灼熱
熱のこもった階段を急ぎ足で降り、ベルキドアとマルチェリテを先頭に、五階層に吉仲、リヨリとナーサが到着する。
階段から離れると四階層が嘘と思えるほど涼しく、熱を浴び続けた四人全員、水中から地上へ出たかのように荒く呼吸をした。
それと同時に、階段の上から閃光が漏れ、外のような明かりが廊下を照らした。
ごうっと炎の音が轟く。炎の音が遠ざかるとともに何かが爆ぜる、パチパチという乾いた音も響いた。
一拍遅れて、四階層にいた時とは比べものにならないほどの熱風が階段から吹き抜ける。
とても折れ曲がった階段の上から、逆の方向に炎を放ったとは思えない突風の勢いだ。
階段の近くにいたら間違いなく大火傷だったろう。
「熱っつ!熱っつい!なんだこれ!」
それでも階段の一番近くにいた吉仲は熱風を浴び、叫ぶ。階段横にあった水場の水を頭からかぶった。
「フェルシェイル!?大丈夫なの!?」
「ここまでの熱を放出できるなんてねぇ……」
吹き荒れる熱風を浴びて、全員、汗が吹き出してきた。
階段の上からは止めどなく小さな物体が落下する音と、燃焼音が聞こえる。
おそらくスケルトンが崩れ、鎧が焼ける音だろう。
そして、やがてチリチリという微かな音を残し、無音となった。
「私も、全開で精紋から炎を放つフェルさんは初めてです……見てみたいけど、多分防御無しでその場にいたら、焼け死んじゃうでしょうね」
マルチェリテの言葉に、リヨリと吉仲が上を見る。フェルシェイルは無事だろうか?
階段を急ぎ足で降りてくる音が聞こえてくる。
「あー全然ダメ。結構奥まで焼き尽くしてみたんだけど、アイツらまだまだいるわ」
急ぎ足のフェルシェイルが階段を降りてくる。吉仲達と違って涼しい顔だ。
むしろ、今まで使ったことのない全力全開の炎を放てたからか、言葉とは裏腹にどこかスッキリとした表情をしている。
解き放った炎は爆発的な破壊力を持ち、スケルトン達は粉砕されつつ最奥、四階層の入り口まで吹き飛ばされていた。
だが、それでもしばらくすると再びスケルトンの軍勢が近づいてきたという。
生命力を操らず、火の鳥の精紋から炎を呼び出す分には、フェルシェイル自身は体力も精神力も使わない。
とてつもなく莫大な力を解き放った手応えと快感のみが彼女にはあり、もう一度撃ってみたい欲求もあったが、ひとまず仲間と合流することにしたのだ。
「……いる、というより、湧く、かしらぁ?」
ナーサがマルチェリテに尋ねる。マルチェリテは頷いた。
「何らかの魔法で生成されていることは間違いないでしょうね。術の大元を絶つまで、あるいはダンジョンの魔力を食い尽くすまでスケルトンが無限に現れ続ける可能性もあります」
無音だった四階層から、微かにがしゃりがしゃりという音が聞こえてくる。
「術の大元って……」
浴びた水をぬぐい、吉仲がダンジョンの奥に目を向ける。
五階層も薄暗い廊下が伸びている。
「多分、お父さんを殺した魔物……ってことだよね……」
リヨリも吉仲と同じ方向を見てつぶやいた。その声は、恐れを感じまいと勇気を奮い立たせる響きがある。
ナーサが頷いた。マルチェリテとフェルシェイルがいても危険な戦いになりそうだ。
それでも、先に進むより他にない。