
吉中達には一気に攻めきれるほどの決定打が欠けている。
一方、右腕を奪われ、吉中に動きを読まれるようになり、さらに場の魔力が加速度的に浪費されていくリッチにも当初の余裕はない。
怒りに苛立ちと焦りが加わり、動きはますます悪くなる。
羽虫のようにチョロチョロと動き回る人形一体、満足に破壊できない。その事実がさらにリッチを苛立たせる。
リッチは、今までここまでの苦戦をしたことなど一度たりともなかった。
かつて自分の存在を消滅しようとしてきたどんな相手も、最初の魂奪いでそのほとんどが為すすべなく絶命していった。
仮に対処法を持ち生き残ったとしても、無限増殖するスケルトンや、圧空穿と圧空潰の猛攻の前に立っていた者は一人としていない。
鍵の男と不死鳥の娘。
その二つを同時に、無傷で手に入れようとした驕りが自身を追い詰める原因になったことはリッチ自身理解していた。
しかし後悔はない。それが正しい目的だったからだ。
それに、追い詰められているとはいえ、圧倒的に実力も実戦経験もリッチの方が上だ。
敵は全員、自分が左腕でしか魔法を放てないと勘違いしている。
そう見えるように今まで振る舞ってきたからだ。魔力駆動となった身体は、魔力につながってさえいれば、どこからでも魔法を放てる。
<……零下奔葬>
広範囲に渡る強力な術を不意打ちで発動できれば、その一撃で自分の勝利となる。
火の鳥の力が弱まる凍てつく風、氷の奔流。それをぶつけてやれば……。
「――フェルシェイル!吉中!リッチは何か別の魔法を使おうとしているよ!」
突如、骨の山からリヨリが立ち上がり大きな声で叫んだ。
「リヨリ!?」「リヨちゃん!」
「いいから早く!左腕以外!防御して!」
リヨリの声と同時に、フェルシェイルは炎の壁を張り、吉中は暴風を巻き起こし炎の壁でリッチを覆う。
リッチが魔法を発動させ終わるのとほとんど同じタイミングだった。
囲む熱気と膨れあがる冷気がぶつかりあい、リッチの周囲がホワイトアウトする。
吉中は一つ目の石版が壊れると同時に二つ目を発動させる。石版は残り二つ。
フェルシェイルの身体が揺らぐ。火の鳥の生命力で賦活しているとはいえ、さすがに長時間使いすぎたのか限界を近くに感じる。
「……いくよ、お父さん」
リヨリが駆け出す。その手の中に、光り輝く刃。
「リヨちゃん!あぶないわよぉ!」
「あの剣は……流転刃?あの光は一体……」
ナーサが叫び、マルチェリテはリヨリが握る剣を見てつぶやいた。
<オオオオオオォォォォッ!!>
リッチの雄叫びと共に白い蒸気がかき消えた。暴風を巻き起こし、相殺したのだ。
リヨリの身体を燃えるような熱気と凍てつく冷気が打つ。
リッチのギラギラと血走るように輝く瞳が、リヨリの姿を捉えた。




