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膠着

煙が少しずつ晴れ、両腕を構えたリッチが姿を現す。

かなりの爆発だったが、右腕は無傷だった。だがそれでも爆発の衝撃によって右腕の赤い光がゆらぐように、脈動するように光を放つ。


フェルシェイルが全員の前に立ちはだかる。リッチもすぐには手を出してこない。


魂に作用する呪いは生命の炎で、それ以外の魔法やスケルトンの増殖は通常の炎でかき消せる。

フェルシェイル自身の限界が来るまでなら確実に対抗できる。ただしフェルシェイルが攻撃をしても同じように通らないが。


そして、それはリッチにも分かっていた。

場の魔力をいたずらに消耗するのは、リッチとて避けたい。


存在を魔力に依存しているため、魔力が減ればリッチの思考や能力は低下し、やがて休眠状態となる。そうなれば無防備だ。


もっとも場の魔力を消費し尽くして、休眠を狙うのは吉仲達にも危険だ。


リッチの目的が吉仲や不死鳥の精紋から生存に切り替わった瞬間、どんな手を使ってでも無差別に殺しにかかるだろう。

目的が何よりも優先する以上、そこに未練も躊躇(ちゅうちょ)も存在しない。


休眠に陥る前に全員を殺して安全を確保し、また次の機会を、永劫の時をただ待つだけだろう。


戦況が、膠着(こうちゃく)状態に陥る。


「問題は、どうやって吉ちゃんを近づけるか、ねぇ……」


吉中が銀の棒を握りしめる。目標は、これをリッチの右腕に当てること。


「下手に近づいても、また捕まるだけでしょうしね。場の魔力も確実に目減りしていますし……」


この階層から下のダンジョンの魔力は、四つ辻を通してこの広間に集中しているのだろう。

入った時は、上の階層では感じられないほどの魔力が満ちあふれていたが、今は少し陰りを感じる。


「それにナイフも通らないし、あの爆発でも無傷だよ?大丈夫なの?」


リヨリは山刀を握り、リッチを睨む。だが、攻めあぐねる状況は彼女を少し心細くしているようだ。


「……マルチェ、アンタの人形で飛べないかしら?」


「え?フェルさん、ベルキドアに飛ぶ機能は……」


ふりかえったフェルシェイルの微笑みを見て、マルチェリテはフェルシェイルの真意を理解した。


アタシが飛ばす。そう言っているのだ。


「え、ええと……うう……」


マルチェリテは歯切れの悪い返事になる。

たしかに冷静に考えてみればそれが今使える手の中では最善の方法かもしれない。


フェルシェイルの炎の勢いで、ベルキドアと吉中を飛ばし、ベルキドアが吉仲の動きを制御する。

もっとも、大事なベルキドアを火にさらすことを恐れなければ、だが。


「マルチェちゃん、これぇ」


ナーサが黒い布を渡してくる。フェルシェイルの爆炎でスケルトンを消滅した時に使った火除けの布だ。

フェルシェイルがうなずいた。さすがに彼女も直接燃やすことは考えていないらしい。


マルチェリテが心配そうな目でベルキドアを見る。

自分の大切な木製の人形を火にさらすことへの抵抗感がぬぐえない。しかし、マルチェリテの中の冷静な自分(エルフ)もまた覚悟を決めろと言っていた。



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