勝機
飛来するリッチは吉中に向けて一直線に舞う。
「うわっ!」
その顔は骨とは思えないほど強く怒りの感情を表していた。
一度ならずとも二度までも逃げ、あまつさえ右腕を奪い取る。絶対に許さない、そう言っているようだ。
吉中は恐怖を感じる。なんとかしなければ殺されるかもしれない。
「ベルキドア!」
片腕となった人形が、残った右腕のサーベルで迎撃する。だが、リッチが左腕で薙ぎ払うと風が巻き起こり、ベルキドアは風圧で吹き飛ばされた。
残った矢が矢筒から落ちる。ベルキドアは店の壁に叩きつけられた。身体が大きくきしむ。
フェルシェイルが炎を放つ。
しかしそれもリッチの身体を燃やすには至らない。
フェルシェイルのことは無視し、防御力場で炎を防いだまま、吉中めがけて突っ込んでいく。
吉中は鞄をあさり、あるだけの串をまとめて握り、骨の右腕で触れた。
練習していただけあって、串はかなりの応用が効くようになっている。
一本ずつの串は融けてまとまり、一本の太い串となる。
金属の性質を使った魔術式ゆえに、形を変える操作の延長線上で融かすことができたのだ。
「くらえ!」
リッチに向けて串を伸ばす。
串は反動とともに一気に長さを増し、リッチを急襲する。
リッチに当たる刹那、リッチが反転し、空中で静止した。
吉中に近づくのを躊躇しているようだ。
「え!?かわした?」
今までにないリッチの動きに、リヨリの驚きの声が響く。
吉中はリッチから集中を切らさずうなずいた。
「さっきこれを奪い合った時に感じたんだ。リッチの身体は、空気の膜で覆われている」
「なるほど……だからリヨちゃんのナイフは通らなかったし、リッチは空気の攻撃魔法だけを使っていたのねぇ」
脆い骨の身体を保護するため、リッチは常時空気の圧力で身を固めていた。
それは物理的な衝撃への防御となり、空気の攻撃魔法を放ちやすくする。さらには筋肉の無い骨の肉体を動かしやすくする効果も持つ。
あらかじめ固めた空気を使えるため、他の魔法を使うよりも少ない魔力と時間、小さな動きで放てる、攻防一体の効果だったのだ。
「でも、今ならその魔法を無効化できると思う」
吉中が右手に握った右腕の骨を見つめる。
赤いラインは脈動し、力が通っていることを示す。
元がリッチの身体であり、リッチとつながっていたこともあって、リッチ本体への干渉も可能だということが吉中は直覚していた。
空気の壁を貫通するよう串に力を込めて放ち、リッチはそれをかわした。どうやら読みは正しいようだ。
「じゃあ、次は吉中の攻撃を当てなきゃだね」
勝機が見えた。吉中の言葉に、全員の希望が膨れ上がる。
リッチは左腕に力を込める。怒りに歪むその表情は、目的が変わったことを示唆していた。




