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空中戦

「吉仲!」「吉ちゃん!」


リヨリとナーサの声が吉仲に聞こえる。吉仲は無我夢中で鞄に手を突っ込む。

空中に投げ出されたとはいえ、銀の棒を突き立てたことで衝撃は軽減され、浮いているような状態だった。


「あっ……わわっ……」


鞄に突っ込んだ手に、細長い物が当たる。慣れた感覚。ロープだ。

吉仲はロープを取り出す、しかし、魔力がないと自在に動かせないことに気がついた。


リッチは吉仲を(とりこ)にしようと左手を伸ばす。

左手で捕まったら、吉仲になす術はない。


無我夢中でロープを投げる。もし右腕に当てられれば、魔力が通るかもしれない。

しかし、その前に左手に捕まりそうだ。


吉仲は左手で骨とロープを握ったまま、他に何か無いか探す。ポーションの瓶、違う。魔除けの鈴、違う。最後の一個の爆弾は見つからない。


リッチの巨大な左手が吉仲の眼前に広がった。指一本でも子供の身の丈くらいはある。

その巨大な掌が広がる様子は吉仲に逃げようがないことを実感させた。


吉仲は、思わず目をつぶる。


「――わっ!」


しかし、リッチの冷たい骨の掌の感触はなかった。


ロープを握りしめた右手が、急激に引っ張られたのだ。

手に巻きつく形になっていなければ、勢いでロープを離していただろう。


リッチの左手が空を切り、吉仲にロープの先が見えた。


回転しながら飛ぶ木の矢がロープを巻き込み飛んでいる。

矢はそのままリッチの右腕をかすめた。


吉仲が必死で念じるとロープは意思をもったかのように動き、木の矢から離れリッチの尺骨(しゃっこつ)に巻きつく。


ベルキドアの魔法の矢だ。マルチェリテが命令し、渦巻く風の魔法でロープを巻き込む形で射抜いたのだ。


<……こノ……木偶(デク)ガッ!!>


リッチが空を切った左手を握り締め、振り下ろす。

その声は、怒りの感情がむき出しだった。


体勢を崩したベルキドアは、二撃目をかわすことができない。


「ベルキドア!」


弓を構えた姿勢のまま空気の槌をモロに受け、ベルキドアの左腕が粉砕された。

腕がひしゃげ、弓が折れる。左腕は粉々の木片となった。


ベルキドアはその衝撃のまま地面に墜落した。マルチェリテが慌てて駆け寄る。


弾き飛ばされたサーベルは折れることなく照明を受けキラキラと回転し、店の天井に突き立つ。


吉中には、それらは見えていない。

必死にリッチの橈骨(とうこつ)にしがみつき、上腕部の銀の棒を目指す。


めいっぱい手を伸ばすが微妙には届かない。あと、三十センチの距離が遠い。


「クソっ……クソっ……」


少しずつ体を前に出し、銀の棒に触れる。触れる、なんとか掴むことができた。


「これで……」


魔力が通る感覚。リッチの右腕の赤いラインが脈動する。

無作為に流れる血の川にも見える。


「どうだ!」


銀の棒が、光を放った。



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