祭壇と廃墟
吉仲は、信じられないものを見るように祭壇と平屋の建物を交互に眺める。
中心にある祭壇からつながる建物は、吉仲がバイトしていた牛丼屋だ。
まさかとは思っていたが、店があることも想定の範囲内だ。ありそうな気がしていた、という程度ではあったが。
だが、その店は廃墟となっている。思わず店に近づき中をうかがう。
店の中は暗かったが、カウンターや什器がそのまま残っているのは見えた。吉仲がここに来る前とほとんど変わらない。
だが、看板やレジなどは無い。つい最近閉店し、打ち捨てられているという風情だ。
そして、店の入り口からは他の壁と対称的な白い床石が敷き詰められ、祭壇へ続いている。
「どういうことだ……」
吉仲は戸惑いつつつぶやく。黄色い光に照らされた祭壇中央の髑髏の山は、まさしく供物。
ただし数えきれないほどの頭蓋骨が無造作に積まれた光景に荘厳さは無く、どちらかというと奇祭の趣だ。
まるで、店から出たものを機械的に提供しているようにも見える。吉仲は全身が寒気と不安で鳥肌が立っていた。
「吉ちゃん!勝手に歩き回らないの!」
取り憑かれたように廃墟と祭壇を眺める吉仲の後ろに、ナーサとマルチェリテの人形、ベルキドアが走ってくる。
ナーサは鞄の留め金を外し、ワンドを手に持っている。ベルキドアはサーベルを抜き臨戦体勢だ。
これまでにない、ただならない魔力を感じたのだ。
四つ辻が、中央の祭壇に魔力を収束させる魔法陣だとナーサとマルチェリテが気づいた瞬間、祭壇の魔力が脈動したのだ。
危険だ。一人惚けている吉仲を守る必要がある。
フェルシェイルも異様な魔力に気づいたらしい、リヨリとマルチェリテを守るように前に立ち、炎をまとう。三人の視線は、祭壇の上に向けられている。
吉仲もようやく、祭壇で起こっている異変に気付いた。
暗い空間になお一際黒い、無数の染みが浮かぶ。黄色い照明に照らされた宙に穴が空いたようだ。
染みはゆったりと渦巻き、やがて一つの穴を形成する。
渦は加速を続ける、大きくなっていく。吉仲には、ブラックホールのイメージにも見えた。
最大まで大きくなった穴が急速に縮まる。それきり見えなくなった。突如現れた物体に視線が塞がれたのだ。
黒いボロ布が、穴の前にそびえたつ。
<……ようやク……現れたカ……待ちわびタ……>
全員の脳内に声が響く。地鳴りのように低く、くぐもった声。
ボロ布に人の身の丈の数倍もあろうかという、巨大な骸骨がくるまり、眼窩に浮かぶ真紅の光が吉仲を見据えていた。
ボロボロとなった漆黒のローブを見にまとった怪物だ、その姿は死神にも見える。
ローブは宝珠で装飾されているが、宝珠はことごとくくすみ、割れている。
下半身はなく、ボロボロの腰椎が力無くぶら下がっているのみだ。
右腕もなく、そこからは黒い煙が噴出している。おたまが鳴った。
「スケルトン……?死神……?」
理解の追いつかない吉仲をかばい、ナーサとベルキドアが身構えた。
「――リッチ!」




